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2004.05.01 (土)

「 3人の沈黙は何を意味するか はき違えてはならない『自己責任』論の本来の矛先」

週刊ダイヤモンド   2004年5月1・8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 541

イラクで人質になった3人が帰国し、無言のまま、故郷に戻っていった。飛行場での映像には、解放後にイラクで見せていた笑顔も見られなかった。そして福田康夫官房長官や川口順子外務相の、「1人ひとりが責任を自覚してほしい」との3人を諭すような言葉が伝えられた。

全体的になにかがおかしい。おかしさを解明するには、事件を分解して考える必要がある。

世論がこの人質事件をまずなによりも“自己責任”の問題だととらえたのには、明確な理由があった。人質となった3人の、家族の方がたの反応が理由である。

事件発生後に、政府は「自衛隊の撤退はない」と断言した。そのことを報道陣から伝え聞いた高遠菜穂子さんの妹さんは、テレビカメラの前で「姉に死ねというんですか」と強い調子で語っていた。もしくは、高遠さんの弟さんも、「われわれの要求はまず首相に面会すること」「首相に直接、自衛隊の撤退を選択肢に入れていただけるよう直談判したい」と述べた。弟さんは、政府関係者との話し合いの席では、時に激高し、指を突きつけるようなジェスチャーを交えて政府の対応をなじったりもした。

こうした言動がテレビカメラを通して報道されたときに、世論は烈しく反発し始めた。家族の側の感情論が、家族ゆえのやむにやまれぬ想いであることは多くの人びとも感じ取っていたはずだ。けれども、日本人なら半ば以上期待されている、「ご迷惑をおかけしています」という言葉よりも先に、一方的に要求を突きつける言動は、この国で従来大切にされてきた価値観とは相反していた。そこから世論の批判が起きたのは当然でもあった。自己責任論は、あえていえばイラクに行った3人より先に、国内の家族の言動に向けられたものだったわけだ。

にもかかわらず、帰国した3人は蒼白(あおじろ)い沈黙のなかに沈み込んでいる。世論の批判が3人のボランティア、もしくは取材活動に向けられたと考えているからだろう。だが、再度強調したいのは、国内に渦巻いた自己責任論が、そのまま、3人のイラクでの活動を否定するものではないことだ。犯人グループを批判せずに自国政府を非難した家族の言動への批判ではあっても、国際社会に関心を持ち、国外で活動する人びとへの批判ではないのである。また、そうであってはならないと私は考えている。

さまざまな価値観がせめぎ合う国際社会では、言うまでもなく、自己責任がすべての基本になければならない。その点を押さえたうえで、日本人も大いに外国に出て、自分の能力を発揮したらよい。その意味で、同じようにイラクで人質となり解放されたフリーの記者の安田純平さんが、今回の行動は“稚拙で素人のような行動”だったと反省し、“無謀との批判”に甘んじながらも、“イラクの現状を伝える取材は必要”であり、“取材に行ったことを詫びる気持ちはない”と語っているのを聞いて、私は安心したのだ。おそらく次回の取材では、彼が語っているように“飛び込み取材でなく、現地の関係者に連絡を取るなど”して成功させることだろう。

さて、気になることがもう1点。今回の“成果”をもって、小泉政権が国民の生命や安全を、責任を持って守ってくれたと単純には喜べないことだ。自衛隊を派遣した首相にとって、5人の無事解放は政権を賭けた挑戦だった。同時に、政府が国民を救出するのは当然だ。拉致問題のように、これまで政府は必ずしも国民を救出してはこなかったし、反対に、政府が国民を見捨てた事例は少なからずある。無事に解放された今回のケースは喜ばしく、政府も“救出してやった”とでもいうべき雰囲気がある。だが、救出は政府として至極当然の責任だということを強調しておきたい。

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