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2004.07.22 (木)

「 小泉、公明党離れで自民再生へ 」

『週刊新潮』 2004年7月22日号
日本ルネッサンス  第125回

参議院議員選挙での民主党の躍進を受けて7月11日の深夜、小泉純一郎首相は次のように述べた。
「何の実績もない、期待だけの時とね、3年間の実績を積んでいるのとでは違いますよ」
「これからあと2年、実績を積むよう努力していかねばならない」

官邸の主は懲りない人だ。小泉政権こそ「何の実績もない」から、民主党に敗れたのだ。公明党の力を借りても、投票日前に泥縄式に社会保険庁長官をスゲ替えたり、曽我ひとみさん一家の再会を前倒しして改革のポーズを演出しても、目標最低議席の51に届かなかった責任は、ひとえに小泉首相にある。にもかかわらず、「これからあと2年」とは、相当厚顔な人である。

自民党の敗北の原因は3つある。第1は、いまや空疎にしか聞こえない小泉首相の過去3年の“改革”の中身のなさである。第2は公明党との協力関係、第3は小泉首相の不純不誠実な人柄であろう。

第1の理由の具体例は幾つもあるが、道路公団改革を例にとろう。道路関係四公団の民営化案が失敗に終わるとの分析はすでに周知の事実といってよいと思う。私はこの件について民営化推進委員会の審議を辿りながら、小泉首相がいかに早い段階で道路族議員らと手を結んでいたかを『権力の道化』(新潮社)に詳述した。同書の執筆時にはどうしても裏がとれなかったため本には盛りこまなかった重要情報があった。本が出版された後にようやくこの情報の裏づけがとれた。それで、今こうして書くことが出来るのだが、それは小泉首相の改革スローガンの無責任さを象徴するものだ。

2002年12月6日に民営化推進委員会は「意見書」を提出した。JR東日本会長で民営化委員のひとり松田昌士氏の案が基礎になっていたため松田案と通称される意見書だ。松田案は「道路四公団を普通の経営責任をもった株式会社にする」という至極真っ当な内容だ。

当時の民営化委員会の意見は二分されており、松田案に対抗して新日鉄名誉会長の今井敬委員長が事務局に指示して作らせた今井案があった。この今井案は現在の政府案とほぼ同様の内容である。

今井委員長は12月6日に出すことになっていた最終意見書を、松田・今井両案を両論併記の形で出そうとしていた。

当時、新聞も2つの案を盛んに報じていた。その状況下、12月2日に塩川正十郎財務大臣(当時)が小泉首相を訪れ助言した。「両論併記は駄目だ」「松田案でいいじゃないか」。

塩川氏は今井案が道路改革を失敗に導くことを見抜いていた。そこで、真の民営会社を作らなければならないとの思いで忠告したわけだ。

すると小泉首相はこう言ったという。「松田案はどんなものなのか」。なんと最終決定4日前の時点で、小泉首相は焦点の松田案の内容を知らなかったというのだ。

塩川氏は小泉首相への配慮から、このエピソードを認めない。しかし当時、この一件を直接塩川氏から聞いた人物がいる。民営化を言い出し、その成功に政治生命を賭けていたはずの小泉首相が、盛んに報じられていた松田案の内容を知らなかったことへの驚きが、詳細なメモにされていたのだ。

公明党化する自民党

このような首相をなんと形容すればよいのか。改革の決意を示すことで世の中の支持を集めた首相は、自らの言い出したスローガンが支持率を高める効果を発揮した時点で、その課題への関心を失ったのであろう。まさに無責任かつ無関心なのだ。小泉首相には、この国の将来を思ったり、将来のための改革を進めることよりも、目前の支持率を高めることの方が大切なのだ。この一件からも小泉首相の語る言葉は信用出来ないと実感する。「あと2年、実績を積む」という言葉も信ずるのは難しい。

選挙で敗れた理由の第2は公明党との協力関係である。自社さ政権で村山富市政権が誕生したときは、自民党が社会党を呑み込む結果となった。歴史的役割を終えた社会党は、総理大臣を差し出し、自民党の政権復帰の道具となることで滅んだ。

しかし、いま、自公連立政権に、自民党が呑み込まれようとしている。長年の自民党支持者と保守層は強い不安と不信を、自公連立に頼る自民党に抱いている。自民党らしさが失われ、自民党が公明党化していくことへの不安であり不信である。明らかな憲法20条違反の公明党と結びつくことは、自民党の目前の問題解決にはなっても、中長期的には自民党を衰退させるだろう。真の自民党支持者ほど眉をひそめ、自民党から離れつつあるのではないか。

自民党は自力で戦え

敗北の第3の理由は小泉首相の不純不誠実さである。重要な問題提起にも決して真っ正面から答えない。はぐらかし、おちゃらけて、最後には開き直る。だから、51議席に届かなかった責任をとって安倍晋三幹事長が辞任の意を示すと「9月以降の政局の安定」を理由に辞意を思いとどまらせ、自らの続投も決めた。3年前の参院選挙では64議席、今回は49議席で15議席の減少は重大責任だ。加えて最低目標も達成出来なければ辞任が普通だ。安倍幹事長の決意のほうが余程、スッキリしている。

首相はこれからは郵政改革だという。80%を超える支持率と国民の圧倒的多数が道路公団改革を支持し、族議員が容易に手を出すことが出来なかった状況下で、小泉首相は族の力に屈服した。いま、首相への支持は陰り、皆が皆、郵政改革に熱いエールを送っているわけでもない。しかも郵政改革は道路公団改革よりは、はるかにスケールが大きく難しい。とても小泉首相に出来る改革ではないだろう。

共同通信が興味深い分析をした。今回の参院選の得票結果に基づいて衆議院選挙の議席を予測したのだ。それによると、民主党が308議席をとって圧勝する結果となる。自民党は単独で戦えば130議席となり現在の249議席を大きく下回り、小政党に転落するというのだ。

但し、公明党との選挙協力が完璧に行われれば状況は反転し、自公完全協力で320議席となる。その場合、民主党は145議席に減少するそうだ。公明党恐るべし。公明党なくしては勝てない自民党は、まさに廂(ひさし)を貸して母家をとられつつある。

自民党再生の鍵は2つである。まず口先だけの小泉首相に替えて、有言実行の人物を総裁にすることだ。自民党内には、小泉氏よりはるかに秀れた人材が多くいるはずではないのか。小泉氏ひとり、辞任させられないとしたら、そのこと自体が自民党の暗い将来を思わせる。そのうえで公明党との選挙協力を止めて、自力で戦うことだ。自力で勝てないなら負ければよい。その敗北のなかからこそ力をつけていくことだ。

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