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2003.10.11 (土)

「 『米百俵』の長岡の精神に似合うか、田中眞紀子氏釈然としない出馬表明 」

『週刊ダイヤモンド』 2003年10月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 514回

田中眞紀子元外相が、次の衆議院選挙に出馬するらしい。一方、辻本清美氏は出馬せずと報じられた。

釈然としない人も多いに違いない。もっとも、眞紀子氏は潔白を主張して不起訴になったのだから、出馬に不都合はないという立場なのかもしれない。

しかし、長岡市で中学から高校まで4年半を過ごした者として、さまざまな想いを抱かざるをえない。

眞紀子氏の類稀(たぐいまれ)なる言葉のセンスや有権者受けする即興のスピーチの巧みさは、確かに見事である。少しばかり品のない所作もご愛敬であり、むしろ、身近に感じさせる要素だろう。政治家ではなく、一人の女性として眺めるには、興味深い対象である。

けれど、眞紀子氏が外相だったときのことを考えると、抑え切れない失望感がわいてくる。どれほど国益が蔑(ないがし)ろにされたかは、金正男の不法入国や、アーミテージ国務副長官との会談を直前にキャンセルした事例からも明らかだ。指輪紛失騒ぎなどは、思い出すだけでも呆れ果てる。

そして思うのだ。二度とこのような人物を、長岡の有権者の代表になどしてほしくないと。
長岡にゆかりのある者なら、なにがあっても眞紀子氏を庇(かば)うのが一般的な反応なのかもしれない。けれど、長岡を長岡たらしめてきた伝統や価値観を知れば、眞紀子氏ほど長岡の代表に似つかわしくない人物はいないと思えてもくる。

北越戊辰の役で敗れた長岡藩に、親戚の三根山藩からの見舞いにコメ100俵が贈られ、それで長岡の未来を担う人材を育てるための学校が建てられた。あの有名な「米百俵(こめひゃっぴょう)」の物語だ。

賊軍となり、戦いに敗れ、城も焼かれ多くの藩士が討ち死にした。寒さは厳しく、飢える領民にコメを配らずに学校を造る元手にするというのは、想像以上に自らを律する精神が、長岡藩士の側にも領民の側にも必要だ。苦しくも賢い選択は、いかにして可能だったか。その理由を考えるヒントを、長岡藩主の末裔(まつえい)、牧野忠昌氏にうかがったことがある。

たとえば、長岡藩の藩士は生涯、新米を口にしなかったというのである。民が一年かけて、汗して作ったコメを納めさせて、武士たちは暮らしている。武士は人の上に立つ身である。だからこそ、人一倍自らを律しなければならない。欲望を抑えるとともに、社会を支えている民の心を識(し)らなければならない。彼らの働きを多(た)とせよと、藩士たちは教えられて育った。

自らを律する方法はさまざまあるが、その一つとして、長岡藩には「藩士たるもの、新米を口にせず」との教えがあり、翌年2月の旧正月まで、新米を食べることはなかったというのだ。

長岡藩の家老稲垣家の娘・鉞子(えつこ)は、『武士の娘』(筑摩書房)のなかで、武士の子どもたちがどのように育てられたかを綴っている。真冬の寒の厳しいさなか、火鉢一つない部屋で6歳の女児が手習いをすること、その手が寒さで紫色になること、母親が鉞子の健康を気にする一方で、父親は、「武士の教育を忘れてはならない、なぜなら、それでこそ、生涯の大事を成し遂げる力が養われるからだと幼い娘に諭した」ことなどが紹介されている。

眞紀子氏を考えるのに、なにもここまで歴史を遡(さかのぼ)る必要はない。ただ、多くの地方の町や市に、古きよき伝統が受け継がれてきたように、長岡にも、誇らしく思う価値観が受け継がれてきた。そうしたものとのつながりよりは、父角栄の遺産に依存するばかりであるかのような眞紀子氏への失望は、深いのだ。

自らが政治の世界に立ち戻ることで、何を行なおうとしているのか。選挙区の人びとやこの社会と国に、どう役立とうとしているのか。過去、現在の眞紀子氏からは見えてこない。そのような人物を国会に送るとしたら、長岡人としては恥ずかしい限りなのである。

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「 『米百俵』の長岡の精神に似合うか、田中眞紀子氏釈然としない出馬表明 」

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