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2005.12.29 (木)

「 反日反靖国、王毅中国大使の嘘 」

『週刊新潮』 '05年12月29日号
日本ルネッサンス 第196回

日中戦争最中の1937年、重慶の国民党政府の国際宣伝処に勤務し、後に著名なジャーナリストとなった米国人セオドア・ホワイトは書いた。

「アメリカの言論界に(中国政府が)嘘をつくこと、騙すこと、中国と合衆国は共に日本に対抗していくのだとアメリカに納得させるためなら、どんなことをしてもいい、それは必要なことだと考えられていた」(『「南京事件」の探究』北村稔著、文藝春秋)。

日本を貶め、日本こそ米国の敵、国際社会の敵であると国際社会に信じ込ませるためには、どんな嘘も騙しも正当化されると中国政府が考えていたと、中国の宣伝報道に携っていたホワイトは述懐したのだ。

2005年11月24日、駐日中国大使として初めて東京有楽町の外国特派員協会で会見した王毅氏の発言を聴くと、日本を貶める虚偽の宣伝、情報の歪曲は、現在に至るまで中国政府不変の政策であることが明白だ。

近代史上、日本は中国にも米国にも、旧ソ連にも、度々情報戦で敗れ、国益を損ねてきたが、それは、決して過去のことではなく、現在も同様なのだ。満席の記者を沸かせた王大使の記者会見は、情報操作を苦手とする日本の不利と悲劇を見せつけた。

内外の記者200名以上を前に王大使はゆっくりした日本語で、歴史問題から東シナ海の資源開発問題まで、巧みに事実関係を歪曲した。幾つもの虚偽を、日本人記者も含めて誰ひとり、追及した者はいなかった。日本国は「世界中のメディア」の前で、またもや悪者とされたのだ。一例が靖国神社問題だ。

中国は寛容な国家だが、“A級戦犯”合祀の靖国神社への“最高指導者”の参拝は受け容れ難いとして、「中国の立場ですね、継続性のあるもので、変わっておりません。1985年、このことですね、A級戦犯が祀られていることが公になってから我々も反対の立場を貫いてきております」と大使は述べた。

“A級戦犯合祀が公になった85年以来”、“一貫して反対”してきたと言うのだ。だが、事実は全く違う。

外敵は「ソ連」から「日本」へ

靖国神社への“A級戦犯”合祀が大きく新聞で報じられたのは1979年4月19日、春の例大祭直前である。時の首相・大平正芳は記者団から、後日の6月5日には、参議院内閣委員会から、質問を受け、いずれも広く報道された。したがって、“A級戦犯合祀”が公にされたのは85年ではなく、79年4月である。

一方、中国政府が靖国問題で日本に注文をつけたのは1985年9月7日、彭真全人代常務委員長が長田裕二氏を団長とする自民党田中派の訪中団に、首相の公式参拝は日中関係に「不利なこと」だからやめた方がよいと「強く警告した」のが初めてである(『靖国公式参拝の総括』板垣正著 展転社)。

それ以前の中国は「反対態度を貫」くどころか、“A級戦犯”合祀や首相の参拝に触れもせず、逆に日本に軍事大国になれと要求した。典型例が1980年4月末からの中曽根康弘氏の訪中だ。氏は中国人民解放軍ナンバー2の副参謀総長・伍修権に会った。伍は日本は軍事力を強化する必要があると強調、軍事予算をGNP比1%にとどめずに2%に倍増せよと要求、大きく報道された。

その前年の5月16日、時事通信の田久保忠衛氏は最高実力者、鄧小平に取材したが、鄧は、中国の周りはすべてソ連の軍事的な脅威にさらされており、日本も中国と共に立ち上がって軍事的に協力すべきだと述べた。これも大きく報道された。

鄧小平発言も伍修権発言も、“A級戦犯”の靖国合祀が公にされた後である。以降も中国政府は大平、鈴木善幸、中曽根歴代三首相の参拝については、85年9月まで一言も批判しなかった。鄧小平発言からも明らかなように、当時の中国が最も恐れたのは旧ソ連の軍事的脅威で、その脅威に備えるために、むしろ日本も軍事大国になれと促したのだ。

ちなみに、中国は1978年締結の日中平和友好条約を機に、日本から多額のODAを受け取り始めた。同条約に旧ソ連を念頭に置いた反覇権条項を入れ、二重、三重にソ連に備えようとした。79年1月1日に米国と国交を樹立。日米中の対ソ連合の形を整えた。そのことは、当時の中国の国益にかなっていた。

1985年9月に靖国批判に転じたのは、中国がソ連脅威を言いたてなくとも、81年1月に就任したレーガン大統領がソ連を悪の帝国と非難し、ソ連自身、80年代前半に顕著に力を衰えさせたことが背景にある。もはやソ連を恐れなくてもよい状況になったとき、中国の外なる敵が日本になっただけのはなしだ。

大使は「国と国の付き合い」では、「約束をお互いに守る必要があります」と述べた。であれば、日中両国は1972年の国交樹立時に共同声明で相互内政不干渉を誓約している。その約束を守って中国こそ即時、内政干渉をやめるべきだ。

嘘に嘘を重ねる中国の手法

王大使はB、C級の戦犯について「我々はいわゆるB級、C級戦犯ですね、全部釈放し、日本に帰らせたのです」と述べた。

中国各地にB、C級戦犯として拘束され、命を奪われた日本兵は171名にのぼる。拘留中の病死者もいるが、圧倒的多数は処刑された。「全部釈放し」たとは、どういう意味か。

大使はまた、「反日教育はありません」と言う。中国が長年、愛国主義教育に名を借りた反日教育を実施してきたことは、度々小欄でも具体的事例を取り上げてきた。反日教育否定の大使発言も虚偽である。

東シナ海の資源開発問題でも、日本の主張する中間線は「もうすでに交渉を通じてお互いに認め合うラインではないのです」と断言した。中間線を認めないのは中国のみで、日本ではない。「お互いに」の表現は虚偽である。

大使は日中は競合ではなく相互補完関係にあるとも語った。が、この夏、中国は日本の国連安保理常任理事国入りに断固反対し、猛烈に働きかけてアジア諸国に日本の常任理事国入りへの支持を断じて許さなかった。11月の東アジア首脳会談では、中国が日本をおさえて覇権確立を目指して熾烈な鍔迫り合いを演じた。靖国神社はその目的達成のための材料のひとつである。靖国問題を日本の歴史認識の“悪質さ”の象徴に仕立てあげ、これを国際問題とすることによって、アジア、ひいては国際社会での日本の地位を貶めたいのが中国だ。

中国のあからさまな意図の前に、日本はすでに守勢に立たされている。日本語の講演にもかかわらず、日本人記者の誰ひとり、大使の嘘を正せなかったこと自体、現時点での敗北だ。中国に対するのみならず、国際社会に日本の立場と主張をきちんと伝える情報発信機能の確立を国家の緊急課題としなければ、日本は再び情報戦に敗れ、国益を損なうであろう。

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