「 内容も姿勢も一新した 『在日』の日本国籍取得運動 日本は早急に道を拓くとき 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年2月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 第530回
「2004年2月1日は、われわれと日本の歴史において記念すべき日になるでしょう」
こう語るのは河炳俊(ハ・ビョン・ジォン)氏、56歳、日本生まれの在日コリアン2世である。
河氏らはこの日、都内で「在日コリアンの日本国籍取得権確立協議会」設立記念集会を開いた。「在日に権利としての日本国籍を」と大書し、国籍取得問題に前向きに取り組む河氏らの姿勢は、従来の在日の人びとによる権利要求運動とは大きく異なる。従来は、在日を外部者ととらえて権利を主張してきた。だが今、河氏らは日本国籍を取得し、この国の一員となって権利も義務も引き受け在日コリアンとして活動の場を広げたい、加害者・被害者の関係からも脱却して、対等の関係になろうというのだ。
これまで、在日の人びとの日本国籍取得には後ろ向きの影が色濃く落ちていた。日本当局が、かつては強引に、最近はやんわりと彼らの歴史や文化を否定し、姓名まで変えさせようとしたことも原因の一つだ。名前まで日本風にというのは、それが必ずしも悪意から出た助言ではなかったとしても、また、日本名のほうがこの国で生きていくのには摩擦も少なくてすむという親心だったとしても、在日の人びとにとっては自己否定にほかならない。
日本側がそんなふうだったから、彼らの考えもおのずと否定的になる。“差別する日本”に反発しながら法律上その国の一員になることに、心がついていかない。にもかかわらず、便宜上、日本人になる。だから素直になれない。葛藤の国籍取得は、被害者意識や諦めの感情につながり、責任を日本国に転嫁する姿勢をも招いてきた。
「そんな時代はもう終わりにしなければならない。客観的情勢が大きく変わりつつあります。日本は人口減少で外国人を受け入れ、多民族国家へと移っていかざるをえず、そのことを政府も日本人も認識しつつあります。われわれ在日コリアンは、このままでは文化も名前も喪って、日本社会に埋没してしまうかもしれません。通名(日本名)でなく、本名で国籍を取得し、コリア系日本人として誇りを持って生きていく道を選びたいのです」
河氏らの国籍取得運動は、ひと昔前にはとうてい考えられなかった。1世が強い影響力を持つ在日大韓民国居留民団(民団)などの組織に、裏切り者呼ばわりされるのが落ちだった。しかし、協議会設立集会には、韓国系の民団からも北朝鮮系の在日本朝鮮人総聯合会からも参加者がいた。状況は確実に変わりつつある。権利としての国籍取得、という視点への共感も興味も強いのだ。
背景には、日本における在日社会の変化もある。現在、日本に住む韓国、北朝鮮籍の人びとは48万人、毎年約1万人が日本国籍を取得しつつある。
法務省東京入国管理局長・坂中英徳氏が指摘する。
「単純計算すれば、在日は長くても50年以内に消滅します。3世4世が多数を占める今、結婚相手の9割が日本人で、彼らには朝鮮半島に戻る発想はほとんどない。しかし、その場合でさえも、彼らの民族性と誇りを埋没させてよいわけではありません」
河氏が強調するのも、この点である。便宜上、通名で日本国籍を取得するのでなく、コリア系日本人となり、名前も民族の誇りも喪わずに、この国の“正会員”になるほうがよいという点だ。日本にとっても、協議会の提案は歓迎すべきものだ。人口減少に対処するためにも、外国人の参加が重要な意味を持つ21世紀の日本で、他民族と折り合って、1+1を3にも5にもしていく賢さをいかに培っていくか。その第一歩が、在日の人びととの互尊共存だ。具体策として、何世代も日本に住み特別永住許可を持つ在日の人びとには、届け出だけで国籍を付与する道を早急に拓くべきだ。