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2007.03.22 (木)

「 同盟国ゆえ、敢えて米国に問う 」

『週刊新潮』 2007年3月22日号
日本ルネッサンス 第256回

米国下院外交委員会に上程された慰安婦問題に関する対日謝罪要求決議案は、もし成立すれば、米国外交史における汚点となるだろう。なぜなら、同決議案には公正さも真実性も欠けているからだ。他国の名誉に関する事柄について、第三者としての米国議会が一方的な主張に基づいて断罪するとしたら、それは大いなる間違いである。少々長くなるが、米国下院の決議案を見てみよう。

そこにはまず、「日本帝国陸軍が直接的及び間接的に」「若い女性の隷属」「誘拐を組織することを許可した」と書かれている。「慰安婦の奴隷化は、日本国政府によって公式に委任及び組織化され、輪姦、強制的中絶、性的暴行、人身売買を伴っていた」とも強調する。

慰安婦の中には、13歳の少女もいたと書かれ、彼女らは、「自宅から拉致された」りしたというのだ。さらに「20万人もの女性が奴隷化され」「多くの慰安婦は、最終的には殺害されたり、交戦状態が終了した際には自殺に追い込まれた」、その結果、「(女性たち)の内僅かしか今日まで生存していない」とある。

そのうえで日本政府は「歴史的責任を明確に認め、受け入れ」、「この恐ろしい罪について、現在及び未来の世代に対して教育し」、「慰安婦の従属化・奴隷化は行われなかったとするすべての主張に対して、公に、強く、繰り返し、反論し」、米国下院の主張する慰安婦のための「追加的経済措置」について国連やNGOの勧告に耳を傾けよというのだ。
しかし、戦時中の資料を、事実を謙虚に見詰める姿勢で読めば、米国下院の決議案は決定的に間違っている。そもそも゛慰安婦20万人説〟の根拠はなにか。゛南京大虐殺30万人説〟と同じく、20万人の女性達が性的奴隷化されたとの指摘には根拠も事実もない。20万人というのは北朝鮮などの主張そのものである。

歪曲された゛歴史的事実″

日本国政府と日本帝国陸軍が若い女性達の「組織的誘拐を許可した」と非難するが、実態は逆である。たとえば、昭和13年3月4日に出された「軍慰安所従業婦等募集に関する件」(陸支密第七四五号)は、「軍部諒解等の名義を利用し」「軍の威信を傷つけ」「一般民の誤解を招く」ような不法な女性の集め方をしている業者が「警察当局に検挙取調を受」けている事例を警告し、素性の明らかな斡旋者のみを許可せよと指導する内容だ。

また、13歳の少女さえも強制的に慰安婦にしたと、米国の選良たちは主張し、その一方で、この酷い非難の根拠も示してはいない。

だが、これも事実とは異なる。昭和13年2月23日の「支那渡航婦女の取扱に関する件」(内務省発警第五号)は、慰安婦として渡航するには「現業が娼婦、年齢が21歳以上」でなければならない、身分証明書の発行には近親者の承認を要するとし「婦女売買又は略取誘拐等の事実なき」ことを求めている。米議会は、日本政府の姿勢と当時の事実を一方的に歪曲するのか。

米国議会はまた20万人の女性たちが日本の敗戦時に「殺害され」「自殺に追い込まれた」と主張するが、そのような事実は一体どこにあるのだろうか。20万人といえば、昭和20年3月10日の東京大空襲で焼き殺された人々の約2倍、広島の原爆の犠牲者よりも尚多い。そのような゛大虐殺〟を日本政府と日本軍が行ったと主張するのなら、公正を期すために、非難の根拠を示す責任がある。

今回の下院決議案はどう考えても、開かれた国、民主主義の国、法の支配を尊重する国としての米国には相応しくない。決議案の提出にマイク・ホンダ議員が深く関っていることは周知だが、私は同議員が関った過日の対日賠償請求問題を想起せずにいられない。日米関係の専門家、田久保忠衛氏が指摘した。
「99年7月、米カリフォルニア州議会で『賠償・第二次大戦、奴隷的な強制労働』という条項を含む民事訴訟法が成立しました。ナチス・ドイツ時代のユダヤ人強制労働に対する賠償請求かと思えば、なんと、彼らは『ナチス政権、その同盟国』との表現で日本を訴追の対象に含めたのです。同法成立からひと月後、同州議会はマイク・ホンダ議員が提出した第二次世界大戦時の日本軍による戦争犯罪に関する下院共同決議を採択しました。それはアイリス・チャン氏の『ザ・レイプ・オブ・南京』を全面的に肯定して日本を貶める、おどろおどろしい内容でした。ホンダ議員らは、日本の歴史的責任は現在米国で活動中の日本企業が果たすべきだとして、2010年まで、対日企業賠償請求訴訟を起こすことが出来ると定めました。日本企業に求められた賠償金額はなんと1兆ドル、120兆円に上りました」

理不尽な非難に屈するな

ユダヤ人の消滅を国策としたドイツと日本が一緒にされる理由は、断じてない。公正さも国際法も無視したあの東京裁判においてさえも、連合国は日本を゛人道に対する罪〟で裁くことが出来なかった。当時でさえ、日本をドイツと同列視して裁く理由や事実は見出せなかったのだ。

凄まじい偏見、日本を貶めたいという強い意図。その上に立って対日企業賠償請求訴訟を法制化したのがホンダ議員であり、今回もまた、同氏が深く関っている。

それにしても、米国人は慰安婦問題や戦争における反人道的行為について日本を責める資格があるのだろうか。毎日新聞の政治記者で編集局長、東京本社代表まで務めた住本利男氏の『占領秘録』を、米国国民にこそ伝えたい。毎日新聞社から昭和27年に出版された同書には、占領軍として全権を握った米国軍が、日本政府に米兵用の慰安所を設けよと迫った場面が描かれている。
「米軍が横浜に進駐したその晩に、早くも佐官級の人々がジープを飛ばして東京にきた。そして丸の内警察を警視庁とまちがえてか、女を世話しろ」と迫ったくだりは何を意味するのか。占領下の日本政府に有無を言わせず慰安所を設けさせたのではないか。これこそ米軍による゛強制〟ではないのか。

東京裁判においてさえも詰め切れなかった日本の゛人道に対する罪〟を、いま、米国議会が糾弾するというのなら、一般民衆を無差別に殺した東京、名古屋、横浜など諸都市への空襲はどうなのだ。広島、長崎はどうなのだ。

敗戦によって受け容れざるを得なかった一連の理不尽な対日非難を、これまで私たちは受け容れてきた。それは、敗者は言い訳しないという日本文明の根底を成す価値観ゆえだ。しかし日本文明の美徳とする沈黙も、日米関係を重視するが故の理性も、米国が余りに理不尽な非難を、一方的に展開するのであるなら、崩れ去ることもある。そのとき、両国は共に深く傷つき、双方の国益は損なわれる。日本政府は米国の良識ある人々にそのように訴えよ。

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