「 『集団的自衛権』なくして『日米同盟なし』 」
日本ルネッサンス「拡大版」 第249回
[特集] 緊急提言『日本が危ない』
【第3回】 「 『集団的自衛権』なくして『日米同盟なし』 」
航空宇宙専門誌『エビエーション・ウィーク・アンド・スペース・テクノロジー』(電子版)の1月17日の報道は衝撃的だった。1月11日午後5時半(日本時間12日午前7時半)、中国軍が四川省西昌の衛星発射センタから弾道ミサイルを発射し、高度860キロの軌道上にあった自国の衛星を破壊したというのだ。中国が遂に衛星攻撃兵器(ASAT)の実験に成功したことは、地球のみならず、宇宙規模で新たな軍拡競争が始まる可能性を生みかねない。
「中国はやがて宇宙軍を編成し、宇宙での制空権掌握を目指すでしょう。米国の力を封鎖し、如何なる介入も許さない軍事力を身につけるでしょう」
こう警告するのは中国軍研究の第一人者、平松茂雄氏である。氏の考えは昨年出版された『中国は日本を併合する』(講談社インターナショナル)、『問題と研究』(04年2月号第33巻5号)などですでに明らかにされてきた。氏は、こうした中国の動きは1980年以降中国軍内で議論されてきた「国防発展戦略」から明確に見てとれるという。
「国防発展戦略で彼らは宇宙と深海底を征服する能力が21世紀の国際社会における地位と声望を決すると述べています。未来の超大国は高度に発展した宇宙技術と海洋技術を有する国家であると定義し、それを国家目標としたのです」
国防発展戦略論議には、現在の中国軍のハイテク戦争に対して抱く関心の殆どすべてが網羅されており、同戦略論こそ、中国軍のハイテク戦争志向の原点だ。
そして今、中国は、氏の予見どおり、衝撃的な形で宇宙に軍事力を拡大した。
「正直に言えばその速度は想像以上に速い。21世紀の地球は、宇宙を制する国が制します。その宇宙で、中国の米国への挑戦が先鋭的に示された。今回の中国の挑戦の深刻さを、日本政府は認識しているでしょうか」
軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏が解説する。
「中国のASATの実験は米国の軍事力を第二次世界大戦当時に引き戻すほどの大衝撃です。当時と現在の米国の軍事力の最大の違いは、軍事衛星の有無にあるといっても過言ではありません。米軍が圧倒的優位を保ち得るのは軍事衛星あってこそです。それを無力化しようとして旧ソ連は冷戦期に衛星破壊兵器、キラー衛星を作りました。しかし、財政難から維持出来なくなった。以降、米国の軍事衛星を潰す意図を持つ国は出てきませんでした。しかし、今、中国が米国の前に立ち塞がり、挑戦状を突きつけたことになります」
外交評論家の田久保忠衛氏は、中国のASATにはかつてレーガン大統領が旧ソ連に突きつけたSDI(戦略防衛構想)ほどの重い意味があるという。
SDIは対米ミサイル攻撃を宇宙空間で捕捉して破壊するものだ。機能すればソ連をはじめとする国々の全ミサイルが無力化される。旧ソ連はこれを宇宙への軍拡と非難したが、レーガン大統領は譲らず、計画を推進した。結果として旧ソ連は米国に屈服し、戦略ミサイル及び核の大幅削減に応じた。以来、米軍は唯一の超大国として圧倒的軍事的優位を確保してきた。
“宇宙軍拡”の脅威
今回の中国の動きをどう読むかについては、まだ解明出来ない点もある。米国の抗議にもかかわらず、実験後10日がすぎた今も中国政府が沈黙を守っている点だ。鍛冶氏は、中国政府は実験について知らなかったのではないかと語る。
「知っていれば弁明をするはずですが、それがない。軍の暴走の可能性も否定出来ません。江沢民派の巻きかえし、軍事費のさらなる増額要求の可能性等。胡錦濤政権へのゆさぶりです」
ASATの実験、それが示唆する強硬路線が胡政権の本意でなくとも、同政権が軍部に引きずられ、宇宙で米国に挑戦する路線をとらざるを得なくなる可能性がある。たしかなことは、中国軍が宇宙空間で米国に挑戦する力をつけたことだ。
中華人民共和国の歴史は、米国を凌駕する超大国への道と重なる。平松氏は次のように見る。
「中国は自らを貧しい国、虐げられた国として、その恨みを民族の記憶に刻み込んできました。毛沢東以下、他国の侮りは二度と許さないと決意してきました。だからこそ、03年に有人宇宙船を打ち上げたロケットは『長征』です。中国初の人工衛星は『東方紅』です」
1934年、毛沢東が阡」介石との戦いに敗れて延安に革命根拠地を築くため逃れたあの大敗走が「長征」だった。東の空に赤い太陽が昇り中国に毛沢東が現れたという、文化大革命の歌が「東方紅」だった。毛沢東以来の民族の決意がこめられた命名なのだ。国運を賭けて、彼らは宇宙空間を「第4の戦場」と見做す。
「その考えは03年の有人宇宙船打ち上げ後に生まれています。『中国国防報』などには、宇宙空間は弾道ミサイルの進攻通路になっており、宇宙空間の争奪はミサイル防衛(MD)システムの革命をひき起こす、或いは、宇宙空間は第4の戦場となって地上、空中、海上作戦に深刻な影響を与えているなどという考えが掲載され始めました」
中国は戦場としての宇宙に基地を築き、日米のMDシステムの無力化に力を注ぐだろう。彼らはMDシステムの運用に欠かせない軍事衛星をレーザー兵器で攻撃するところまで進むと考えなければならない。
「遠くない将来、中国は宇宙兵器を装備し、それに関する技術を習得した軍人、専門家からなる宇宙軍を編制して、宇宙での制空権掌握を実現させようとすると思います」と平松氏。
彼らが目論む軍事的支配は宇宙空間にとどまらず、深海底にも及ぶのだ。
「中国軍にとって、深海底、極地の氷層、広大な海域はもはや作戦の障害ではなくなっています。反対に彼らはそれらを戦略的に活用してきました。広大な深海底は戦略的攻撃力、つまり原子力潜水艦がひそみ続けることの出来る最適の場所なのです。中国軍が宇宙の軍事基地建設に事実上踏み出したように、海底に軍事基地を築く日も遠くないと私は見ています」(平松氏)。
重大な挑戦を受けて米国に中国の挑戦を挫く道はあるのか。旧ソ連に軍拡競争を仕掛けたレーガン大統領流の戦略をブッシュ政権がとることは考えられるか。中国が宇宙や深海など、あらゆる軍拡に走り、国内経済が疲弊して自滅することは考えられるか。或いは中国が国際社会から孤立して宇宙軍拡の中止に追い込まれることはあり得るか。
アメリカの致命的欠陥
レーガン大統領の軍拡路線は、共和党内の強い反対にも直面した。それでも政策を変更せずに、力を基本とした攻めの戦略で、米国は遂に、一発のミサイルも撃つことなしにソ連を崩壊させた。だが、イラクに集中せざるを得ないブッシュ政権にレーガン政権と同様の力が発揮出来るかどうかは、疑問である。
第2の道もまた難しい。中国経済には多くの欠陥があるとはいえ、日本をはじめ諸国の投資は続く。外資の投入と外国の技術の流入が続く限り、中国が経済的に倒れることはないだろう。自国の生死を分ける外資や技術の確保に、中国は全能を傾けるであろうし、その中国の市場の力、軍事力、政治力を恐れ、読み誤り、投資を続ける人々が日本にも多数存在する。
中国はまた旧ソ連の過ちを研究し、国際外交では柔軟路線を装い、巧みに中国非難を切り抜けると思われる。たとえ国際的非難を浴びても、中国は自国の国家目標遂行のためには、究極的には、国際世論の反発を厭わない性格をもつために、第3の道も難しい。
対する米国には、中国に対して伝統的な甘さがある。
米国は元々、安全保障や外交政策については政権が交代しても大きく変わらない国柄である。例外が中国政策で、両党、特に民主党は中国に傾き易い。その理由を独立総合研究所首席研究員の青山繁晴氏は、民主党が元々労働者の政党であり、中国の覇権主義をある程度容認してでも中国市場を最重要視するからだと分析する。したがって、次期大統領が民主党の場合、米国はかつてのクリントン政権のように、アジアで日本より中国重視に傾くと覚悟しなければならない。共和党が政権を維持したとしても、民主主義国家故の厳しくかつ多様な世論が中国との本格的対立を嫌うだろう。
中国のASAT実験は、米国の軍事的優位のみならず、国民生活全般を脅かすものだ。通信が妨害され、船や飛行機の運用も妨げられ、GPSを用いた車の運転にも支障が出る。民生に多大な影響を及ぼす実験は中国が行ったにもかかわらず、米国ではたとえば民主党下院のマーキー議員のように、中国でなくブッシュ大統領を非難する声が出てくるのだ。宇宙軍拡競争を回避するために、大統領はASATの開発・配備を禁止する国際条約締結を目指せと同議員は求めている。
ASAT禁止の国際条約を拒絶してきたのは宇宙を事実上支配する米国自身だが、米国がASAT禁止に向かうのか、それとも中国に対抗する新たな兵器の開発に向かうのか。この選択は、超大国米国にとって代わるチャンスを中国に許すか否かにつながる。また中国の意図は国防発展戦略にも明らかな宇宙と深海の支配だ。しかし、国民生活に影響が出る場合、米国は途端に弱くなりがちだ。マーキー議員のように、中国に対抗するには膨大な宇宙兵器開発費用がいる、交渉で軍拡を止めるべきだなどの意見が前面に出てくるのだ。
かくして米国に残されるのは2つの挟み撃ちの選択だと青山氏は言う。
「米ロで中国の膨張をおさえるか、米中でロシアをおさえるかです。それは米国が日本を重視するのか、EUを重視するのかということでもあります」
日本は何としてでも、米国の視線を日本に惹きつけ続けなければならず、そのために米国に、中国について教えていかなければならないと、氏は主張する。
「アジアの真の姿を知っているのは日本です。日本の長い歴史は米国が中国についてもっている経験とは較べものになりません。中国の真意、東シナ海、太平洋における中国の覇権主義の真の姿を米国に教え、中国の覇権主義や膨張主義を逆手にとって新しい日米同盟を築くべきです」
真の自立国家への「道」
たとえ相手が共和党政権であっても、日本は日米関係の緊密化に気を抜いてはならないと説くのは田久保氏だ。日本人がいま自覚すべきは、日本は自国の安全を自力で保障出来る国ではないという冷厳な事実だ。
「同盟相手は米国以外、存在しないのです。中国の脅威の増大に直面して、日米同盟をフルに機能させる条件整備が必要です。その第1が日米同盟の片務性を双務性にすること、集団的自衛権の行使に踏み切ること。それなしには、共和党政権でさえ、日本を信頼しなくなります」
国連が全加盟国に認める集団的自衛権を、日本政府は自己否定する。過日、安倍晋三首相は日本国総理大臣として初めてNATO(北大西洋条約機構)を訪れ演説をした。自由、民主主義、人権、法の支配という共通の価値観を守るためにNATOと協力すると力説したが、NATOこそ、集団的自衛権の塊である。どの加盟国に加えられる外部の脅威に対しても、NATOは結束して戦うと条約で誓った国々だ。彼らの前で、集団的自衛権の行使を自らに禁ずる国が共に戦いたいといっても説得力に欠けるのではないか。
集団的自衛権についての日本の姿勢に関して、シーファー駐日米大使が述べた。
「北朝鮮が米国をミサイル攻撃しようとした場合、日本が集団的自衛権の問題で上空を通るミサイルを撃ち落とせないと言うのであれば、米国民の気持は変わってしまう」
ここまで大使が直接的表現で不満を伝えるのは余程のことだ。米国の不満を放置するとき、米国人の心は日本よりも中国に向かいかねない。そのときに日本に降りかかる国難は、かつて旧ソ連の傘下に置かれ共産主義と軍事的脅威に押し潰されそうになりながらソ連崩壊までの約70年間を逼塞してすごさなければならなかった東欧諸国の苦難に匹敵するだろう。
同盟国といえども、米国は自国の国益によって外交政策を変えていく。日本不利の状況を生じさせないように、日本は一日も早く米国にとっても存在意義のある自力で安全保障を担保出来る国を目指すことだ。そのことは、日米両国に加えてアジア全体の利益につながる。日本が自信を取り戻し毅然とした外交を展開することは、必ずアジアに平和と安定をもたらす。それらすべての第一歩が集団的自衛権の行使なのだ。
地球を支配する気分に(笑) -衛星写真を用いた地球儀-
……要するに衛星写真を用いた地球儀を先日幾つか購入した、と言うことです。
トラックバック by さかぽよすの記 with To LOVEる — 2007年04月03日 11:49