「 道路公団の再建は『今なら可能』 これ以上負債つくらず民営化を 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年11月24日号
オピニオン縦横無尽 422
小泉首相の特殊法人改革が胸突き八丁にきた。なかでも最大の焦点の日本道路公団改革をめぐって永田町には烈しい攻防が渦巻いている。今月14日には、国会近くで国道整備促進総決起大会が開かれ、自民党道路調査会長の古賀誠氏が「断固抵抗する」と演説。
このまま建設を続ければ、間違いなく道路公団をつぶす決定打となる第二東名・名神高速道についても、沿線自治体が、建設続行を主張、地元出身の政治家を動員して凍結反対を決議した。
彼らは現在までに整備計画の出されている9,342kmまでは道路をつくり続ける、つまり、少なくともあと20年間は建設を続けるというのだ。
それだけではない。自民党の松岡利勝議員は、建設中止は「愚策中の愚策」としたうえで、11,520kmまでもつくるべきだと主張する。
だが、道路公団を再建するためには、一時、建設を凍結することが絶対条件である。新たな負債を加えては、本当に立ち直ることができなくなる。その場合、国民の税負担は限りなく重くなる。だが、新たな建設を見合わせさえすれば、道路公団の再建は、今ならまだ可能である。国民の税負担なしに、公団の膨大な負債を返済し、自力で立ち直っていくことが、今なら、まだギリギリ、可能である。
具体的には、まず、高速道路の建設を一時、凍結して、民営化する。民営化は特殊法人中間とりまとめに基づいて2006年度からとする。民営化の形態は、あくまでも上下一体方式とする。民営化までは現行どおりの公団方式の運営を続ける。つまり、法人税と固定資産税は免除、3%を超える金利負担は道路整備特別会計から補助する。
この方式で民営化までにできるだけ負債を減らしていくのだ。2000年度決算に基づけば、道路公団の営業中の負債額は23兆9692億円、上の条件で営業すれば2005年度末には負債は2兆7712億円減って、残りは21兆1980億円となる。
民営化までに負債を身軽に 会社と清算事業団で負担折半
この負債を、民営化された公団、つまり会社が受け継ぐ。国民の新たな税の投入を受けることなく、会社は自力ですべてを返済する。それは条件さえ整えれば可能である。
まず、負債を二つに分ける。会社の保有する負債と旧国鉄再建に活用された清算事業団に付け替える負債である。
会社の引受け額は、旧国鉄再建の経験から、売上げの5倍、10兆5980億円が妥当である。
自社保有のこの負債の金利は5%とする。そして重要なのが、金利を5%に少なくとも50年間、固定することだ。金利は現在こそ超低水準にあるが、景気の先行き次第で高騰するケースが必ず出てくるだろう。それでも約50年間も5%に固定するのは、資本主義と市場原理に反するが、会社立直りのためには金利の安定化が必須条件だ。その代わり、会社は金利も負担する。金利のための補助は受けない。
次に残りの負債、10兆6000億円を、清算事業団に付け替える。この負債の金利は、その時々の市場金利とする。会社の金利負担は3.5%までとし、それを超える分については、道路整備特別会計から補助する。
本来ならば金利すべてを会社が支払うべきだろうが、そうすると会社の営業利益はほとんど出なくなり、再建もむずかしくなる。会社が負担できる限界が、3.5%である。
だが、道路整備特別会計から市中金利との差額を補助すると仮定しても、会社は民営化初年度から法人税と固定資産税を支払うために、国民にとっては差引きプラスになる勘定だ。
たとえば市中金利が5%になったとする。会社が3.5%まで負担するため、補助を受けるのは、10兆6000億円の1.5%分、1590億円だ。民営化初年度、会社が払う固定資産税は1567億円、法人税は899億円で、計2466億円である。国民の側からみれば876億円の収入となり、持ち出しにはならない計算だ。
さらにこの試算では、固定資産税を民営化後10年間に限って通常の1.5%の半分弱の0.7%にした。優遇にすぎるかもしれないが、こうすることによって自力返済がより確実になる。だが民営化後11年目からは通常税率の1.5%分を払うために、会社の固定資産税はこの年、2978億円となる。法人税と合わせて、民営化後11年目に払う税は3570億円、さらにその10年後には3885億円となる。年を追うごとに会社から国庫に入る税収は増えていくために、10年間の減免税による若干のロスは、十分に取り戻せるのである。
上の一連の条件の下で、会社は事業団に最初の20年間は毎年3000億円の元金返済をする。次の9年間は毎年2500億円、次の5年間は2000億円、最後の9年間は1500億円ずつ、元金を返済する。
こうして43年間で清算事業団に付け替えた負債10兆6000億円の完済が可能となる。
この間に、民営化後5年目からは、会社の株式への配当も可能だ。資本金2000億円の会社として10%の200億円を配当する。残りは会社が自社負債分として引き受けた10兆5980億円である。この額は売上げの5倍に設定された。企業にとって5倍程度の負債は、十分に返済可能である。
会社が清算事業団への返済を完済する2048年には、日本の総人口の減少および高齢化に伴って、高速道路を走るクルマの量も減少する。現在約2兆1000億円の営業収入は、1兆6958億円に落ちていると予測される。しかし、民営会社として、収入増のための工夫はいくらもできる。高速道路下の空間を倉庫として有効利用してもよい。公団時代に較べてより効率的な経営は必ずできる。よって、この程度の負債の返済には、問題はないはずだ。
このように国民に新たな税負担を求めずに道路公団を再建することはできるのだ。だが絶対条件は建設の凍結である。にもかかわらず、橋本派の面々をはじめとする道路族議員はこれから先20年間も建設を続けると声高に主張する。それがどれだけ無謀なことか。
改革の引延しがどれほどの損害をもたらすかを見るために、試算を99年度と2000年度の決算をもとに、2通り行なってみた。たった1年改革を遅らせるだけで、試算結果は恐ろしいほどの数字となった。99年度決算に基づけば、道路公団の営業中の道路の負債総額は23兆1525億円だった。2000年度決算では、すでに述べたとおり23兆9692億円で24兆円に迫っている。1年間で負債は8167億円増えたのだ。
そして99年度の場合、事業団に付け替える負債は9兆2000億円だ。会社が引き受ける負債より少なくてすむのだ。
だが1年間延ばすと、繰返しになるが、会社保有の負債は10兆5980億円、事業団に付け替える額は10兆6000億円となり会社分と事業団分が逆転してしまう。99年度の場合、事業団への借金返済は34年で終わるのに較べて、2000年度決算なら43年かかる。
わずか1年、改革を先送りすると返済には9年間も余計にかかる。数字から読み取るべき警告は明らかだ。道路公団の再建は、今ならギリギリ間に合うが、今がラストチャンスなのは明らかだ。改革を先延ばししたり新たな建設で負債を積み上げてはならない。すべての建設を一時、凍結すべきだ。
族議員と呼ばれる人びとや地方自治体の主張のように、新たな道路がなおも必要だというなら、公団方式ではなく税金で賄うべきだ。どれだけの税負担が必要かを情報公開し、国民がそうした税負担を了承したときに、初めて、新たな建設を考えるべきだ。間違っても現在の公団の延長線上で道路をつくり続けてはならない。