「 人権大使活用が日本の外交基軸 」
『週刊新潮』 '05年12月22日号
日本ルネッサンス 第195回
ソウルで北朝鮮の人権問題を問う国際会議「北朝鮮人権国際大会」が12月8日から3日間開催された。新羅ホテルの一番大きな会場が満杯になり、北朝鮮の人権侵害問題にはきわめて冷淡、無関心だった韓国で異例の盛り上がりを見せた。
同大会は、ニューライトと呼ばれるかつての左翼学生達が主催した。彼らはかつて386世代と呼ばれた。年齢は30代、80年代に大学教育を受けた60年代生まれという意味だ。彼らは今や40代となり、その一部は金日成の主体思想やマルクス・レーニン主義の無意味さを悟って転向し、保守勢力、ニューライトとなった。彼らの組織立ち上げは1年前だった。情緒的な反米運動や過剰な反日運動は韓国のプラスにはならないとする主張は少なからぬ共感を得て、今やどの政党も彼らを無視出来ない所まで勢力を拡張した。
大会では、韓国歴代政権が北朝鮮の人権弾圧に無関心であり続けてきたことに強い異議が唱えられた。政治犯収容所、国民の飢餓問題、少なくとも480人の韓国国民の拉致などについて、議論は3日にわたった。
同大会には、韓国学生運動の伝説の英雄、金泳煥(キムヨンファン)氏が姿を現わした。彼は学生時代、主体思想を“完璧に”マスターし、韓国の主体思想派の学生たちの理論的リーダーとなった。頭脳明晰、巧みな演説、指導力抜群。力量を見込んだ金日成が、秘かに半潜水艇を派遣し、金泳煥を北朝鮮に招いた。彼は金日成差し回しの船に乗ってピョンヤンを訪れた。
しかし、北朝鮮に上陸した彼は、一目で、それまで自分が信じ、また語り広めてきた思想が偽物であることを見抜いた。実態は金日成の醜い独裁体制以外の何物でもないと、あの国に第一歩を印した瞬間に悟ったのだ。
帰国後、身柄を拘束された彼は反省文を書き転向した。釈放されて“新しい保守”となったが、ずっと表面には出てこなかった。その彼が今回、姿を見せ、北朝鮮はマフィア国家だと、烈しい非難を展開したのだ。
国際問題化する拉致被害
韓国のマスコミは公の前に再登場した金泳煥氏を大きく報じた。この注目の国際大会に、安倍晋三官房長官の強い意向で任命された人権大使の斎賀富美子駐ノルウェー大使も出席した。NGOの主催、しかも人権をテーマにした国際大会に日本政府代表が出席するのは異例のことだ。同大会に出席した米国の駐韓大使と共に、斎賀大使は大いに注目されたのだ。
北朝鮮びいきの韓国の団体は、国際大会に反発し、「北の政治犯収容所が実在するのか否か、確認されていない」「食糧難は北朝鮮だけの問題ではなく、広く世界に存在する」などと、北朝鮮当局かと見紛う反論を展開した。そして言うのだ。「政治的人権よりも生存権のための支援が重要」と。
何よりも生存権が大事とは北朝鮮の主張であり、もっと援助をせよという意味だ。
北朝鮮はといえば、日本の人権大使任命に「米国に追随」「打算」「恥知らずの妄動」と、いつものことながら口汚く反発した。しかし、人権大使任命も、大会への派遣も適切かつ必要な措置だ。人権も自由も、日本こそが守ってきた価値観であり、こうした価値観を軸に、日本外交を展開すべきだからだ。
現に、拉致問題はいま、ひとり日本のみではなく、急速に国際社会の問題としての広がりを見せつつある。東京基督教大学教授の西岡力氏が指摘した。
「曽我ひとみさんの夫のジェンキンス氏が出版した『告白』(角川書店)がもとで、我々はタイのアノチャ・パンジョイさんの拉致を知りました。タイ政府はアノチャさん奪還の努力を公約、世論の関心も高まっています。その他マレーシア、フランスの女性、マカオを舞台にした中国人女性の拉致も浮上しています。まさに、拉致は国際社会全体に被害を及ぼしていることが明らかになってきたのです」
マカオから拉致された中国人女性2名については、北朝鮮に拉致された韓国人女優の崔銀姫(チェウニ)さんと映画監督の申相玉(シンサンオク)さんが書いた『闇からの谺』(文藝春秋)の中で明らかだ。
崔さんが招待所に軟禁されていた際、孔という名前で英語名キャサリンという中国人女性と会話したという。マカオの宝石店に勤めていた1978年夏、もうひとり蘇という女性と一緒に拉致されたというのだ。
崔さんは伝聞情報ながら、フランス人女性の拉致についても詳しく述べている。フランス人女性の拉致のために、“体格の良い美男子の工作員”が“東洋の富豪の子息のふりをして”“物量攻勢で誘惑した”。フランス人女性は“虚栄心が強かったのか、誘惑に負け工作員と婚約”し、拉致されたと、書かれている。
腐った日朝関係を断ち切れ
自国の女性の拉致事実が明らかにされた時、フランス政府は黙ってはいないだろう。中国政府はどうか。
農村で、もしくは法輪功などの特定グループに対して、或いは台湾など周辺諸国への弾圧が日常茶飯だからといって、自国民の拉致問題にも頬かむり出来るだろうか。北朝鮮による拉致被害者が日本人である限り、中国は無関心を貫くことも出来るかもしれない。だが、国際社会がテロと見做す拉致が明らかに自国民をも巻き込んでいることを放置すれば、アジアのリーダーとしての資格、況んや世界のリーダーとしての資格に大きな留保をつけることになる。
だからこそ、人権や自由の価値観を実施してきた日本が人権大使を任命することに非常に大きな意味があるのだ。人権大使の任命は拉致問題解決のためだけではなく、アジア外交の基軸を支える価値観の表明なのである。人権大使任命に加えて、もうひとつ、日本が忘れてはならないことが北朝鮮への力の外交だ。
日本が発揮出来る最大の力は経済分野にある。すでに日本の整理回収機構(RCC)が朝鮮総連などを相手取り、16の在日系信用組合の貸付金、628億円の返還を要求して東京地裁に訴えをおこしたように、朝銀につきものだったこれまでの疑惑の一掃が重要だ。
朝銀の融資はその一部が朝鮮総連などを介して北朝鮮に不正送金され、金正日政権を支えてきたと言われる。その朝銀にはこれまでに公的資金、1兆1,400億円余が投入されてきた。拉致を続けてきた金正日体制を日本国民の税金で支えている側面は否定出来ない。この腐った関係を断ち切るのがRCCの決断であり、高く評価したい。
国連は人権を所管する第三委員会で、拉致を「組織的で重大な人権侵害」とする非難決議案を賛成多数で採択した。北朝鮮を名指しした非難決議はこれが初めてだ。国際社会は動きつつある。だからこそ、日本が人権と自由を旗印に正論を展開し続けることが、とりわけ重要なのだ。
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