「 悪化必至の日本経済 この原因の本質を見失ってはいけない 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年11月10日号
オピニオン縦横無尽 第420回
30日に松下電器産業、日立製作所、三菱電機三社の中間決算が発表され、これで先に発表済みのソニー、NEC、東芝、富士通を入れて大手電機七社の中間決算が出揃った。
売上げはソニーを除く六社が減収となり、三菱電機を除く六社が赤字である。戦後、ずっと日本の経済を支えてきた輝ける製造業の星々がその輝きを失い喘いでいる。金融業や第一次産業、あるいはその他の規制によって護られてきた産業とは異なり、唯一、国際市場での競争力を維持してきた製造業の雄が、七社全体で2600億円あまりの赤字に転落してしまったことの意味は深刻である。それは、日本の企業が、これから先、未曾有の収益悪化に陥りかねないことを示しているからだ。
日本の法人は現在約270万社あるが、73%が赤字企業である。黒字法人はわずか27%。それら黒字法人の課税所得を1999年度実績でみると31兆円弱である。それに対して赤字法人の計上した損失額は29兆円になる。差し引きするとわずか2兆円だ。
270万法人すべての一年間の汗の結晶がわずか2兆円。これに倒産企業の損失額を加えると、法人部門全体ですでにマイナスになっているのだ。
赤字法人は収益を改善するために、より大規模なリストラに出るだろう。赤字で倒産すれば雇用はますます厳しくなる。こうしたことが、これから家計を厳しく直撃することになる。
取材などで海外に出て戻ってくると、日本の一見豊かで呑気な街や人びとの様子に違和感を抱くことがある。海外のニュースで伝えられる日本経済の低迷ぶりとは対照的に、東京の街中を歩く人びとの表情は明るく幸せそうであるからだ。テレビのスイッチを入れても、屈託のない番組が目立つ。
国民が明るく豊かで幸せであることはすばらしい。だが、そのような状況が続いてきた日本の姿は砂上の楼閣にも似ている。不安定であり、楼閣が美しければ美しいほど、それが崩れるときの反発の強さを恐れざるをえない。
種々の統計を見ると、この国の経済のひずみが見えてくる。現在1万円前後の株価をはじめ、地価も17年前の水準に戻ってしまっている。加えて法人所得はすでに触れたように実質赤字である。その一方で個人の金融資産は1300兆円ともいわれる高水準にとどまっているのだ。
この額ははたしてどれだけの実態を伴っているのか。郵便貯金となった金融資産は、財投となり種々のわけもわからない特別会計に繰り入れられたり、これまたわけのわからない特殊法人に貸し付けられたりして不良債権化している可能性は大である。または民間銀行に預けられ、弱体化した金融機関の脆弱な口座のなかにかろうじて眠っているのではないか。
個人の金融資産はすでに一部が奪われてしまい、これからもさらに奪われていくと考えるべきだ。つまり、これまでは、どれほど、日本の景気が悪かろうと、それほどの痛みを感じないで過ごしてきた人びとも、これからは痛みから逃れることができない段階に、日本経済は入っていくと思われる。
こんな時代、私たち国民がしっかりと問題を見つめなければ、恐ろしく間違った方向に走りかねない。つまり、一所懸命に働いて富を蓄えたのに、それを奪うのはだれだ、という魔女狩りに走りかねない。魔女は資本主義、自由経済、市場原理であろう。日本こそは社会主義経済のなかにあり、皆楽しく豊かだったのが、社会主義を否定してまで市場原理の機能する国をつくらなければならないのか、それなら資本主義などまっぴらとなりかねない。
背中の寒くなる話だが、そのようなことを考えなければならないほど、私たちの国が体内に資本主義の敵を抱え込んでいることを忘れてはならない。