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2004.04.22 (木)

「 テロには屈しない決意が必要 」

週刊新潮  2004年4月22日号
日本ルネッサンス   第113回

 邦人3人が人質にとられ5日がすぎた今、改めて奥克彦大使の残した『イラク便り』(扶桑社)を開いてみた。

外務省のホームページに書き残していた奥大使の『イラク便り』には、多くの人々の死が登場する。2003年8月22日、デ・メロ国連事務総長特別代表の棺は国連旗に覆われブラジルの空軍機によって「凛々しく」迎え入れられ故国に帰っていった。カナルホテルに置かれていた国連事務所が爆破された現場で奥大使は、想像以上の惨状に圧倒されながら、その瓦礫の中に血に染まる名刺を見つけた。なんと親しかったユニセフのクリス・ビークマン氏のものだったという。血染めの名刺から、「我が日本の友人よ、まっすぐ前に向かって行け!」という声が聞こえてきたようだと、大使は書き遺している。

イタリア軍が襲われ、18名のイタリア人と9名のイラク人が殺害された南部ナシリヤの現場では、国連事務所爆破と同じ悲惨な状況に、奥大使は言葉もなく立ち尽くした。

 米軍以外にも対象を広げていくテロリストを批判しながら、奥大使は「これを契機に国連の腰が引けていくようであれば、テロリストの思い通りの展開となる」と警告した。

 そしてその大使自身、井ノ上正盛一等書記官と共に、昨年11月29日、イラク中部のティクリート近郊で殺害された。

 多くの人の死が登場する『イラク便り』のなかで、死と背中合わせの時間をすごしながらも、奥大使は常に希望を語っている。その希望は甘い期待や人任せの姿勢のなかから生まれたものではなく、日々、幾人もの命が失われていく危険なイラクで、自分の命をかけて紡ぎ出した希望である。

「国際社会とテロとの戦い」の構図をイラク復興のなかで確立することこそ、「自分が負傷しても任務を解かないでくれ」と叫びながら亡くなっていったデ・メロ特別代表の遺志を生かす道だと奥大使は書き遺した。奥大使も、そして井ノ上書記官もデ・メロ特別代表と同様の気持ちだったに違いない。

脅しに屈しテロが拡大

イラク情勢が危険であり、その危険が生半可でないことは、誰の目にも明らかだ。だからこそ、政府はイラクは“超危険地帯”とし、最強の警告である「退避勧告」を13回にわたり出してきた。人質にとられた3人の家族の皆さんも“いかないように泣いて頼んだ”と語っていた。政府の警告も家族の必死の説得も振り切って行った先に、この人質事件が発生したのだ。

 今回の事件で、1977年のダッカ事件を想起した人は多いだろう。時の総理は福田赳夫氏、現官房長官の父である。日本赤軍の脅しに屈して服役及び勾留中のメンバーを釈放し、現金600万ドルを持たせた。日本政府のこの“超法規的措置”は国際社会によって厳しく批判され、その後、さらにテロ活動を拡大させ、多くの人命が奪われる結果を招いた。

康夫氏は父親の失敗からきちんと学習していた。氏は「自衛隊はイラク復興支援のために行っている。3人もイラク人を助けに行っている。それなのになぜ人質にとり、自衛隊撤退を要求するのか。スジが通らない」と主張した。官房長官の言い分は正しい。小泉首相も自衛隊の撤退はないと断言したが、それも正しかった。

その後、次々と外国人が誘拐されたが、その中には中国人、ドイツ人、ロシア人など、米国のイラク政策に協力的ではない国、又は反対を表明した国の国民も含まれている。中国人7人は4月13日解放されたが、ドイツ人やロシア人については13日現在、情報は確認されていない。

このことからも、自衛隊のサマワ派遣と人質事件が一体どこまでつながっているのかは必ずしも明らかではない。情報が錯綜する中で3人の人質解放の交換条件とされた自衛隊撤退期限が切れたのが11日の日曜日午後9時だ。続いて同日夜10時20分、アルジャジーラが「犯人グループが自衛隊撤退を重ねて要求し、受け入れられなければ24時間以内に人質1人を処刑すると警告した」と報じた。

外務省筋は、この情報の信憑性は低いとみた。しかし家族側は敏感に反応し、約2時間後の12日深夜、会見を開き、政府に自衛隊の即時撤退を求めたのだ。

家族の皆さんは、わらにも縋りたい気持ちであろう。子供や姉妹の命を助けるために、自衛隊を撤退させてほしいというのは正直な気持ちであろうし、肉親を想う気持ちには切実なものがあるはずだ。

しかし、自衛隊即時撤退を求めることが、どれだけ問題解決に貢献するだろうか。マイナスの影響はあっても、プラスのそれは全くないと思う。国際日本文化研究センター助教授の池内恵(さとし)氏が、家族の日本政府批判が犯人たちにどのように受けとられるかを考える必要があると指摘していた。

撤退は解決に繋がらない

中東の衛星テレビには、「日本政府を批判するデモ隊の映像」が連日、流れており、それが人質解放交渉を膠着させている要因のひとつかもしれないというのだ(4月13日『日経』)。

 
中東アラブ諸国では、自国の政府批判をメディアで見聞することが余りないために、日本での政府批判の報道は、テロリストたちに、日本国民と連帯すれば日本政府を動かすなど、自分たちの目標を達成することが出来ると思わせてしまいかねないとも池内氏は語っている。

もうひとつの重要な指摘は、今回人質をとられた国々のなかで、人質の家族や支援団体が、犯人グループではなく自国政府を批判し、軍の撤退まで要求した点において、日本のみが際立っているという点だ。

家族の皆さんと支援者グループは自衛隊の即時撤退を、当初から求めた。他の国の人質家族や支援者グループと較べて、日本人の対応が異なっていれば、犯人たちは当然、その隙を衝く戦略をとる。だが、そんなことを犯人たちに許してはならないのだ。犯人グループを責める代わりに日本政府を責めるのは、本末転倒なのである。

私たちの確認すべき原則は2つである。どんなことがあってもテロには屈しないこと。そして、軍人も民間人も殺されつつある国に、13回にわたる政府の警告を承知で出かけて行ったからには、やはりなにがおきてもそれは3人の自己責任だということである。

無論、日本政府には国民を守る義務も責任もある。だから、政府は出来得る限りの努力をすべきである。そのことを強調し、自明の大前提としたうえで、家族の皆さんも政府も、そしてマスコミも、日本と日本人はテロには屈しないという決意を確認し合うことだ。

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