「 官僚の罠に陥らないよう道路関連4公団の民営化案を補強する 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年9月15日号
オピニオン縦横無尽 第412回回
再び行革断行評議会・猪瀬直樹氏の道路4公団の分割民営化案について。4公団には現在7兆円近い建設仮勘定がある。日本道路公団が4兆4000億円強、首都高速道路公団が約2兆円、阪神高速道路公団が5200億円、建設がほとんど終わったはずの本州四国連絡橋公団でさえ220億円近い。首都高速は営業中の道路資産の合計が4兆5000億円、その4割以上の建設仮勘定を抱えているのだ。
建設仮勘定というのは建設中の道路に投下された費用の合計である。建設中の道路のなかには、たとえば、日本道路公団の第二東名・名神、首都高の中央環状線、阪神高速の神戸山手線などの超大型路線がゴロゴロしている。
これらのほとんどは、採算がとれないばかりか、第二東名・名神のように公団の経営にとって致命傷となる路線もある。したがって、猪瀬試案の指摘するように、建設の凍結は当然である。問題は、これらの路線に投下された費用、建設仮勘定をどう処理するかだ。
猪瀬試案はこの建設仮勘定も、4公団の資産として継承するとしている。ということは、民営化された会社は、この仮勘定分を保有するための債務も負担する、つまり、この分は高速道路の利用者が支払う料金によって賄われる。となると、利用者は、建設が中止され、永遠に使用できない道路の費用も負担させられることになる。これは理不尽なことだ。
こうした事情は、必ず、公団側に悪用されるだろう。彼らは、建設仮勘定分も負担させるのであれば、若干の費用を投じても建設を続け、料金収入を得る道を開いたほうがよいと主張すると思われる。こうして、凍結とされた道路建設がまた、始まる恐れが出てくるのだ。ただでさえ道路を造りたくてたまらないのが国土交通省と道路公団の技術官僚たちだ。猪瀬氏らは彼らに付け入らせる隙(すき)を見せてはならない。
では、7兆円近い建設仮勘定はどう処理すべきか。まず、四公団を廃止して新たにつくる機構に、これを継承させてはならない。建設を凍結した以上、凍結された道路にこれまで投じられた費用は、利用者の負担としてはならず、別途に処理すべきだ。
この約7兆円については、徹底した情報公開を行い、だれがどこまで責任を負い、負担すべきかを、国民の意見も聞きながら考えるべきだ。道路行政を徹底分析してこそ、真の意味の解決と再建の可能性が生まれてくるのだ。
もうひとつ、猪瀬試案を補強したい点は、民営化された会社による有料道路の経営にかかわる点だ。試案は全有料道路の保有と運営を分離する上下分離方式である。債務負担を日本道路保有機構が引き受け、機構は道路インフラ使用権を道路運営会社に貸す。
機構が資産と債務を引き受けるために会社は固定資産税を払わなくてもよく、経営は楽になる。だが問題もある。
第1に保有と経営を分離して、施設の改良等の投資主体と管理運営の責任者を切り離せば、施設に関して機動的な改良投資が行われない恐れが生ずる。また逆に投資主体の都合でムダな投資が行われる懸念もある。
道路経営にあたる「会社」は、大規模な改修や施設の更新は自ら行うことはできず、国の財政事情に左右されることになる。
また、会社は収入と管理費の差額の大半をリース料として機構に支払うことが主たる仕事となり、企業としての事業意欲が著しく削がれる。民間企業としての活力を引き出し、効率性を高めることにはつながらないだろう。それゆえ、私は上下分離ではなく上下一括方式での民営化をすべきだと思う。猪瀬試案の道路建設の凍結と公団の民営化に最大の信を置きつつ、いくつかの細かい点を修正し、官僚たちの欺きの罠(わな)に落ちないでほしいのだ。