「 先送り工事を道路公団に発注させた“族議員”の責任を問う 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年2月23日号
オピニオン縦横無尽 434回
道路公団のすることは支離滅裂、族議員の主張はまるで自分勝手だ。小泉首相が2002年度から道路公団には国費を投入しないと閣議決定したのは昨年12月19日だった。高速道路建設への国民の税、3000億円の投入が止められ、来年度の建設費は9000億円になった。
これを受けて公団は2001年12月に予定していた13件の工事、計2000億円分の発注を先送りした。削減されるのは来年度予算なのに、今年度分の事業からカットされるのは、道路公団が通常の公共工事とは異なり多年度にわたる契約ができる仕組みになっているからだ。通常は公共工事は単年度ですませて次年度には債権も債務も引き継がない。だが、公団の大規模事業は特例で最大4年間について債務負担の契約が結べることになっている。
たとえば1000億円の工事を発注したと仮定する。すると今年度から4年間、おのおの250億円の契約が結ばれることになる。契約時に元請けに渡る手付金は4割。つまり250億円の4割の100億円が契約と同時に支払われる。元請けはこれを下請け、孫請けなどに着手金として支払う。
小泉首相の3000億円不投入の決断は、公団の特例的な契約制度のなかで来年度以降の発注だけでなく、今年度発注の事業にも波及する結果となった。それが先の13事業の発注取止めだった。来年の問題だったはずが、今年度に跳ね返ってきたわけだ。
こうした事態に烈火のごとく怒ったのが族議員だ。建設族の目立つ橋本派のまとめ役、青木幹雄氏は「公団、建設省か、青木か、どっちが先につぶれるか」だと「甲高い声」で怒りをぶちまけたと「山陰中央新報」が12月21日付で報じた。同紙は青木氏の地元島根県の新聞だ。氏の怒りは地元の仏教山トンネル工事も発注が見送られたことに発した私憤だとみられている。
道路公団はこのような族議員の怒りを前に、周知のように、早々に計画を変え、発注見送りを撤回した。その理由を「懸案だった財投機関債が発行できることになり、資金確保の見通しがついたから」と説明した。だがこの説明は嘘である。公団が今年度の工事発注を控えたのは、来年度以降の建設費の資金調達の見通しを考えてのことだ。財投機関債発行は、今年度分の資金需要のためである。発行できたのは、めでたい限りだが、それは来年度以降の予算とはまったく関係がない。
公団側は明らかに族議員からの圧力に負けて、工事発注取止めを撤回したのだ。だが、まさか“政治家からの圧力があったから”と言うことはできずに、偽りの説明をしたのだ。外務省で問題になっている鈴木宗男議員の外務官僚と政策への圧力は同じ構図で、ほかの役所にもあるのだ。
さて、公団が発行した財投機関債である。公団は財投機関債1500億円、外債1200億円の発行を予定していた。いったい、そのうちのどれだけが買ってもらえたのか。わずか650億円分にすぎない。残り2050億円分の資金の手当ては、都市銀行、地方銀行など細かい金融機関も回って民間からの借入れでしのごうとしている。
2700億円の目標のうちわずか650億円分しか発行できなかったのだ。しかも、その発行条件をみよ。5年物のスプレッドが0・33%、10年物が0・38%だ。日本国債の利回りに付け足す利率分をスプレッドという。公団債には大幅なプレミアムが付いて5年物で国債利回り分に対し55%アップ、10年物で25・3%アップという惨状だ。
こんな状況で易々と工事発注をしていけば、来年度以降、公団の財務はより悪化したかたちでたちまち行き詰まる。そのとき、青木氏ら族議員は日本国民に対しどう責任を取るのか。