「 講和条約記念式典で浮彫りになった日米関係のかげりの兆し 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年9月22日号
オピニオン縦横無尽 第413回回
サンフランシスコ講和条約50周年記念式典で行われた日米外相会談から見えるものは、日米関係のかげりであるといえば言いすぎだろうか。田中真紀子・パウエル両外相は現地時間の8日昼に会談、2人だけの会談は15分程度だったと報じられた。その後、中谷元・防衛庁長官とウルフォウィッツ国防副長官が合流、40分間のワーキングランチをとったそうだ。
田中外相は日米地位協定、京都議定書、包括的核実験禁止条約(CTBT)問題を取り上げたが、いずれも従来の枠組み内での議論にとどまった。外相自身、「建設的な話をすることがいかにむずかしいか」と取材陣に語ったように、パウエル長官から新たな対応を引き出すには至っていない。
一方でパウエル長官はランチに出席した中谷長官に対して、むしろ積極的に、北朝鮮および中国政策に関して発言したそうだ。外交政策の責任者である外相への米国側の信頼の薄さを反映しているとみてよいだろう。
安全保障面での米側の想いは、随所に表現されている。記念式典での演説でパウエル長官は日本への要請として「もっとアジア太平洋の安定と安全を高めるために努力してほしい」と語り、PKO、人道支援、災害救助の3分野を特に指摘するとともに、日米安保に関しては沖縄への負担を最小限にするよう努力していると述べている。
その一方、外相会談で田中外相が沖縄に関して日米地位協定の運用改善を申し入れると、「協定の意義をもっと説明することが重要だ」と微妙な反応も示した。全体的に、米側が日本の安全保障面での努力に対してもの足りない想いを抱いていることが伝わってくる。
式典が行われたサンフランシスコでは、中国系、韓国系の反日団体が集合し、集会やデモを通して日本政府に第2次大戦に関して謝罪や賠償を求めた。パウエル長官は戦後処理問題は講和条約で解決ずみとしているが、この件に関しての米側の複層的な動きを軽視してはならないだろう。
昨年、日本軍の戦争犯罪を徹底的に暴(あば)くべきだという「日本帝国政府情報公開法」が上下両院を通過し、クリントン大統領は12月27日にこれに署名している。加えて、現在、カリフォルニア州選出のローラバッカー下院議員らが日本企業に戦時補償を請求する法案を提出しており、同法案の通過の可能性は高いとみられている。上院でも共和党から同様の趣旨の法案が出され、9月現在審議中である。
日本企業に求められる賠償金は1兆ドルを下回らないとされている。日本円でじつに120兆円だ。日本側からみれば根拠がないうえに法外な要求であるが、旧軍人らを代表する弁護士らは「これでも足りない」という姿勢だ。
日本に対するこの種のあまりに厳しく、不当な要求と非難はどこから生まれてくるのか。米国のマスコミと学界に広がる「日本観」が背景にある。日本の戦争犯罪が十分に暴かれてこなかったからこそ、いまだに靖国問題があり、教科書問題があるという見方だ。
こうした見方に対して日本側はどんなメッセージを発信してきたか。日本の立場や日本人の想いはほとんど発信されておらず、理解もされていない。
ブッシュ政権は発足と同時に中国よりも日本重視を打ち出した。そのブッシュ大統領がどこまで日本に対する不当な要求を、不当であるとして退けるか、つまり種々の日本非難と賠償要求法案に拒否権を発動してくれるか。
それを決定する要素は3つ。日本がいかに米国にとってかけがえのない同盟国であるか、ブッシュ大統領の政治基盤がしっかりしているか、日本がいかに自国の主張をきちんと伝えることができるかである。3つとも心もとない限りだ。日米関係のかげりの兆しを、講和記念式典に見てしまうのだ。