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2004.04.15 (木)

「 いつも行き当たりばったり 」

週刊新潮 2004年4月15日号
日本ルネッサンス   第112回

思わず、「またか!」と思ってしまったのが、山崎拓、平沢勝栄両氏による北朝鮮外交である。

またか!の嘆息の対象は、しかし両氏ではない。その背後にいる小泉純一郎首相その人である。首相は、山崎氏らの訪中を、当初は知らなかったと言い、次に、中国にいる山崎氏から電話をもらって知ったと語ったが、山崎氏が首相の了承なしに北朝鮮側と接触したとは考えにくい。山崎氏がこれまで拉致被害者に関心を抱いていたわけでもなく、氏が自らの意思で、拉致問題解決のために行動したとは思えないのだ。

一方で、平沢氏は、山崎氏を介して首相と相談して拉致問題の解決に動きたい旨、語った事実がある。すでに本誌でも報じられたが、氏は3月8日、読売新聞主催の外交問題研究会で、7月の参議院選挙前に、帰国した5人の被害者の子供さん達8人を帰国させて、自民党の大勝につなげたいとの希望も披露した。

2002年9月17日に、自ら訪朝することで5人の帰国の道を拓いたと自負する首相だからこそ、2度目の成功を目論んだのだ。ひょっとしたらうまくいく、と思わせる情報も伝えられた可能性がある。それにしても、2002年のピョンヤン訪問も、今回の山崎氏を介しての交渉も、首相はなんと、出たとこ勝負の人だろうか。2002年9月の訪朝と、結果としてのピョンヤン宣言からも、そのことは見えてくる。あの宣言を高く評価する人がいるが、私は、見方を異にする。

ピョンヤン宣言は、日朝国交正常化の早期実現のため、あらゆる努力を傾注することをまず謳いあげた。つまり、日本が韓国にしたのと同様に、財産の請求権の放棄によって経済的支援体制を早く組むべしという意味だ。

宣言には続いて日本の北朝鮮に対するお詫びと反省が書かれ、北朝鮮側はミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も延長していくとされた。

宣言の文案は日朝間で練り上げられ、首脳会談前に作成済みのものだ。初めて両首脳が会い、金総書記が拉致を認め、謝罪したのは驚きだったが、宣言文にはその謝罪は全く反映されていない。拉致という文字が宣言文に入っていないことも、余りの素人外交だとして、批判されてきたのは周知のとおりだ。

北朝鮮に理と力を示せ

ピョンヤン宣言は失敗策だったと私は考えるが、今、日朝交渉にその影響が生じている。北朝鮮側が、宣言文に拉致の言葉ひとつ入っていないのに、なぜ、日本側はそんなに要求がましいのかと、日本側を批判するのだそうだ。

そのような国に、外交の素人である2人の政治家を派遣してどういう成果を期待するのだろうか。“百点満点”の成果が出るなら、小泉首相は、実は自身の関与を明かすことになっていたと関係者は語る。が、外交はたまたま、上手くいくという性質のものではない。いわんや、7月の参議院選挙の日程が戦術の1要素だとしたら、まさに逆効果である。

秘密交渉は、秘密に行われなければならず、信頼関係が必須だ。信頼という観点から、日本は北朝鮮をどう見つめるべきか。独裁者の国の官吏を信頼するのは、その官吏の意思とは別次元で決定が下されるため、官吏の資質にかかわらず、心もとない。信頼は交渉相手の資質の問題ではなく、北朝鮮の体制の問題だ。したがって、あえていえば、どんなに立派な人物であっても、信じてはならない相手が北朝鮮政府関係者だ。

したがって、彼らとの意思の疎通は理と力を以てはかるしかない。

理とは、こうすればこうなるという合理の方程式を相手に示し続けることだ。そして日本が、決してそこからぶれないことを確実に理解させることだ。彼らの行動と意思によってのみ、結果の良し悪しがもたらされることを、繰り返し、強調することだ。

力は、まさに全ての意味の力である。経済力、政治力、軍事力、文化力、国民の心の結集としての国民力。どの国にもその力を無視はさせないという迫力を、秘密外交の担い手たちは、本来、備えているべきだ。

場当たりで進路を誤るな

その意味で、山崎、平沢両氏は、国民、少なくとも拉致被害者とその家族達の信頼を勝ちとれているか。私は小泉首相に、自身の手を胸に当てて、熟考してほしいと思う。なぜ、2年前の9月17日、金正日に拉致を謝罪させながら、一部とはいえ手厳しい批判を浴びたのかと。理由は明らかだった。

“5人生存、8人死亡”などという衝撃的な情報を突きつけられながら、予定調和のなかにおさまって拉致の言葉さえない宣言に、易々と署名したからである。そんなに容易に署名出来たのは、“8人死亡”と言われても、恐らく、首相の脳裡に、8人の人々一人一人の顔や名前が浮かんでこなかったからではないか。家族の人々の顔も、定かではなかったからではないか。

拉致問題は首相の頭の中にはあっても、胸の中にはなかったとしか思えない。外交は、理と情の総合力だ。自分の職責として守るべき人々への想いは、努力して、学んで、訓練して、深めていけ。取り組む課題を深く学べということでもある。それが出来ていれば、対峙の瞬間に、相手に負けない気迫も保ち続けることが出来る。

山崎氏にそれがあるだろうか。氏は、前述のように、これまで拉致問題に興味を示したことは、私の知る限りではない。氏が、被害者家族らの信頼を受けているわけでもない。首相が山崎氏を選んだのは、首相の“親友”という要素抜きには考えられないだろう。ついでに、現在落選中であることも。事が進展すれば、選挙で有利との思いはなかったか。

もし、あったとしたら、拉致の政治利用で、被害者と家族にとっては、迷惑だ。身近で容易に支配出来る人間から人材を選ぶ首相の手法は、拉致も道路公団も似通っている。

田中一昭元委員長代理の『偽りの民営化 道路公団改革』(WAC)を読むと、委員長の今井敬氏は、委員会初日に田中氏に言ったそうだ。「上場なんて、できませんよね」。

民営会社の株式上場は、首相が民営化への熱意を込めて、強調した目標である。首相に任命された委員長が、会合初日に首相の思いを否定してみせたというのだ。今井氏が悪いのではない。氏を選んだ首相が悪いのだ。人材登用能力を欠落させた首相の政策は、人材を欠いている分、勘に頼る。だからこそ、道路改革も北朝鮮外交も、出たとこ勝負の対処は避けられず、やがて日本の進路を誤らせることになると思うのは杞憂だろうか。北朝鮮の日本への働きかけは、経済制裁法案や特定船舶入港禁止法案の国会審議に合わせて行われた。このことを忘れてはならない。

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