「 対イラク・国連決議成立で転換迫られる日本の国防戦略 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年11月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 470回
米国の中間選挙で、共和党が上下両院および知事選挙でも勝利を収めた。大統領の党が議会をも制するのは、1902年のセオドア・ルーズベルト大統領(共和党)、34年のフランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)以来、3度目だそうだ。
さらにブッシュ政権の主張するイラクへの決議案は、国連の安全保障理事会で15ヵ国すべての賛成を得て全会一致で成立した。ロシア、中国のみならず、アラブ強硬派で米国案にはあくまでも反対だったシリアも賛成した。
決議案はイラクに対し、国連採択の日から30日以内に大量破壊兵器開発計画の全容説明、大統領関連施設を含むすべての施設への無条件、無制限の立入り調査、イラクの科学者、研究者、官僚ら事情聴取が必要と思われるすべての人びとへの自由な聴取、国連査察団の安全確保のための国連部隊の展開などについて、受入れか否かを7日以内に明らかにせよと迫るものだ。
安保理での採択は8日に行なわれたため、15日までにイラクは回答しなければならない。11日現在、イラクは決議を受け入れるとの観測が広がっているが、日本にとって重要なのは、米国の動きと、米国に歩調を合わせた国際社会の動きをどう読むかである。
中間選挙での共和党による100年ぶりの勝利と、国連での全会一致の採択は、21世紀の国際社会が当分のあいだ、テロとの戦いにその基軸を置くことを示している。米国では来年1月1日から国土安全保障省が発足する。米本土防衛のために設置される新しい省は、テロ関係8省庁20部局を一気に統合し、17万人ともいわれる人員を擁する巨大官庁になる。ペンタゴン、復員軍人省に次ぐ第三の省だ。杏林大学教授の田久保忠衛氏が語る。
「国土安全保障省は、ブッシュ大統領の特命を受けたアンドルー首席補佐官が極秘裡に民主党幹部を訪ね、テロ対策の本格的な大省庁をつくる、たたき台の案を出してほしいと申し出て、民主党が基本枠を書いたのです。共和党は政権政党ですから、民主党案に多少の修正を加えて、あっという間に成立させたのです」
となれば、両党合作の新組織を基本に米国は動いているとみるべきだ。対テロ強硬策を掲げたブッシュ政権が中間選挙で100年前の共和党勝利を再現し、国連安保理でも全会一致の支持を得たことを過小評価してはならない。
これまで日本は、米国のイラク戦略に関して、国連の決議なしには同調できないとして消極論を唱えていた。だが、国連決議がなされた今、どのような協力をするのか。米国に強要されて決断するのではなく、日本自らが考えてこそ、協力の価値も高まる。
イラクが国連決議を受け入れればよい。受け入れない場合は、どうするのか。米国を中心に軍事行動がとられると仮定して、日本はこれまで続けてきた“後方支援”の建前のままでいけるのか。仮にロシアが軍を派遣する場合、同盟国の日本はどうするのか。米国に対して、英国のようなかたちで自衛隊を派遣することはとうてい無理である。だが、たとえば情報収集に秀れた能力を発揮するイージス艦の派遣を検討してはどうか。同艦の派遣は米国からも望まれている。日本の持つ秀れた能力を国連決議の下で役立てることについて、前向きに検討すべきである。
日本にとってのテロの脅威は、むしろイラクよりは北朝鮮である。ノドンミサイルは、ほかでもない日本を狙っている。米国のテロ対策に手を貸すという発想から、自らを守るという発想に切り替えることが重要だ。その意味において、私は、石破茂防衛庁長官が、ミサイルディフェンスの開発に踏み込むべきだと述べたことを支持するものだ。安全保障も外交も自ら考え実行しなければ、実効は上がらない。