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2004.06.24 (木)

「 軍事に劣らぬ米国の外交力 」

『週刊新潮』 2004年6月24日号
日本ルネッサンス  第121回

「米仏関係はエリザベス・テーラーとリチャード・バートンの関係と同じ。いつでもくっついたり離れたりする」

米国のCNNが伝えたように、6月上旬の両国の動きは、この1~2年続いていた冷たい関係が、双方の国益を軸に大きく変化し、新たな協力関係に入ったことを示している。イラク統治の混乱で躓いたかにみえた米国の外交が鮮やかに凄まじく立ち直ったことでもある。

6月8日から始まったシーアイランド・サミットに重なるタイミングで、国連安全保障理事会は米英の提案に基づくイラク復興のための決議案1546号を全会一致で採択した。
内容は6月末に占領統治を終えイラク暫定政権に主権を移す、遅くとも来年1月末までに総選挙を行い、来年中に本格的なイラク人の政権をつくる。多国籍軍、つまり米国は、閣僚委員会を通じてイラク政権に関与出来ると同時に、イラク側の要請によって駐留または撤退もするというものだ。

フランスも含めて安保理メンバー国の全会一致で支持された同決議案は、シーアイランド・サミットで、さらに認知された。米英両国提案の新決議案が国連安保理及び主要8カ国の全体的な支持をとりつけたことの意味は極めて大きい。

米国の意図とイラクの現状について6月9日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に米国防副長官のポール・ウルフォウィッツ氏が長文の論文を寄稿した。「主権国家イラクへのロードマップ」と題された同論文は、ブッシュ大統領のイラク政策の5つのポイントを詳しく説明したものだ。

なかでも最大のスペースをさいて説明しているのが治安についてである。現在20万人がイラク治安部隊として任務続行中もしくは訓練中であること、彼らはイラク国軍、民間防衛隊、警察、国境警備隊、施設防衛部隊から構成されているとしたうえで、次のように指摘する。

20万人という数は大きいが、その質にはまだ多くの不足がある。それでもわずか2カ月前の4月には、これほどの規模のイラク治安部隊が出来上がるとは、誰も想像出来なかったであろう、と。

国連安保理でイラク決議案を支持し、8カ国首脳会議でも同決議案への支持を再確認した独仏両国は、それでも、米英を中心とする多国籍軍には自国の軍隊は出さないと表明した。ブッシュ大統領は、「その点は十分に理解している」と述べ、米欧間の亀裂を埋めたが、独仏側も歩み寄った。かわりにイラクの治安部隊の訓練を引き受けることになったのだ。独仏両国が、事実上、軍事的にも力を貸す構図であるといえる。

来年1月末までの総選挙に合わせる形でイラク国軍は現在の6大隊から27大隊、約3万5,000人規模に拡充される予定である。イラク国軍はタスクフォース部隊を結成し、最初のタスクフォース大隊は7月までにバグダッド市内に展開するという。

着々と進むブッシュ構想

イラク民間防衛隊は秋までに45大隊、約4万人の規模になり、現在9万人体制の警察には、より適切な装備を供給し、訓練を施すことで能力を磨くことが強調されている。

民生の向上に、すでに200億ドル(2兆2,000億円)が投じられ、年末までにさらに80億ドル(8,800億円)が追加されること、それによって教師35万人、医師10万人の給料をはじめ、上下水道の改善、灌漑用水路の整備など多様なプロジェクトが進行中だとも説明されている。

多くの具体例が盛り込まれた論文からは、イラク統治を成功させてみせるとの気迫が伝わってくる。イラクの治安回復、民生の安定なくしてブッシュ大統領の再選も、共和党政権の安定もあり得ないからだ。また、国際社会における米国の地位の安定もあり得ない。

これまでのところ、米国の国益をかけた国際社会への働きかけは成功したといえる。イラク国内で発生し続けるテロ、サウジアラビアを新たなターゲットとしたテロが、依然深刻なのに変わりはない。しかし、テロに対する国際社会の一致協力体制はブッシュ大統領の打ち出した拡大中東地域構想によって、さらに補強されていくことになった。

同構想はイラク、ヨルダンなどの中東地域からモロッコ、アルジェリアなどの北アフリカ、アフガニスタンからパキスタンなどの南西アジアを含む広大な地域を対象とする。

ブッシュ大統領はこの地域に民主主義を広めると宣言し、それを主要8カ国が一致して支援することが決まったのが、今回のサミットの大きなポイントでもある。キーワードの〝民主主義〟は、サミットのメンバー国であるロシアにも、また、近い将来の加盟が予想される中国にも影響を与えずにはおかないだろう。両国ともに、民主主義にもとる体質を改めていくことが、陰に陽に求められ、米国は、さまざまなニュアンスをこめてそのことを政治的カードとして活用出来るわけだ。

巧みな米外交を見誤るな

中東の大国、サウジアラビアは〝民主主義〟という壁の前ですでに微妙な反応をみせている。サウジもエジプトもサミットに招かれながら欠席した。自由な選挙制度も確立されていない同地域の、王政や独裁的な色合いの濃い国々にとって、民主主義の高まりは根本的な変化をもたらしかねない。彼らにとって必ずしも歓迎出来ないことであろう。

多様な宗教、文明、文化、民族が誇り高く存在してきたこの地域で、米国の掲げる民主主義の旗が、スムーズに受け入れられていく保証はない。しかし、それに反対する説得力ある根拠も見つけにくい。民主主義を国際社会の大義として、米国は頑としてその路線を進め続けるだろう。その路線に欧州諸国もコミットしていくだろう。

ブッシュ政権はイラク問題の解決とヨーロッパとの亀裂の修復という2つの目的を、巧みに束ね始めたのだ。その先に米国が見ているのは、テロリズムという敵の姿に他ならない。テロリズムを最大の敵とする米国の戦略が、これからもまた、世界秩序の枠となる。ならば日本は新たな米国の戦略を明確にとらえておかなければならない。

米国の民主主義の旗を支えるのは圧倒的な軍事力と舌を巻く外交の力、世界に目配りし、国益にかなえばいかなる国とも手を結ぶ能力である。

米国を単に強大な国、軍事力だけの国、強いだけが取り柄の国と考えるのは大きな間違いである。米国の外交の巧みさにこそ注目することだ。テロ攻撃のやまないイラクではあるが、否定的な面のみに目をとられ、着々と進むイラク統治の現実を見なければ、日本はイラク政策も対米外交も誤ることになる。情報収集と分析能力を高めるために、日本はもっとお金も人も投入するほうがよい。

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