「 国益を賭けた対中国政策に水を差す民主党議員の言動 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年6月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 447回
中国瀋陽の日本総領事館での亡命事件をめぐって、中国政府がその姿勢を豹変させたのはなぜだろうか。
事件発生当日の5月8日、中国政府は、日本公館の安全確保のための措置であり、問題はないとの立場を表明した。9日になってもその立場は変わらず、あくまでも日本公館を守るための行動だったと主張した。それが、10日夜になって突然豹変した。
この間、日本政府側は、5人の亡命者の引渡しと、中国政府の陳謝および再発防止の保証を強く求めた。日本が中国に“陳謝”を求めるなど、おそらく前例はなく、中国側は予想だにしていなかった。そのこと自体に中国側は大きな驚きを示したという。
一方で、日本国内の世論は、外務省から発表される情報に疑惑の視線を注ぎ続けた。一連の外務省の不祥事と、今回の後手後手の対応のまずさが、どうしても外務省への不信感をかき立ててしまうからだ。
国際外交の厳しさを考えれば、中国がそのような外務省の立場の危うさをよくよく知り尽くしたうえで、主張を変えた可能性は否定しきれない。彼らが「日本側が連行に同意した」「武装警官に感謝した」と主張し始めたのは10日の夜以降である。日本国内の世論が、中国が悪いと言う前に、厳しい外務省批判へと傾いていくのと軌を一にするかのようなタイミングである。
今日20日までに、日中両政府の調査内容が発表された。読めば、それぞれの立場がよく見えてくる。日本側の報告が必ずしも完璧であるわけではない。むしろ、中国側の主張は微に入り細に入り記されていて、日本側より説得力があるとの指摘もあった。
しかし、ならばなぜ、中国側は事件発生後3日目の夜になって、ようやく公表したのだろうか。日本側が許可し、謝意まで表明していたとすれば、そんな重要情報はいち早く、中国政府によって発表されていたはずだと考える。
日中双方のこの大きな主張の隔たりが埋まることは、おそらくないだろう。双方ともに主張し続けるだろう。それが国際政治の一側面である。こういうときこそ、国家という存在は、まとまらなければならないのだ。
にもかかわらず、民主党の対処はどうしたことか。海江田万里氏らが現地に出かけて調査をするのはよい。だが、「握手をした」「電話をかけていた」などの事実を、ほとんど中国側の主張に沿うかのようなかたちで発表するのが、日本の政治家のすることだろうか。
リアルタイムで物事が激しく動き、日中両国がせめぎ合っているとき、中国側の主張が日本側よりも真実性が強いという保証はどこにもない。むしろ、国益をかけた外交上の戦いだけに、巧みな嘘があってもおかしくない。だからこそ、政治家ならば、日本の国益を念頭に置かなければならない。世界中が見ている外交摩擦に処するのに、もっと慎重な振舞いがあって然るべきだ。
日本国民なら、ほぼ一人の例外もなく、今回の件に関しては憤っている。外務省の、中国べったりの体質に、心底、嫌気がさしている。
阿南惟茂大使を筆頭とするチャイナスクールと呼ばれる外務官僚には、断固、責任を取らせるべきだと考えている。阿南大使らチャイナスクールは、今回の事件のみならず、横田めぐみさんらの拉致事件に関しても、日本国の外務官僚ではなく、北朝鮮の官僚かと疑ってしまう、許しがたい言動を重ねてきた。だからこそ、彼らの責任は厳しく追及すべきだと考えている。
しかし、そうしたことを超えて、海江田氏ら民主党議員の行動は、現政権批判ではなく、国家批判になっているのだ。悪いのは、ビデオで観たように、日本総領事館に許可なく踏み込んだ中国側なのだ。それを忘れては、民主党はまだまだ政権党には不足である。