「 体力を消耗しきった日本の銀行 立直しには国有化しかない 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年11月17日号
オピニオン縦横無尽 第421回
日本の銀行は産業として成り立っていないのではないか。そんなことを感じさせる数字が目につく。
日銀の統計によると、2001年7月末の国内銀行の資本総計は34兆円である。しかし、このなかには1998年以来注入されてきた公的資金7.5兆円も入っている。また繰延税金分が5兆円強もある。これらを引くと、日本の銀行の資本の正味は20兆円強ということになる。この資本金がどれだけ頼りになるものなのか。
先の日銀統計は、すべての銀行の保有する株式は41兆円分あることを示しているが、銀行の財務内容は株価によって大きく影響される。9月の中間決算で三菱東京フィナンシャル・グループが赤字に転落したのも株安が理由だった。同グループは4100億円分の評価損を計上し、700億円の赤字とした。こんな状況を受けて、11月7日の東京株式市場では四大金融グループの株価が揃って年初来の最安値となった。
株式が下がれば銀行の保有資産は目に見えて減っていく。加えて不良債権の問題がある。金融庁の資料によれば、今年3月期での全国の銀行の抱える問題債権は約66兆円だ。このなかで第二分類が63兆円を超え、第三分類は2.6兆円、第四分類はゼロである。
柳澤伯夫金融担当相は、問題なのは第三、第四分類だと発言しているが、実際には第二分類に問題があることは、倒産したマイカルの例からも明らかだ。マイカルは第二分類に入れられていたし、つい先ごろまで正常債権であるといわれてきたからだ。銀行の自己査定によってさえも、66兆円分ある問題債権がさらなるデフレによって劣化し続けていけば、正味20兆円ほどの銀行資本は容易に帳消しになってしまう。
こうした状況は、その他の要因とも絡み合って事態をさらに悪化させる。地価の下落が続き、製造業でさえもが赤字に陥っていくなかで、新たな不良債権は増えると考えなければならない。銀行の財務内容はほとんど望みを持ちにくいほど悪化しているのだ。
今に始まったことではないが、過去10年間、日本の金融業界は一貫して資本を食いつぶしてきた。金利を限りなく低くし、ゼロ金利を実施し、預金者に犠牲を強いてきた。銀行の資産を守るためにも株価を下げてはならないとしてPKO(株価維持策)で買い支えてきた。金利が上昇すれば債券が暴落するので、金利を上げないための手も尽くしてきた。そして不良債権の査定を厳しくすれば問題債権が急増して、銀行は立ちゆかなくなる。だから金融庁は実態として査定基準を緩めてきた。
これらすべて、市場メカニズムの否定である。こんなことをいまさらいう必要もないだろうが、市場資本主義のメカニズムの一番の基礎が資本のおカネである。ゼロ金利は資本のコストを否定することだ。またそれは資本の機会コストがゼロということであり、そのことの見返りは資本の収益を生み出す力もゼロに等しいということだ。株の買い支えもその他の手段も、それらによって銀行は一応つぶれない状態がつくられるが、それは経済の生命そのものと引換えなのだ。
ここまで落ち込んだ銀行業界をどのようにして立ち直らせていくことができるのか。齋藤精一郎氏が約ひと月前の「週刊新潮」に「資本主義の一時停止を」と書いていた。驚くようなタイトルだが、私はまったく同感した。氏の著書『日本経済、非常事態宣言』も正鵠を射ている。銀行についていえば、日本はすべての銀行を国有化しなければ立直しがきかないところまできてしまったのだと思う。ここまでくれば、すべてを国営銀行にして国民の不安を消し、パニックを防いだうえで、銀行に対して厳しい健全化プログラムを実施していくよりほか、ないと思う。