「 民主党が政権を取るには広い視野からとらえる“国益の概念”が不可欠 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年7月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 552
7月11日の参議院議員選挙では、民主党の得票数は、比例で2114万票、自民党の票を400万票以上、上回った。のみならず、選挙区でも民主党は2193万票を獲得し、自民党の1969万票を224万票上回った。
この大躍進ぶりは、たとえば今年4月25日の衆議院統一地方補選の結果と較べてみると様変わりである。埼玉八区、広島五区、鹿児島五区のすべてで、民主党は敗退したからだ。自民党の三閣僚が年金を払っていなかったことが発覚した直後の選挙にもかかわらず、自民党はなぜ勝ったか。言い換えれば、民主党はなぜ敗れたか。その答えは、今回の参院選で、比例、選挙区の双方で自民党に勝った民主党が政権を取るために整理しなければならない重要課題と重なってくる。
ひと言でいえば、大局的見地から国益を考えることである。選挙後の12日、年金と自衛隊のイラク派遣問題を中心に各党の代表が討論していた。年金問題では岡田克也・民主党代表の主張が、自衛隊問題では安倍晋三・自民党幹事長の主張が正論だった。
岡田氏は多国籍軍への自衛隊派遣は憲法の規定に違反するとの立場であり、安倍氏は憲法上も許されるとの立場で、両者、それぞれに理屈は通っていた。だが、安倍氏にあって岡田氏に不足しているもの、それが広い視野からとらえる国益の概念ではないだろうか。
アジアの情勢を眺めれば、どれほど中国の動向に気をつけなければならないかは明らかである。まぎれもなく日本の領土である尖閣諸島を中国領だと主張し、日本が主張する日中の中間線を認めずに、そこからわずか4キロメートル中国側の海に入ったところで一方的に始めたのが、春暁のガス田開発だった。
日本が急きょ、中間線の日本側海域で調査を始めると、中国が妨害に入る。中国世論は反日で盛り上がる。中国政府の強気の姿勢は、彼らが戦略的に育んだ国内の反日世論と、その強大な軍事力によって支えられている。
中国は北朝鮮を通じて朝鮮半島にも影響力を強めつつある。韓国の盧武鉉(ノムヒョン)政権はもとより北朝鮮に同情的で、貧しい北の独裁的国家が豊かでリベラルな韓国を席巻するかのようだ。中国は北朝鮮の暴発を止めることにより、イラク問題で手一杯の米国に貸しをつくり、見返りを台湾で回収しようともする。
日本周辺に伸びる中国の力は、日本にとっては同盟を結んだり価値観を共有して助け合う類いの力ではないだろう。ともすると厳しく競い、対立関係にさえ陥りかねない覇権主義的な力である。脅威となりかねない中国に対して、日本の味方になり、中国へのカウンターバランスとなってくれそうな国、そしてそうなれるだけの力を持つ国は、米国のみだ。
だからこそ、日本はイラク立て直しで米国を支援する必要がある。イラク問題をイラクに限って考えるのではなく、日本を取り巻く世界情勢のなかの重要な要素の一つと考えるべきだ。
自衛隊に関する憲法解釈には疑問もある。政府の説明には矛盾もある。だからこそ、現行憲法の大きな矛盾を正すことが焦眉の急だ。岡田氏は九条を改正し、集団的自衛権の解釈も変更したうえであらためて、自衛隊を出すべきだと言う。しかし、集団的自衛権は国連憲章によってすべての国に認められている。日本にその権利がないと決めたのは、内閣法制局の官僚集団である。
日本を担う政権政党に成長しようとするなら、官僚の憲法解釈に縛られず、国際社会のなかで日本の国益を守り維持していく道を考えるべきだ。その要が、自衛隊問題、憲法問題である。この点で民主党は自民党政策に学ぶべきだろう。