「 武器輸出然り、領土問題然り 強硬な態度を示すロシアには揺るがぬ外交姿勢で臨め 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年2月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 580
1月28、29の両日、東京で「新しい日露関係第一回専門家対話」という会議が開かれた。日露双方で約20人が参加して、両国間の問題と発展の可能性を語り合う目的だった。
参加して驚いたのは、ロシア側の強硬な態度だった。たとえば、日本側がロシアの中国への武器輸出について懸念を表明したときの反応である。ちなみに、世界の武器貿易で、中国は全体の四割を輸入している。すべて最新鋭の武器・装備であり、日本およびアジア諸国にとって、肥大化する中国の軍事力は非常に大きな脅威である。そして、中国の輸入する武器・装備のほとんどすべてがロシア製なのである。
ロシアは中国への武器・装備と軍事関連技術の売却で膨大な利益を得ており、そこにフランスをはじめとするEU加盟国が食い込もうとしていることは周知のとおりだ。EUは、1989年の天安門事件以来禁止されてきた中国への武器輸出を再開しようとして、現在、米国との鬩(せめ)ぎ合いが続いており、就任後、国務長官として初めて訪欧したライス氏は、この点について強い懸念を表明した。
もう一点、中国の軍事力増強の尋常ならざる点は、89年以来、軍事予算の伸び率が経済の伸び率をはるかに凌駕し続けてきた点だ。中国の経済成長率には目を見張るものがあるが、公式に発表された軍事予算の伸び率は、経済成長率のそれに、倍するものである。しかも、中国の真の軍事予算は、公式発表の3倍ないし5倍に達しているというのが、世界の軍事専門家たちの常識である。
このような状況下で、日本側が、ロシアの中国への武器輸出に懸念を抱くのは自然である。だが、ロシア側の専門家たちは、「米国が日本に武器売却を続けていることを見れば、ロシアの中国への武器売却はなんら不合理ではない」と答えたのだ。
いやなら日本こそが米国からの武器・装備の購入を控えればよいという姿勢には、ソビエト連邦崩壊後のロシアに漂っていたと思われた「対決よりも対話重視の姿勢」はまったくうかがえなかった。
領土問題についても、非常に厳しい姿勢を彼らは維持した。両国間に領土問題が存在するということをロシア側が認めていること自体が大きな譲歩であり、プーチン大統領は非常なる政治的リスクを払って、そのような立場を採っているのだという考え方だった。
第二次世界大戦終了直前の45年8月9日、突然ソ連側が日ソ中立条約を破棄して日本側に攻撃を仕掛けてきたこと、北方領土にソ連軍が上陸したのは、日本が敗戦を受け入れ降伏したあとの8月18日だったこと、本来なら、日本の降伏と同時にすべての戦闘は終了しなければならないにもかかわらず、軍事侵攻を続けたソ連のやり方は国際法上も道義上も許されるものではないことなどを考えると、ロシア側の主張はまさに一方的である。
73年の田中角栄首相(当時)の訪ソによって出された日ソ共同声明には、両国間に領土問題が存在し、それは四島であると確認されていることを考えれば、ロシア側の主張はなおさら噴飯ものだ。さらに、93年の東京宣言には、「四島は歯舞(はぼまい)、色丹、(しこたん)国後(くなしり)、択捉(えとろふ)である」と、固有名詞も書き込まれている。
ロシア側の専門家は、日本は二島(歯舞、色丹)以上を手にすることはできないとも強調したが、1月14日の日露外相会議でも同じことが町村信孝外相に伝えられたそうだ。その条件を受け入れなければ、プーチン大統領の訪日もおぼつかないと彼らは言うのだが、そんな条件でプーチン大統領の訪日を請う必要はないだろう。日本側の揺るがぬ外交姿勢が必要だ。