「 官僚と業界の腐った関係にメスを入れる「官民人材交流センター」の無力化を懸念 」
『週刊ダイヤモンド』 2007年11月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 714
10月29日、衆議院テロ防止特別委員会で行われた守屋武昌前防衛次官の証人喚問は、防衛省の抱える問題の根の深さを痛感させた。
省にもなれず、長年肩身の狭い思いをしてきたのが防衛庁だ。それは他省の出向組が、防衛庁に対して格が違うと、無言で示し続け、〝参事官〟として自衛隊員の頭上に立ち、日本の安全保障政策を決定してきた日々でもある。
防衛省の直面する根本的な問題のひとつが、まさにこの参事官制度だった。彼らは大臣に直属し、大臣と防衛省を分離する形で、下からの、つまり、防衛省の意見を阻んできた。安全保障政策は、参事官が決定し、防衛省の考え、特に現場をよく知っている軍人たちの見解が全く容れられないことで、政策は非現実的なものになりがちだった。
2003年7月、防衛庁生え抜きとして次官に就任した守屋氏は、本来ならば、各地で日夜、日本のために汗を流している隊員たちの実情を、誰よりもわきまえなければならなかった。それが省生え抜きの人材の最低限の責任だった。
しかし、証人喚問で出てきたのは、自分さえよければよいという、絵に描いたような身勝手で卑しい考え方だ。氏を違法に接待し続けた山田洋行は、昨年度までの5年間で約170億円の装備品を受注していた。これら一連の発受注の見返りが、妻と共に、偽名でプレーしたゴルフであり、飲食の数々だったわけだ。
さらに、詳細はこれから明らかにされていかなければならないが、氏は、退官後も、日本の安全保障〝業界〟を支配し、その利権にあやかろうとした節がある。沖縄、グアム、防衛産業の受発注。一連の利権の構図が、氏の人脈をもとに築かれつつあったと言ってよいだろう。
イラクやインド洋で働く隊員たちの苦労や、憲法九条という歪な制約を科せられて自立さえできない日本国の現状への憂いなど、氏の行動からはいっさい、うかがえない。だが、自分の利益だけを追い求めるのは、防衛官僚に限らない。日本の官僚全体の問題である。
たとえば、厚生労働省で薬務局長などを務めた正木馨氏は、薬害エイズ問題にも無関係ではないにもかかわらず、退官後、複数の法人を渡り歩き、2億9,000万円以上の報酬と退職金を得た。厚労省は薬害エイズ問題で〝深く反省〟し、〝二度と薬害は繰り返しません〟と誓ったにもかかわらず、薬害C型肝炎でも同じ過ちを犯している。
省を問わず、官僚の体質は改まりはしない。最大の理由は退官後、関連業界の複数のポストを渡り歩いて巨額の報酬を得る天下り制度があるからだ。
守屋氏は現役時代から明らさまな形で業者と結びついた。だが、現役時代に誰の目にもとまるような形で卑小な楽しみを追い求めなくとも、前述の正木氏のように、他省の多くの官僚たちは退官後にまとめて利益を手にする術を心得ている。そのためには、なんといっても業界の利益の擁護者に徹することが条件だ。そこから国民を犠牲にして業界の利益を擁護する薬害エイズや薬害肝炎が生じた。
だからこそ、真に国民と国家のための政策を行わせるためには、官僚集団と業界の腐った関係にメスを入れなければならないのだ。その尖兵の機能を果たすと思われたのが、国家公務員の再就職斡旋を一元化する「官民人材交流センター」だ。
ところがい今、同センターの制度設計を検討している有識者懇談会が、福田康夫内閣の下で紛糾している。懇談会は「渡りの禁止」をはじめ、天下りに関する厳しい規制を盛り込む方向で議論を進めてきた。そこに町村信孝官房長官が介入し、一連の厳しい措置の削除を指示したのだ。結果として、渡りの禁止に加えて、独立行政法人への天下りの制限強化、それに新人材バンクが発足してからも、懇談会が監視するという三点が削除されつつある。
事の顛末を見届けなければならないが、これでは福田内閣は官僚の不祥事を温存する内閣になり果てるだろう。