「 政府の基本方針に大きな矛盾 郵政改革をスローガンだけの民営化に終わらせるな 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年10月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 562
小泉政権の改造内閣は、郵政改革を旗印に掲げた内閣だといわれている。自民党幹事長に大抜てきされた武部勤(つとむ)氏をはじめ、党三役も閣僚も、民営化には賛成だと一応は言う。だが、大事なことは、どんな民営化なのかである。道路関係四公団改革のように、スローガンだけの民営化に終わってはならないのだ。
だが、9月10日に閣議決定された「郵政民営化の基本方針」を読めば、大きな不安を抱かざるをえない。むろん、本格的な議論はこれからだ。所管大臣の竹中平蔵氏が先頭に立ち、氏の下に置かれた準備室が法案を書く。道路改革法案を国土交通省道路局の官僚が書き上げたのとは異なり、竹中氏の下で郵政官僚から独立して法案が作成されることは、楽観材料ではある。
にもかかわらず、不安が残るのは、そもそもの出発点となる政府の基本方針に大きな矛盾が内包されているからだ。
基本方針は、郵便貯金、郵便保険、郵便事業、窓口ネットワークの四つの会社に加えて四社を子会社とする持ち株会社を設けると定めた。最終的には、持ち株会社の発行する株式総数の三分の一以上を国が保有し、郵貯、簡易保険、郵便すべての事業に国が介入する余地を残した。これは道路関係四公団改革が失敗に終わった大きな理由、上下分離体制そのものである。民営会社は2007年4月につくられ、10年間の移行期間を経て1017年4月から“最終的な民営化”が実施されるが、移行期に行なわれることを読むと、驚いてしまう。
郵便貯金で見ると、「当面、(郵便貯金の受け入れ)限度額を現行水準(1,000万円)に維持する」と書かれている。「当面」を過ぎれば1,000万円の限度枠は取り払うという意味だ。さらに「貸付等も段階的に拡大できるようにする」となっている。純粋な民間金融機関と正面から競うということである。
「基本方針」は確かに、「民営化に伴って設立される各会社は、民間企業と同様の納税義務を負う」と定めた。これまで払わなかった事業税や法人税を払うというわけだ。
しかし、だからといって、民間と同じ立場に立ったとは断じて言えない。なんといっても、10年間の移行期間中、郵便貯金会社は、実態として国の保証付き金融機関となるからだ。最終的な民営化時でさえ、株式の三分の一以上を国が保有する“特別”な金融機関であり続ける。民間金融機関が逆立ちしても追いつけない“信用力”を与えられるのだ。大きな格差のあるなかで、250兆円を超える郵貯が、預入額の上限を取り払い、貸し付けを拡大するのは、民間金融機関への不当な圧迫以外のなにものでもない。郵貯が民間金融機関のような事業展開をすることは間違いなのだ。
郵貯の不良債権比率も明らかにすべきだ。今、財政投融資残高は約350兆円で、郵貯と簡保は大口の資金提供者である。財政投融資は、日本道路公団のような特殊法人、地方自治体、31に上る特別会計などに資金を貸し付けてきた。だが、そのかなりの部分が不良債権となっている実態は、およそどの専門家も認めるだろう。
郵貯と簡保を預金者に見立てれば、それを預かり財投として運用する財務省は銀行のような存在だ。郵貯の民営化に関して、銀行としての財務省の責任を明らかにし、“不良債権”の実態をも解明しなければ、郵貯改革の意味はない。郵政改革はまさに郵貯改革をもって本丸とし、それを日本の財政の立て直しにつなげていくべきなのだ。にもかかわらず、基本方針からそのような考えを読み取ることはできない。竹中氏の力量と識見で、どこまで真の改革に迫れるのか、しっかり見詰めていきたい。