「 『詐欺師紛い』官僚のレトリックに騙されるな投入資金年間40兆円!特殊法人のツケは国民に回ってくる 」
『PRESIDENT』 2001年11月12日号
聖域なき構造改革を掲げる
小泉政権は
廃止・民営化を軸に
特殊法人改革を進めている。
官僚たちは、既得権益を守るため、
巻き返しに必死だ。
特殊法人は彼らが自由に使える
財源であり、退職後の天下り先だ。
私利のために無駄な事業が
繰り返され、知らぬ間に
国民の血税や資産が消えていく。
日本の地盤沈下の元凶である
特殊法人に寄生する官僚たちの
騙しのテクニックに
誤魔化されてはいけない。
官僚による骨抜き工作が始まった
小泉内閣の特殊法人改革は、廃止・民営化を視野にゼロベースの見直しを目指しています。77の特殊法人と86の認可法人を存続、廃止、統合、民営化に分類し、2005年末までに実施するというものです。この小泉内閣の動きに対して、霞が関では権益擁護に汲々とする官僚たちが族議員を動員して巻き返しを始めています。
そこで、私の提言は、国民の怒りの矛先を一点集中して、巨大利権組織である日本道路公団へ向けるべきだということです。日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団の道路四公団は民営化と廃止を軸に検討されています。しかし改革のモデルケースとしていち早く廃止が打ち出された石油公団は、9月に廃止法案が提出されるはずだったのが、官僚の抵抗により来年1月の国会まで延期されました。今、道路公団改革に対しても官僚による骨抜きが行われようとしていますが、そんなことは許してはならないのです。
道路公団に関して毅然とした方針を断行できるなら、小泉改革の具現化の希望は残されます。石油公団をはじめ、廃止・民営化が検討されている法人は今、固唾を呑む思いで、道路公団がどうなるかを見ているはずです。ここで改革案が国土交通省の官僚に絡め取られ、骨抜きにされようものなら「これなら我々もしのげる」と、他の特殊法人の官僚たちもほくそ笑むに違いないのです。まず道路公団改革を徹底してやることが必要です。厳正な態度を小泉首相や石原伸晃行革担当大臣が維持し、政府は本当にやる気だと知らしめなければならないと思います。
そこで、道路行政を例に特殊法人とそこに群がる官僚の欺瞞を解明してみます。
全国の有料道路をつくる日本道路公団は、資本金1兆7700億円、職員数約8000人、累積債務28兆円を抱える最大規模の特殊法人です。私は公団のつくった道路を何カ所か見てきましたが、そのひとつが茨城県・五霞町と利根川対岸の境町をつなぐ新利根川橋有料道路です。完成した二車線の脇に、橋脚だけがもう二車線分むき出しで雨ざらしでした。あまりに少ない交通量のため工事途中で車線を減らしたのです。完成した車線も車はまばらでした。この奇妙な姿こそ、日本道路公団、ひいては特殊法人の実態を雄弁に物語っているのです。
同じような光景は日本中いたるところに見られます。北海道のキタキツネしか通らないような立派な高速道路や、計画を大幅に下回る交通量のため負債だけを積み増している東京アクアラインもそうです。
需要を無視した杜撰な計画のもとで立派な道路を建設する。工事のための工事でしかない。官僚が恣意的に使える財源と仕事を確保すること。現代の官僚の施策はそれ以上でも以下でもないのです。
公共事業の見直し・削減が叫ばれる中で、国土交通省は政府決定の基本計画である1万1520キロまで高速道路建設を進める方針です。そのうち整備計画が決まっている9342キロまでは道路公団にやらせ、残りは国土交通省の直轄で進めると、担当者は語りました。9342キロまでの工事さえ完成にはあと20年かかるのです。国土交通省には道路建設をやめる意思はないのです。
同省は「国民すべてが30分以内に高速道路にアクセスできる道路システム」が目標だといいます。しかし、現状で97%の人が1時間でアクセスできます。それを30分に縮めるためにあと何十兆円を投じるのか。そんな建設に意味があるのか。
道路建設という甘い蜜をめぐって、国土交通省と日本道路公団という身内同士でも暗闘が繰り広げられています。2000年暮れ、公団に代わり国が税金で高速自動車道を建設できるよう国土交通省が法改正を試みましたが、公団の反対で潰れたのです。道路公団側は政治家に働きかけ自分たちの仕事を死守したわけです。どちらも旧建設省系統のお役人の集団です、“同じ穴のムジナ”なのです。
彼らの至上命題は、とにかく建設を続けること。最低でも9342キロ分の建設を確保できれば、この先一世代、二世代分ぐらいの仕事量です。自分たちの利益しか考えてないこんな人たちに巨額のお金を預け、税金や私たちの年金を注ぎ込んで必要もない道路をつくるなど、やめさせなければなりません。
40兆円の血税が官僚の私利に
特殊法人がどれだけ、官僚にとって旨みのあるものか。通常、キャリア官僚は50代に入り、審議官や局長や事務次官などが決定するときに、なれなかった全員が一斉に天下ります。天下り先は、民間企業の中枢であり、特殊法人の総裁クラスのポストです。2001年の場合、特殊法人の総裁は年収2400万円。在職2年で退職金は1160万円。2年間で約6000万円です。もちろん、天下りは一度では終わらない。退官後15~20年間、いくつもの団体を渡り歩きます。車、秘書、個室の3点セットのうえ、計数億円の報酬を手に入れることになる。そのためにも特殊法人は存続しなければならないのです。特殊法人は官僚の、官僚による、官僚のための存在です。
特殊法人を支えているのが特別会計です。国の予算である一般会計予算83兆円とは別に、裏予算とも呼ばれる特別会計が391兆円もあります。主に厚生年金や国民年金が財源で、一般会計からも49兆円の繰り入れがあります。
重複や繰り入れなどの複雑なお金の出入りを加味して正味の額を計算すると、一般会計はネットで34兆円。特別会計の歳出ネットは217兆円でした。一般会計の6.4倍もの巨額の予算が国民の目からは見えず、官僚の恣意のままに使われているのです。
2001年度、この特別会計から3兆5000億円、一般会計からも4兆円が特殊法人に投入されました。さらに郵便貯金や年金が原資となっている財政投融資から32兆3000億円もが融資されました。つまり、2001年度だけで国民の税金や郵便貯金、年金積み立てなどから40兆円が特殊法人に流れたのです。
現在、約666兆円の国の債務がありますが、特殊法人への融資の「焦げ付き」はこの数字には入っていません。今も国民の借金は雪だるま式に増えているわけで、官僚の暴挙をとめないとこの国は確実に滅びてしまいます。事態は切迫しており、一刻の猶予もならないのです。
特殊法人も発足当初は意義がありました。住宅や道路などのインフラ整備は、生活水準を上げ経済発展に寄与しました。しかし、すでに役割は終えたのです。今では都市基盤整備公団など、民業を圧迫しているものばかりと言えます。
ところが特殊法人の恩恵に与っている当の官僚には、国民の富を浪費している自覚などはないのです。特殊法人が累積で255兆円もの借金を抱えているといっても、すべて次世代への先送りです。官僚が、現在の返済計画がうまくいかないことを承知していないはずはありません。確信犯なのです。道路公団にしても、過去30年間に6回、5年ごとに全体計画を見直しています。そのたびに借金が増え、返済期間が延びる。償還期間が50年というのは異常ではないか、と担当技官に尋ねたところ「国家のインフラ整備を50年という長いスパンで考えるのは当然」という回答でした。しかし長期的な視点を持つことと、杜撰な計画を混同されては困るのです。きちんと検証された返済計画なら50年でも30年でもよいのでしょうが、現在の道路建設計画は自分たちに都合のいい数字に基づく空論です。彼らは、失敗を決して認めない。道路計画の見直しは、見直しにすぎず「失敗」ではないと強弁します。そして「絶対に返済できる」と空論を述べるのです。
官僚の巧妙なレトリックが話をいっそう分かりにくくしています。官僚を取材すると「頭のいい人たち」だと感じさせられます。質問への回答は素早く、論点整理も巧みです。しかし事務所に戻り、取材テープを再生しながら資料と突き合わせると彼らが理路整然とウソをついていることが分かるのです。そこで、「これは間違いでしょう。有り体にいえばウソでしょう」とあらためて問い直すことになります。そんな失礼なことを言われれば普通なら「冗談じゃない」と顔色が変わるところでしょうが、彼らは微動だにしないのです。立て板に水のごとく自前の論を繰り返します。再び半分騙されそうになり、もう一度腹が立つということの繰り返しです。
旧通産省OBに聞いた話です。彼は入省してしばらくまったく陽の当たらない仕事をさせられていました。ところがある時期から重要な仕事が回ってくるようになったそうです。そのとき彼が思い当たったのが目の表情だったといいます。どんなウソや空論を展開しても目が動揺しなくなったとき、仕事を任されたというのです。官僚、官庁というのはそんな人間性の欠落した集団だとも言っているわけです。
彼らのもとには情報が集まりますが、その情報も彼らの都合に合わせて加工され、二重三重の欺瞞に満ちた論理を構築するのです。こうして先輩、自分、そして後輩の利権を守ることで仲間内から評価されます。外部の民間人や、私のようなフリーの人間に何を言われても痛痒は感じないのでしょう。だからこそ官僚の手に、ポストと財源をもたらす特殊法人という「打ち出の小槌」を持たせたままではいけないのです。
年末に向け改革案づくりが進んでいますが、国土交通省などは、小泉首相の改革に真っ向から反対の姿勢をより鮮明に打ち出しました。見直し案には、廃止や民営化のための時期の設定も債務圧縮の目標数値も入っていません。単なる先送りの姿勢です。つまり現状維持ということです。これは、厚顔無恥の姿勢ではないでしょうか。官僚の最大の関心は自分たちが無事退職し、しかるべきポストに天下るということだと断じざるをえません。
民営化には道路建設の全面中止を
道路公団の今後を具体的に検討してみます。政府の見直し案では、道路公団は民営化検討となっていますが、形だけの民営化は意味がありません。採算の取れる道路経営でなければならず、そのためにはすべての道路建設の即刻中止が絶対条件です。採算の取れない建設を進める限り、形は民営化しても、それは本末転倒なのです。国土交通省は、扇大臣のもとに第三者機関を置いて今後の道路計画を立てるとしていますが、泥棒に縄をなわせるようなものといえば言い過ぎでしょうか。第三者機関は総理直属の諮問委員会にし、今年中にも緊急提言をさせるべきです。そして、その提言は即来年度予算に反映させていくことです。委員長には既得権益の構図から離れた自由な立場の人で、経営にたけている人、行政府からの少々の圧力に屈したりすることのない気骨のある人がふさわしいと思います。民間にはそのような人が少なからずいますが、たとえば、ヤマト運輸元会長の小倉昌男さんもその一人です。そのような人材のもとに手足となって働ける強力なメンバーを4、5人つければよいのです。再建策立案に国鉄の場合は2年かかりました。道路公団はそんなに待てません。1年で具体策をつくるのです。
事態がここまで進めば、機を見るに敏な官僚も改革の方向を向くはずです。改革勢力が特殊法人や行政府の中からも出てくるはずです。今はその瀬戸際です。
ところで、改革の手綱を緩めてはなりませんが、心配なのは、あまりにも悪すぎる経済環境です。とりわけ金融機関が想像以上に悪い。私はずっと郵政三事業の民営化を主張してきましたが、今はすべての銀行を国有化することが必要だと思うほどです。そこまで日本経済は、基盤から悪化しています。
小泉改革の舵取りのむずかしさは、特殊法人の廃止・民営化を強力に進めると同時に、経済の立て直しも図らなくてはならないことです。
経済の強化という点では、長期的には同じ効果をもたらすとしても、短期的には相反するような現象を引き起こしかねない政策を同時進行でこなすのは並大抵ではありません。
しかし幸いに国民の意識は着実に変化しています。官僚に任せていては日本は駄目になると国民も気づき始めています。今回の狂牛病も同様です。農水省、厚生労働省双方が行政の縦割りの中で責任をなんとか逃れようとする。責任を逃れるために、感染源の特定にさえ消極的です。彼ら官僚に任せていては、財産だけでなく健康や命まで脅かされるという現実が露呈したのです。
「公僕」もここまで落ちたか、という思いですが、危機は最大のチャンスでもあります。日本人が責任感や誇りを取り戻す突破口が構造改革です。そのためにもここまで事態を悪化させた原因を検証し、責任を問う作業が必要です。特殊法人でいえば組織改革を断行し、国家予算よりも大きい異常な特別会計を即刻廃止することです。特殊法人こそが、水面下で日本を蝕んできた元凶です。今回の改革は特殊法人という表面の改革だけで終わらせず、それを支えてきた特別会計にまで切り込むものでなければならないのです。
(構成・岡村繁雄氏)