「 私たちはなぜ「国基研」を作ったか 」
『週刊新潮』'08年1 月31日号
日本ルネッサンス 第298回
昨年12月、志を同じくする人々とともに、私は国家基本問題研究所(国基研)を設立した。英語名をJapan Institute for National Fundamentals(JINF)という。純民間で、いかなる組織にも縛られない完全に独立した政策研究所である。
これはずっと長い間の私の夢だった。戦後日本の、国家とはいえない在り様を、どう立て直していけるのか、そのために、日本人は何をすればよいのか、国際社会で日本に相応しい地位を得るにはどうすべきか、日本の姿や歴史は歪曲されてきたが、真の日本理解を醸成するにはどんな情報を、世界に発信していけばよいのか。一連の問いが、始終、私の心と頭を駆け巡ってきた。その度に記事を書き、訴え続けてきた。その延長線上に、設立したばかりの国基研がある。
国基研のウェブサイト(http://jinf.jp/)に掲載した趣意書のとおり、長年の想いをいま具体化した直接の動機は、現在の日本に対する言い知れぬ危機感である。緊張が高まり、不安定化する国際社会が一方にあり、そのような状況とは無関係で極楽トンボのような日本の姿との、絶望的な乖離に私は慄然とする。
日本国憲法に象徴される戦後体制のままでは、日本が直面する問題にもはや対処出来ない。誰の目にも明らかな致命的な日本国の欠陥について、しかし、国会は何ら論じようとはしないのだ。
現国会では、与党も野党も国民生活重視を掲げ、ガソリンの税率を主要議題とする構えだ。国民生活が大事なのは言うまでもない。しかし国民生活を支える国家の在り方について、一体この空白は許されるのだろうか。国家不在の状況が続けば、米国や中国、或いはその他の国々の戦略に呑み込まれて、ガソリン税率とは比較にならない深刻な打撃を日本は受けるに違いない。
だからこそ、日本は、自らの国と国民を、自らの叡智で守り抜く真の自立国家に、一日も早く、成長しなければならないのだ。その知恵を、穏やかながらも毅然としたかつての日本文明の源泉から掬い上げ、今日の日本に再生したいと願うものだ。
北朝鮮政策の過ちとは
国基研の中核をなす田久保忠衛氏らとともに私たちが目指すのは、真の責任ある自由に裏打ちされた民主主義国家の確立である。右のファシズムにも左のファシズムにも与せず、日本国を誇りをもって支え、責任ある自由思想の徹底によって個々人の力を最大限にひきだす。その力がまた、日本国の堅固な支えとなる。闊達な国民と誇りある国家の活躍は必ず、広く、深く、国際社会にも貢献するだろう。
こんな想いで準備を進め、ささやかな船出に漕ぎつけた。長期、中期の研究課題に加えて、私たちはジャーナリスティックに現在進行中の緊急課題についても、果敢に提言していくつもりだ。
第一回緊急提言を1月21日、東京有楽町の外国特派員協会での記者会見で発表した。テーマは米国の北朝鮮政策の過ちと日米関係である。
周知のように、米国はこの1年間、北朝鮮に急接近してきた。拉致を続け、麻薬と偽札を製造し、核関連物資や装備を密輸する国はテロ支援国家だとして、ブッシュ政権は北朝鮮を制裁した。しかし、その後、北朝鮮政策の大転換をはかり、金融制裁を解除し、テロ支援国家指定も解除寸前である。
米国の北朝鮮外交は矛盾に満ちている。米国輸出管理法は、テロ支援国家指定解除の要件として、①過去6か月間、国際テロを支援していない、②将来も国際テロを支援しないことを保証した、の二条件を規定している。
だが、めぐみさんをはじめとする拉致被害者は北朝鮮に拘束されたままで、拉致というテロは継続しているのだ。また北朝鮮は米国が同じくテロ支援国家に指定する国、シリアに秘密裡に核物質を密輸している疑いが濃厚だ。また、それ以前に、北朝鮮が公約した「核計画の完全かつ正確な申告」も寧辺核施設の「無能力化」も十分には実施していない。であれば、北朝鮮の指定解除は、米国国内法、輸出管理法違反になる。加えて、米国外交はダブルスタンダードの汚名を着ることになる。
かつてリビアは核開発を目論み、米国は同国をテロ支援国家に指定した。リビアは、しかし、2003年に核開発放棄を宣言し、自国に貯蔵していた濃縮ウランの原料となる6フッ化ウランや、ウラン濃縮に用いる遠心分離機に加え、ミサイル関連機材のすべてを米国に引き渡した。米英合同チームの査察に全面的に協力し、1988年にリビアの情報機関が関与したパンナム機爆破事件の犠牲者の遺族に補償金も支払った。
こうして、リビアは06年に漸く、テロ支援国家指定から外された。米国は、実に3年間にわたって、平身低頭するリビアを調べあげたのだ。他方、北朝鮮に対してはどうか。
未来を担う人材育成を
前述のように北朝鮮はシリアに核関連物資を密輸している疑いが濃厚だ。昨年9月3日、北朝鮮の核物質を積んだ船がシリアに入港したことが軍事衛星写真で確認された、と報じられた。3日後の9月6日、イスラエル軍がシリアの核疑惑施設を空爆した。本来ならこれが火種となって大きな軍事衝突につながり、中東情勢の大激変が生じてもおかしくない事態だ。にもかかわらず、米国も当事国らも、何事もなかったかのように平静を保った。余りにも不可思議だ。その背景事情はつまびらかにされてはいないが、確かなことは北朝鮮による核技術及び関連物資の拡散の危険が否定出来ないことだ。
にもかかわらず、繰り返し強調するが、米国は性急に北朝鮮をテロ支援国家から外そうとしているのだ。日本政府は、拉致問題を置き去りにするかのような米国の二重基準外交が如何に日米同盟を損ねるか、日本における米国への信頼が薄れれば、軍事力のより一層の整備を含めて、あらゆる意味で独自の力で日本を守る手立を考えなければならなくなる。核を保有した北朝鮮の脅威から日本を守るには、同等の力を持つべきだとの議論も当然出てくるだろう。日米関係の本質に深く関わる米国外交の変化のもたらす影響について、日米同盟を重視すればこそ、日本は米国に真剣かつ誠実に伝えなければならない。
こうした提言を、私たちは米国上下両院の全議員、主要シンクタンク、日本研究者、オピニオン・リーダーらに送った。また、日本の衆参両院全議員に送った上で、外国特派員協会での記者発表に臨んだのだ。
私たちの活動は始まったばかりだ。これから10年20年をかけて、未来を担う人材を育てあげ、国家の直面する基本的な問題に果敢に挑み、日本と世界に貢献したいと思う。
青山繁晴さんの非核武装論
約一年振りのエントリになります。ご無沙汰しておりました。グルー氏の滞日十年も滞ったままで、心が痛みます。この春のFree Tibet, China Free! についても書きたいことがいっぱいあった…
トラックバック by 我々は何者か — 2008年05月28日 16:08