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2006.08.05 (土)

「 『富田メモ』はなぜ今流出したか? 機密漏洩事件の本質をこそ見よ 」

『週刊ダイヤモンド』    2006年8月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 652

7月20日に「日本経済新聞」が「A級戦犯靖国合祀」「昭和天皇が不快感」と報じた元宮内庁長官の故・富田朝彦氏のメモは、理解に苦しむものだ。
「富田メモ」には、1988(昭和63)年4月28日付で昭和天皇のご発言として「A級(戦犯)が合祀されその上松岡、白取までもが」「だから私あれ以来参拝していない それが私の心だ」と走り書きされていた。

このメモをもって、「産経新聞」を除く各紙はほぼいっせいに、昭和天皇は三国同盟に走り国を誤る元凶となった松岡洋右元外相、白鳥敏夫元駐イタリア大使を疎み、A級戦犯の合祀に不快感を抱いていたと断定、“A級戦犯”を分祀すべきだという論調に傾こうとしている。しかし、その解釈は天皇を究極的に貶めるものである。

「富田メモ」は、“A級戦犯”合祀に関して靖国神社の故・筑波藤麿元宮司は慎重だったが、合祀に踏み切った後任の故・松平永芳元宮司は怪しからんと怒っておられる天皇のお姿を想像させる。だが、筑波宮司がA級戦犯の合祀に反対で松平宮司のみが積極的だったというのは、事実に反する。このような思い違いが目立つ「富田メモ」を全面的に信頼することはできない。

このメモから浮かび上がる天皇像にも違和感を抱く。あの不当な東京裁判で、自らの命を差し出すことによって天皇と皇室を守り、日本国を守ったのが“A級戦犯”だった。そして昭和天皇もまた、ご自分の命を差し出して日本国と国民を守ろうとした。マッカーサーに対し、ご自分の運命はどうなってもよい、すべての責任はご自分にあると述べられ、いっさいの弁明をなさらなかったのは周知のとおりだ。

他人への責任転嫁をなさらない昭和天皇が、「富田メモ」ではおよそ正反対の姿である。これははたして真の姿なのか。88年4月当時の昭和天皇は体調も悪く、メモのようなご発言があったとしても、ご自分の真意を十分に伝えることができていなかったのではないかと思えてならない。

そして、メモはなぜ今になって流出したのか。国家機密保持の観点から問題の根の深さを指摘するのが、京都大学教授の中西輝政氏である。氏は、宮内庁長官だった富田氏が職務として昭和天皇のお近くに仕え、そこで入手した情報を書きつけた「富田メモ」は、まぎれもない公文書であると指摘する。

「富田メモの公開に関しては、まず陛下の許可が必要です。しかし、陛下は私人ではありませんから宮内庁の許可が必要です。宮内庁は同メモの発表には関知していないと言っています。富田さんのご家族はプライバシーを公表される側の許可をまったく取らずに公表したわけで、こんなことが許されると考えたのでしょうか」

現在の日本では、個人情報について行き過ぎた規制が行なわれている。事件や事故で病院に運ばれた人の病室さえも、個人情報だといって教えない病院が増えているなかで、天皇の情報が長官メモのかたちで流出したことの異常さに気づかなければならない。

庶民と異なり、多くの人が公私にわたって日々お仕えしなければ、天皇家の生活は成り立たない。お仕えする人びとがメモを取って、内容を確認することも合意を取りつけることもなく公表すれば、皇室を守るべき人びとは恐るべき暴露者になる。皇族の方がたにとって周囲がすべて敵になり、皇室は存続できないだろう。

中西氏は、「富田メモ」は欧米では公文書と見なされると指摘する。となれば、富田氏は退職後、公文書を自宅に退蔵し、それを今回、富田家が私的に流用したことになる。この種のことは英国では「公的機密保護法」で10年以上の懲役刑に処せられると、中西氏は言う。宮内庁始まって以来の大スキャンダルが示す、日本という国家体制のあまりの不備、驚くべき機密漏洩事件の本質をこそ見なければならない。

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トラックバック: 2件

  1. あり得ない中共との「関係改善」2

     「中国」というより「中国共産党」と記した方が論理が明確になる。その意味から、ブログ記事では「中国共産党」または「中共」と記すことにした。中共崩壊の兆しが…

    トラックバック by 博士の独り言 — 2006年08月11日  18:40

  2. あっぱれ、小泉純一郎君!「いざ往かん、靖国へ・・・」

    昨日のTV報道にて、何と、小泉首相は、ことのほか声を荒げて明言した!
    「この夏、靖国神社に参拝する!」
    と、、、。

    我輩は安堵した、そして勇気を持った。…

    トラックバック by エセ男爵酔狂記 Part-II — 2006年08月11日  19:18

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 『富田メモ』はなぜ今流出したか? 機密漏洩事件の本質をこそ見よ 」

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