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2002.04.18 (木)

「 人を育てる税制を目指せ 」

『週刊新潮』 2002年4月25日号
日本ルネッサンス 第16回

人品はお金の使い方に現れる。国柄は税のあり方に現れる。

将来の首相候補と見られていた加藤紘一氏は、政治資金を生活費にあてていたなどと報じられ、議員を辞した。将来の社民党、さらに日本初の女性首相かともちあげられた辻元清美氏も、秘書給与の不正流用で詐欺罪の疑惑をもたれて議員辞職した。国民的人気が高くこれまた将来の女性首相候補といまも一部でもてはやされる田中真紀子氏も秘書給与の不正流用疑惑が浮上した。

三氏と、先に疑惑を追及された鈴木宗男氏に共通するのは、自らの疑惑についての説明責任を、全く果たしていないことだ。

辻元氏は4月18日現在、入院中として国会への参考人聴取の予定もたたない。氏の対処法はかつての保守系議員のそれとよく似ている。疑惑を追及され、辞任、辞職し、入院して追及を逃れようとするあのパターンである。田中氏は秘書給与、つまり税金の詐取疑惑を突きつけられたとき、「週刊誌が報道したら、待ってましたとばかり政倫審にかけるというのはなんと手回しがよいのか」と、自らをふりかえることなく逆に自民党を非難した。

どの対応も恥ずかしいばかりである。こんな厚顔無恥の人々を私たちは代表として立法府に送り込んでいるのだ。政治資金のごまかしや税金の詐取を恥とも思わない人々をはびこらせてしまったのはなぜか。私たちのなにがいけないのか。元凶のひとつは、まちがいなく、税制である。

政治資金には領収書も不要だ。届け出だけで全てが終わる。厳しくあるべきルールがきわめてゆるいのだ。企業献金の上限が2000万円に制限され、多くの場合、それ以上の額は企業の使途秘匿金として処理される。表に出せないこの資金には通常の法人税率30%に加えて懲罰的な特別税率40%が上乗せされ70%が課税される。2000年度の実績で使途秘匿金への課税収入は124億円、逆算すると使途秘匿金総額は177億円を超えたわけだ。内、約63%が建設業、ゼネコン業界の秘匿金である。

この資金は事実上、政治献金と見られている。懲罰的な税を払ってまでする政治献金には十分な見返りがあると思われる。

業界と政界の癒着要因を構造的に組み入れた税制は、全体像を眺めればあらゆる種類のごまかしに満ちている。人の心を卑しく後退させるおとし穴が随所に口をあけている。税を徴収する側もされる側も、税制を軸にして負の引っ張り合いを展開するばかりで、誰も、真の意味で税制を守ってはいないのだ。

また、税制の偽り故に、企業の競争力は気の毒なほど弱められている。

財務省は、日本の法人税は欧米並みの水準に引き下げられ日本の企業は十分に欧米先進国の企業と戦えるはずだという。たしかに法人税率ははかつての37.5%から30%に下げられた。だが、企業への実際の課税は欧米諸国に較べるとはるかに高い。税制を支える理念が時代の必要性を無視した、2周遅れのランナーのようなものだからだ。

たとえば政府が力を入れているIT国家創設に必要な設備投資は、税制上どう処理されるか。法定償却年数は10年である。片や米国では1~2年の極めて短期間に集中して償却出来る。IT関連の機器は世代交代が激しく、2~3年で替えていかなければ競争に追いつけない要素がある。

償却に10年もかかるようでは日本の企業は国際競争力をつけることが出来ないのだ。

新しい起業活力も、敗者復活もこの税制の下では否定されている。例えばエンジェル税制である。

米国の起業家はエンジェルと呼ばれる投資家によって力強く支えられてきた。半導体でディファクト・スタンダードをつくりあげたインテルも、ベンチャー立ち上げ当初はエンジェルマネーで支えられた。

若い世代の大きな夢に投資するエンジェルマネーの成功率は決して高くない。したがって米国では、起業家への投資で利益が出た場合は50%の課税をするかわりに、失敗したときは、損失を全額、損金として差し引くことが出来る。投資家が給与所得者ならば、損失分をその給与から差し引き、税も減額される。

他方日本では成功した場合の利益への課税率は米国の半分の25%である。財務省は50%と25%を比較して日本の税制の方が新時代の求めに答えていると胸を張る。しかし、失敗したとき、日本では損失を損金として落とせるのはキャピタルゲインからのみである。株式の運用に成功して利益を得た人なら、そこから差し引いて税を減額してもらえる。だが、株式運用をしても利益のない人、給与所得者しかない人は、全額丸損になる。

加えて失敗したベンチャー起業家が後始末をするとき、従業員の給与の支払いよりも先に税金の支払いをさせられる。とにかく税は徹底して取るという考え方である。

片や税を納める側の対抗手段は租税特別措置である。2001年8月10日の閣議で塩川正十郎財務大臣は「各種租税特別措置は実質的には補助金の裏返しであり、課税の公平、中立を害する。減収要因でもある」と同措置を批判した。だが特定の人々の税負担を軽減する特別措置は、驚くことに4月現在、少なくとも306種類もある。特定業種の特定の経営規模を対象に、特定の条件を整えれば特定の税率で特定の年限で税をまけてやるという類いのルールが果てしなくある。意地汚い306の特別措置は経営者のエネルギーを前向きよりも後ろ向きに使わせ、心をいじけさせる。こんなリストをつくった官僚は、きっと覇気のない顔をしているに違いない。

だが、一連の特別措置によって昨年度は2兆3620億円も税が免除された。特別措置ひとつで、平均78億円分の免除になる。これなら、業界が特別措置の設置と維持に励むのも無理はない。

政治家への働きかけも当然熱を帯びるだろう。それが先の企業の使途秘匿金につながっていく。単純な構図を描けば177億円の元手(政治献金)で2兆3620億円の税の減額になる。リターンは十分すぎるほどだ。

負の発想と負のエネルギー。こんな悪しき制度がまかり通り、遂にはこの国の体質となり果てた。だからこそ政治家も税金のごまかしを悪いと考えないのだ。

田中氏は時価にして650億円といわれた父角栄の資産を相続した。同資産構築に関しては多くの疑惑が報じられ、角栄氏は国民に説明すると言いながら、説明せずに亡くなった。真紀子氏はその膨大な資産の相続に関して感心できない悪知恵といってもよいほどの知恵をめぐらせた。莫大な資産家の彼女がなおも、数百万円か数千万円の秘書給与を流用した疑惑に直面している。

故角栄の資産についても本来なら政治家として田中家にも説明責任がある。だが、説明どころか疑惑をさらに積み重ねているのだ。お金にまつわる卑しさを彼女の心に植えつけたのも日本の悪しき税制が一因である。日本の人材を人材たらしめるためにも、税制の根本から変えていくことだ。

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