「 日本の首相が米国から冷遇される理由は国益なき“中国シフト”外交にある 」
『週刊ダイヤモンド』 2008年1月12日新春号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 722
2007年の暮れ、韓国大統領選挙で李明博氏が圧倒的な勝利を収めた。保守派というより、現実を正確に読み取ることのできるマキャベリストである。盧武鉉大統領の下で左傾化し北朝鮮に併呑される危険性さえあった韓国は、李新大統領の下で政治的、外交的再生を果たすことができるだろう。
氏は12月19日の当選確定の翌日、日米両大使と立て続けに会談した。当選翌日に大使と会談するという異例の行動で、盧大統領が徹底的に否定し過小評価した日米両国との関係を、新政権は重視するのだという決意を、内外に知らしめたのだ。北朝鮮、ひいては中国重視の外交からの鮮やかな転換である。朝鮮半島がなし崩しに北朝鮮化する危険性が潰えたことは、日米を重視し、中国に深入りしないという外交姿勢の確立でもある。
政治の流れを一変させた韓国と対照的なのが台湾だ。08年3月の総統選挙で、人口の85%を占める台湾人の政党、民進党の謝長廷氏と中国から渡来した外省人の政党、国民党の馬英九氏のどちらが選ばれるかで台湾の進路は大きく変わる。馬氏が新総統となれば、中国は武力を行使せずとも、台湾の独立を防ぎ、台湾を事実上 併合することが可能になると思われる。
その場合の日本への影響は計り知れない。台湾海峡もバシー海峡も中国の内海となる。現在、世界一親日的といわれる台湾の世論が、激しい反日に傾くことも十分に考えられる。
かつて蒋介石は、日本の政界に深く食い込み、日本人との太い絆を有した反面、台湾においては徹底した反日教育を施した。馬氏は親日姿勢の一方で、対日歴史認識は中国政府同様、きわめて厳しい。氏は蒋介石と同様のメンタリティを持つのではないか。状況次第で対日歴史カードを切って迫ることさえ、私たちは考えなければならない。
台湾人にとって、馬氏の総統就任は国を失うことにもなる。だからこそ、次の総統には台湾人で中国に傾かない人物を選ぶことがあらゆる意味で重要なのだ。台湾にそれができるか。危惧せざるをえない。
そして、もっと心配なのが、じつは私たちの国、日本である。
福田康夫首相の外交は、基盤ができていない。07年11月15日に訪米した首相の外交は、中学生並みだった。インド洋での油と水の補給再開や牛肉輸入の件は話し合った。拉致問題はブッシュ大統領側が切り出した。これら個別案件を語った日米首脳会談は、わずか一時間で終了した。
当欄で指摘してきたことだが、同じ月に訪米したサルコジ仏大統領、メルケル独首相は、それぞれ破格の待遇を受けた。サルコジ大統領は初代大統領ジョージ・ワシントンの居住したマウントバーノンに、メルケル首相は夫とともにブッシュ大統領私有の牧場に迎えられた。欧州の両首脳は長時間をブッシュ大統領と過ごし、イラン問題を中心として世界戦略を語り合った。福田首相はホワイトハウスの会議室で、先述のとおり、一時間、会談をした。
帰国後、首相はいみじくも語ったそうだ。「自分は冷遇されたのではないか」。そのとおり、日本が冷遇されたのだ。首相は、その理由が日本外交の中国シフトにあると気づかなければならない。尖閣諸島と東シナ海、南京歴史博物館と歴史問題、中国軍事力増強の継続などから明確に読み取れるように、微笑しても中国の本質は不変だ。この点を現実として冷徹に見つめることが重要だ。日本の国益を考えれば、中国傾斜の外交は許されない。
国益を重視すれば、日米関係こそが重要なのも明らかだ。日本の指導者の必須要件は中国に傾かないということだ。そのような人物を、福田首相の後継として選ばなければならない。はたして私たちにそれができるか。そう考えれば、08年、じつは最も懸念されるのが、日本の政治なのである。