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2006.03.09 (木)

「 日米関係の重要性を再確認せよ 」

『週刊新潮』 '06年3月9日号
日本ルネッサンス 第205回

2月22日、イラク中部サマラで起きたイスラム教シーア派の聖地「アスカリ聖廟」の爆破をきっかけに激化したイラク国内の宗派の対立は、日本に対米、対イラク外交の注意深い再検討を迫るものだ。

アスカリ聖廟を爆破した犯人は特定されていないが、シーア派は対立するスンニ派への報復攻撃を繰り返し、死者は日々増え続けている。両派の対立には千数百年の歴史があり、事態は容易に解決されそうにない。

その一方で、イラク国民の多くが、対立がさらに激化し内戦状態に陥れば最も喜ぶのはテロリストたちだということを知っている。国民が如何に民主的な国作りを望んでいるかは、昨年の、国民の投票行動からも明らかだ。投票に行くこと自体が命の危険を意味するときに、まず彼らは、1月の国民議会選挙で58%という驚くべき投票率を記録した。10月の新憲法承認の国民投票では63%、そして12月のイラク国民議会選挙では78%の高さだった。

私たちは彼らの良識に希望をつなぎ、彼らの望む民主的でより安定したイラクの国作りに手を貸していかなければならない。

今年11月に中間選挙を控えている米国のブッシュ大統領は、イラク統治の成功をアピールしたい。だからこそイラク軍の治安能力を高めて、目に見える形で、一部とはいえ米軍の撤退を実現したい構えだ。しかし、誤解すべきでないのは、米国内の議論は、民主党でさえも、撤退はあくまでも、イラク社会の安定を得た後と位置づけていることだ。

2月3日に公表された米国の4年毎の国防戦略見通し(QDR)には、“テロとの戦い”に替わる言葉として“長期戦”(long war)という言葉が見られる。

客観的に見て、米国の早期撤退は当事国のイラクも含めてどの国も歓迎しないだろう。とりわけ、アスカリ聖廟爆破後の混乱が深まったイラクから米国が撤退すれば、その途端イラクはさらなる混乱に陥り、それを喜ぶテロリスト勢力の思うがままとなってしまうからだ。米国のイラク駐留軍引き揚げは、尚難しくなったといえる。QDRで示されているように、イラクへはまさに“長期戦”とならざるを得ない。

派遣の実績とは何か

日本政府は昨年12月の閣議決定で今年12月末までの自衛隊駐留期間内でも、撤退の前倒しはあり得るとした。条件は、政治状況の安定、治安状況の安定、多国籍軍の動向、復興の進展の度合である。

現在、イラク南部サマーワの陸上自衛隊は、英国軍に守られている。その英国軍はイラク南部の治安は安定してきているとの分析から、3月にも撤退の可能性があると日本側は見ている。そこで、英国軍の撤退と合わせて陸自も撤退させようという声さえ出てくることになる。

米国は日本のこのような動きをどう見るか。何よりも、小泉純一郎首相はなぜ、自衛隊をイラクに派遣したのか。こうした点を、政府は今冷静に考えるべきだ。

日本が撤退すれば、米国は大きな失望と落胆を抱くはずだ。米国が同盟国の支持と助力を最も必要としているとき日本が引けば、日本が極めて早い段階で自衛隊を派遣すると決めたことに大いなる感謝を表明した分、今度は早期の撤退が大いなる失望につながっていくのは必至だ。

小泉首相が自衛隊派遣を決めたのは、日米同盟を重要視し、両国関係を緊密にすることが日本の国益につながると判断したからではないのか。

小泉首相は、首相になる前の第一次湾岸戦争の頃、たとえPKOであっても、日本人の血は一滴たりとも海外で流してはならないという考えだった。その人物が首相になり、“安全である”との前提条件付きとはいえ、自衛隊をイラクに出したことは大転換だった。それは一に、日米関係の緊密化が日本の国益に資するとの考えではなかったのか。

であれば、イラクに自衛隊を派遣したことの意味を消滅させるような撤退はしてはならないだろう。これまでのイラク支援の実績を、イラクのためにも米国のためにも、そして何よりも日本のために、将来につなげて活かしていく道を探るべきだ。

真の独立国となるために

現在の日米関係には懸念材料が山積だ。一例が沖縄の基地問題に象徴される米軍再編と日本の協力の在り方をめぐる議論だ。

QDRを読むと、米国が太平洋の同盟国としてまっ先に挙げたのが日本である。昨年2月の安保協議委員会、通称2プラス2の会議でも、台湾海峡問題の平和的解決を目指すという両国の合意を謳いあげた。米国が最大の脅威と位置づける中国に対して、台湾問題でも明確な牽制球を投げ、同時に日本のコミットメントも確認したことになる。

米国が、日本最重要視の政策を明らかにすることで日本に問うているのは、日本の自覚と決意である。台湾が中国の影響下に入れば日本はどうなるのか。中国の軍事力増強が続くとき、どの国がその脅威から、日本やアジアを守るのか。超大国といえども米国一国では担いきれない役割を日本はどこまで分担するのか。中国が覇権主義を強めるとき、最も大きな痛手を受けるのは日本ではないのか、と。

米軍再編は、本来、日本が真の意味の独立国となるきっかけでなければならない。基本的に自力で自国を守る体勢を作り、アジアと国際社会により良く貢献していく第一歩となるべき動きを、歴代政権はひたすら基地の縮小という形に、矮小化してきた。96年に、普天間基地の返還と引きかえに、5年から7年以内に辺野古沖に新たなヘリポートを作ると日米で合意したにもかかわらず、日本政府はその決定を実現してこなかった。

こうしてみれば、米国が苛立つのも当然だ。約束を守らなかったことに関する苛立ちを、立場を替えて考える事例としてBSE問題がある。米国の牛肉の中に背骨付きのものがあった。日本は直ちに輸入を全面停止し、米国側はシーファー大使はじめ担当者が謝罪した。日本の牛は約450万頭、うち判明したBSE感染はこれまでに22頭、米国の牛は1・2億頭、これまでに判明した感染は1頭である。総合的に考えれば、全面輸入禁止が果たして必要かという議論は、当然、おきてくる。

いま、その点は措くとしても、背骨除去の約束を守らなかったことに日本が憤るのと同様、米国も日本の約束違反に憤っていることだけは見逃してはならない。

イラク国内の対立が深まりつつある今、中国の脅威、台湾の危機、ロシアやインド、米国への中国の巧みな外交的接近を視野に入れて、日本のために何が最も重要かを考えれば答えは明らかだ。日米の絆をこれまで以上に大切にすることしかない。そのためにも、イラクからの自衛隊撤退の判断は慎重にせよ。

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