「 政府への批判・非難の噴出で中国にもようやく変化の予兆 今こそ強権外交に屈するな 」
『週刊ダイヤモンド』 2006年3月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 631
2005年、中国では87,000件の政府への抗議および暴動があったという。日々238件である。共産党の一党専制的支配が徹底されている中国で、これほど多くの批判・非難や抗議が日々噴出していることの意味は大きい。
中華人民共和国政府は建国当時から、国民を農民と非農民に二分し、差別的統治を行なってきた。農民が、沿岸部の豊かな中国人とは雲泥の差の極貧のなかにあるのは、もはや日本では常識だ。農民には、山村を出て都市に移住する自由もない。山村で努力をしても、自分の資産を築き上げていくことさえおぼつかない。
中国は、建国後すぐに土地改革を行なった。改革の柱は、地主階級の消滅と耕す者が土地を得ることの二点である。中国共産党はさらに、国民をよい階級と悪い階級に分けた。「地主、富農、反革命、悪人」の四分類を悪い階級として迫害、貧農ほどよい階級とされた。中国共産党は自らをその貧農の味方として位置づけたのだ。
だが、耕して、ようやく少しの土地を得た貧しい農民たちは、やがてその土地を取り上げられる。互助組や合作社、人民公社などがつくられ、土地は公のもの、皆の共有とされた。
人民公社制度が失敗に終わると、今度は各家族が請負のかたちで農業を担うことになった。こうして、またもや個々人の工夫や努力が富をもたらす仕組みになったはずだった。
だが、当初から中国政府は、農民を“二級国民”と見放してきた。彼らを大切にする政策は生まれようがない。だからこそ、開発の必要性が生ずると、農民への補償なしで強制的に土地を取り上げた。
道理を欠落させた農民への扱いに憤ったのが、弁護士の郭飛熊氏だった。郭弁護士は広東省大石村の農民らの代理人として、中国政府の強制的土地収用に異議を唱えた。ところが、郭弁護士は当局によって暴行を受け拘束されたのだ。
法治国家では、弁護士が法に基づいて代理人としての役割を果たすのは当然の理だ。しかし、そのように運ばないのが中国で、だからこそ中国は“人治国家”といわれる。
それにしても、しばらく前までの中国なら、郭弁護士への弾圧で一件落着となったことだろう。だが、いまや中国でも変化の兆しが生まれている。たとえば、郭弁護士への弾圧を機に始まった、人権弁護士として知られる高智晟氏らによる抗議のハンガーストライキだ。
“中国の情報封鎖を突破し、中国の真の情報を提供する”ことを目的として発刊されている週刊新聞「大紀元時報」によると、高弁護士らは1人が1日ないし2日のハンストを行ない、多数が受け継ぐリレー方式で、2月4日以来、今もハンストを続行中だそうだ。向こう半年間継続出来るだけの賛同者も集まった。こうした情報はしかし、厳しい言論統制によって中国国内では報じられていない。
しかし、どんな政府でも言論人、知識人、国民の自由への渇望を抑えることは出来ない。強大な権力をもってしても、無理である。そして中国でも、いまや公然と政府の言論弾圧の中枢機関である党中央宣伝部への批判声明が出されたのだ。右の声明に署名した人びとのなかに、朱厚沢元宣伝部長、鐘沛璋元宣伝部新聞局長、それに元毛沢東国家主席秘書の李鋭氏らが交じっているのにも刮目せざるをえない。この政府批判がどのように展開していくのかは未知数だが、それは間違いなく大きな変化の予兆である。
中国共産党は自らへの批判を回避するために、反日を演出してきた。だからこそ今、日本は中国の“良識派”に、日本政府も国民も彼らと価値観を共有するのだと明確に伝えることだ。間違っても、日本政府が中国政府の強権外交に屈し、事実上その価値観に同調してはならない。
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