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2004.03.25 (木)

「 反米韓、親北が弾劾の引金 」

週刊新潮 2004年3月25日号
日本ルネッサンス   第109回

韓国の政治はサッカーのようだといわれる。過熱して我を忘れ暴走するというのだ。

3月12日、盧武鉉(ノムヒョン)大統領は政権発足1年で韓国憲政史上初の弾劾案可決に見舞われ、職務執行停止に追い込まれた。弾劾案が可決されたときの韓国議会の映像は、議員が床に転がり泣き叫び、投票箱が投げとばされる類のものだった。その場面がいま、繰り返し、韓国のテレビニュースで報じられ、その度に、韓国民の間に野党各党が強行した“醜い”仕打ちに対する悪感情が掻きたてられていると、ソウルの友人が語った。

「汝矣島(ヨイド。韓国の永田町、国会議事堂、各政党本部などが集中)では弾劾に抗議して焼身自殺した人も出ましたが、なんといっても、テレビが国会の凄まじい乱闘シーンの映像を繰り返し流し、その結果、弾劾決議をした野党が悪者になり、盧大統領の与党ウリ党の支持率が上昇しているのです」

弾劾後、与党の支持率は9ポイント余も上昇、30%をこえ、40%に近づきつつある。友人が語る。
「4月15日の総選挙までこの調子でいくと、与党ウリ党が100議席の大台に乗せる可能性もあります。現在46議席ですから、倍増以上です。次の国会からは議席数が299に改正されます。ウリ党が100以上取れば、3分の2の議席を野党に取られることがなくなります。弾劾も憲法改正も、可決するには3分の2以上の賛成が必要ですから、ウリ党はそれを防ぐことが出来るわけです」

ちなみに現在、各党の勢力は、ハンナラ党が147議席、民主党61、盧大統領のウリ党が46などである。最大議席をもつハンナラ党は、相次ぐ金銭スキャンダルで急速に支持を落とし、4月15日の総選挙では、大幅に議席を減らすとみられている。

盧大統領の側には、自分は圧倒的な国民の支持を得て当選したのに、国会では野党が3分の2以上の議席を持ち、スムーズな政治運営が妨げられてきたという恨みがある。その恨みを一部国民も共有するのか、弾劾案可決を機に、世の中の風は、“苛められた”大統領を押す方向に吹きつつある。大統領を追い込んだ野党各党が、大統領代行の高建首相に、直ちに全面的な協力を申し込んだ背景には、大統領への国民のこの強い同情が見てとれる。

それにしても、弾劾の原因は、大統領が与党ウリ党を支持してくれるようにと語った“選挙法違反”などである。

掲げられた口実は、韓国社会に蔓延する体質のようなものだと友人は語る。法治国家でありながら法治国家ではなく、不正腐敗を許さないと言いながら、不正腐敗にどっぷり浸っているのが韓国だというのだ。

権力の中枢人物に近づけば必ず、甘い汁の吸える社会であるために、歴代の政権のどの大統領も、政権を離れた途端に大統領自身かその子息を含む親族が、汚職収賄などで逮捕されてきた。腐敗は全員につきものなのだ。盧大統領自身、自らの不正資金が野党の10分の1を超えていたら政界引退する用意があると語ったと、『日経』の社説(3月13日)は指摘した。

対北ガードをなくした韓国

法治国家であれば、政府も国民も法を社会の枠組みとしなければならないが、現政権の民情首席秘書官(民生安全担当首席秘書官)は、『週刊朝鮮』のインタビューに対し、「かつて、韓国では公権力が乱用され被害を受けた人が多いため、(暫くの間は)公権力の行使は寛容的で自制しなければならない」と答えたと『産経新聞』の黒田勝弘氏は報じていた。

法を守らせる公権力の行使を寛容にし、自制すると、民生安定担当の首席秘書官が公言するのだ。日本には同様の職責ポストはないが、行政府の人間が「暫くの間、取り締まりを緩和する」と発言するようなものではある。国家全体が液状化しているといってよいだろう。

「皆が皆、こんな状態ですから、野党の掲げた選挙法違反や不正腐敗の追及などは、大した問題ではないと受けとられているのです。そのことよりも、各政党は、もっと重要な事を問題にすべきでした。それは、現政権の反米、親北路線の当否です。反米、親北路線は韓国の全てを正面から否定する考え方でもあります」

韓国政府の一員だったこの友人は誇り高く、自分の考えをはっきりと表現する人物だ。氏は、野党の弾劾案の真の動機は、盧大統領の反米、親北、反韓国の価値観に対する保守層の我慢が、限界に達し爆発したのだと説明、韓国の民主化路線を振り返った。

「盧泰愚(ノテウ)政権のときから民主化と対北宥和外交が始まりました。これまでの約15年間で、最も大きく変わったのが北朝鮮に対する韓国側の考え方です。完全に対北ガードをなくしていったのです」

北朝鮮への心理的武装解除を韓国が進めたのに反して、北朝鮮側は変わらずにきた。否、より狡猾に対南工作を進めてきた。北側の働きかけによって韓国の若い世代は親北感情を深め、反米感情を高めていった。

自虐史観は変わるのか

ここ1~2年だけでも顕著な事例がある。2003年は、ラングーン事件から20周年。アウンサン廟での北朝鮮の工作員による爆発事件では全斗煥(チョンドゥファン)大統領に同行した閣僚ら17名が死亡した。大統領の乗った車がたまたま少し遅れて到着したために、大統領自身は無事だったが、国家の中枢が襲われた悲劇について、韓国では追悼の催しはなにも行われなかった。

対照的に1987年の金賢姫らによる大韓航空機爆破事件は、今や、韓国側の仕掛けたもので、金賢姫も韓国の情報機関の構成員だという情報が、3大テレビ局をはじめマスコミを賑わせているという。日本でもこの秋に封切り予定の韓国の超人気映画は、韓国政府がかつて、金日成、金正日暗殺の秘密部隊を平壌に送り込もうとしていたというものだ。韓国政府の陰謀は強調するが、北朝鮮によるテロや犯罪への批判は見事に欠落している。

「反米、親北、反韓国の傾向を強める若者世代を敵にまわすことを政治家が怖れる限り、韓国はより反韓国となり、液状化するばかりです。そこに、盧大統領のように、国際社会も安全保障も知らない人物が出現し、若者にアピールした。いつまでこの過熱感情が続くかはわかりませんが、暫く見守るしかありません」

友人の指摘は、日本にとっても深刻な影響を及ぼす。だが、健全な保守主義の芽も出ていないわけではない。今年3月1日、反金正日、反核、親米のデモがソウルで行われ、約10万人が参加した。昨年、3度にわたって行われたのと同様のデモだ。時間はかかるが、少なくとも金正日政権をまともに批判出来るだけのこの種の大人の考えが育つのを待つしかない。隣国の混乱で痛感するのは、やはり、教育の重要性である。

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