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2006.09.28 (木)

「 道路改革、それぞれの顛末 」

『週刊新潮』 '06年9月28日号
日本ルネッサンス 第232回

いよいよ小泉純一郎氏の政権が幕を閉じる。小泉政治を彩ったドラマのひとつが道路公団民営化である。

明らかな失敗に終わった民営化の顛末も興味深い。まず道路公団元総裁の藤井治芳氏である。

氏は03年10月、国土交通大臣から解任され、それを不服として東京地裁に処分取り消しの訴訟をおこした。地裁は今年9月6日、藤井氏の訴えを棄却、杉原則彦裁判長は「旧公団が債務超過かどうかが大きな問題になった際、不誠実な言動で国民の信頼を失墜させ、事態をいたずらに混乱させた」藤井氏の解任は妥当だったと認めた。

藤井氏は別の訴えでも敗れている。旧公団の総務部調査役で民営化推進委員会の事務局次長を務めた片桐幸雄氏が03年8月号の『文藝春秋』で、「藤井総裁の嘘と専横を暴く」という題で旧公団が6,175億円の債務超過を示す財務諸表を隠蔽していたと告発したのに対し、損害賠償を求めたのだ。

7月31日、東京地裁の野山宏裁判長は、藤井氏の「請求にはすべて理由がない」「筋違い」であるという異例の強い表現で訴えを退けた。

藤井氏は控訴、己れの主張を譲らなかった。執念を感じさせる氏の姿勢は、現在に至っても道路公団改革の失敗を認めない猪瀬直樹氏の姿勢と相通ずるものがある。

氏は、作家であり、日本ペンクラブの理事、言論表現委員長であり、周知のように道路関係四公団民営化推進委員会の委員でもあった。

氏はこの民営化を高く評価し、積極的に発言を続ける元委員だ。だが、その論理は破綻している。氏の論理破綻を示す材料には事欠かないが、まず、氏が決して認めようとしない民営化が失敗だったという点を、氏自身の言葉で証してみよう。

自画自賛「民営化」の正体

『週刊文春』06年3月2日号の「ニュースの考古学」で氏は、西日本高速道路株式会社の首脳、石田孝氏が第二名神の着工の実現を官邸に働きかけたことを次のように批判した。

「石田会長は昨年末、首相官邸へも陳情に行った。官邸側は、国交省と新会社で話し合う問題だが『抜本的見直し』という表現は、つくることが前提ではない、と意思表示している。僕も石田会長に、ダメですよ、と伝えた。石田会長は『六千八百億円にコストダウンできるのでやりたい』と主張した。ダメなものはダメなんですよ、官邸もダメだと言ったでしょ、と繰り返し警告したのに、まだよくわかっていないようだ」
 冷静に考えればとても採算がとれないことが見通せる第二名神高速道を、民間会社のトップが「建設したい」と言い、それを官邸が諫め、猪瀬氏が「造るな」と警告している構図が、氏のコラムから見えてくる。つまり、民間会社の意思を尊重して任せていたら、第二名神は着工されていた可能性が高いということだ。歯止めをかけたのは官邸であり、第二名神の着工見送りは「民営化」のおかげでもなんでもないということだ。官邸の考えが変われば、民営化にもかかわらず、第二名神はいつでも着工出来るということでもある。

そして氏が強調する着工の歯止めがどんな性質のものかについても、9月12日『朝日新聞』の「検証 構造改革」⑥で語っている。床並浩一記者が第二名神高速道の一部区間35キロの建設費は1兆円規模だが、国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)でも建設は凍結されなかった、単なる着工先送りではないのかと、猪瀬氏に尋ねたのに対し、氏は「凍結したようなものだ」と以下のように答えたのだ。

「2月の国幹会議で『交通状況等を見て判断する。それまでは着工しない』という文言を国土交通省から引き出し、道路族議員にも了承させた。官僚の作文でわかりにくい表現だが、これは事実上の建設凍結を意味する」

噴飯ものである。官僚の作文では、この表現は建設凍結を意味するものなどではない。〝状況が整えば着工する〟という意味に他ならない。

猪瀬氏が自画自賛してきたように、この民営化が真に評価すべき正しい内容なら、西日本高速道路会社も含めて各道路会社は、他の多くの民間会社同様、正常な経営判断が出来るはずだ。道路会社にとって正しい経営判断の第一は、採算のとれない高速道路は建設しないことであろう。現に猪瀬氏も03年10月25日の『熊本日日新聞』で、民営化は「不採算路線の建設に歯止めをかける」という主旨を述べている。氏が前述の「ニュースの考古学」に書いた石田会長の動きは、今回の民営化が「不採算路線の建設に歯止めをかける」ことにはなっていないことを示している。

常人の理解を超えた強弁

だが、現在の民営化の下ではこうなるのは予想されていた。資産も負債もほぼ全て、「保有・債務返済機構」という独立行政法人に持たせ、経営の実権も責任も無きに等しい民間会社に責任ある経営を求める方が無理なのだ。経営責任がないからこそ、仕事量を確保することだけを目的とした新しい路線の建設を望むようなことになるのだ。

猪瀬氏がコラムで披瀝した第二名神着工見送りの舞台裏は、民営化が全く名ばかりのものであったこと、疑いもない失敗であったことを象徴する話だ。にもかかわらず、この人物は、第二名神着工見送りも含めて民営化の成果だというのだ。常人の理解を超えた強弁である。

もう一点、今の民営化がなければ、高速道路整備計画は現在の9,342キロにとどまらず、11,520キロになっていた、なぜなら「国会は87年に法定予定路線11,520キロを決め」たからと氏は強弁する(『朝日』)。

冗談だろう。国幹会議を経て施行命令が出されていた区間は9,342キロのみだ。民営化委員会での一連の論議も同区間についてだった。11,520キロを、施行命令が出されていた9,342キロと混同させて論じ、民営化故に9,342キロでとまったという論法は騙しの論である。

氏は通行料引き下げも民営化の成果だと誇るが、経営に責任をもたず、その経営の当否の検証さえ45年後にはじめて可能となれば、如何なることも出来るだろう。

この件で、松下文洋氏が『道路の経済学』(講談社現代新書)で興味深いことを書いている。04年4月、民営化委員の一人から、道路四公団の債務返済計画は十分に可能な現実的な案だということを解説してほしいとの依頼があった。が、氏は依頼を断ったという(41頁)。氏は同書で、現在の民営化のスキームでは予定期間内の債務返済完了は無理だと分析している。

猪瀬氏が主張する道路公団改革の“成功”は、無残な失敗以外の何ものでもない。その改革の行方が問うているのは改革の成否のみならず、氏の言論人としての生命でもあることに、氏は気づいているだろうか。

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「 道路改革、それぞれの顛末 」

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