「 日本道路公団など4公団民営化示した猪瀬試案にエールを送る 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年9月8日号
オピニオン縦横無尽 第411回回
8月28日の閣議後、小泉首相が扇国土交通大臣に、日本道路公団、都市基盤整備公団などの民営化案を早急にまとめるようにと特命した。その前々日、扇大臣が「サンデープロジェクト」で道路公団の民営化には「20年かかる」と述べたことなどへの首相の“反撃”であろう。20年も問題を先送りすることは許されないのだ。
またそれ以前に、石原行革担当大臣の私的諮問機関、行革断行評議会も試案を発表した。猪瀬直樹氏作成の同試案は日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団の4公団を分割民営化する案だ。要点は、4公団の建設中のものすべての凍結、有料道路の保有と運営の分離、日本道路保有機構(機構)に資産と債務を継承させる、6つの民間企業(会社)が「道路インフラ使用権」を機構から借りて道路を運営する、会社は機構に料金収入と管理費の差額を賃貸料として払う、機構は賃貸料で債務を返済するというものだ。
すべての道路建設の凍結と民営化をはっきりと打ち出した猪瀬試案に私は賛成である。だが、補強したい点が2つある。道路公団の財務の問題と、民営化後の運営問題だ。
試案は4公団のうち、赤字は本四のみで、3公団は黒字としている。で、最大の黒字を出していることになっている日本道路公団をみてみよう。
同公団の1999年度決算は1兆8608億円の収入を得、費用として計上した9396億円を引き、残り9213億円を引当金繰入れのかたちで借金返済に充てている。猪瀬氏はこの9213億円全額を「利益」とみた。これでは公団の主張となんら変わらない。公団は「1兆8608億円の収入を得るのに、9396億円の費用を要した。したがって収支率は50であり経営は順調だ」という。このような理解では、経営が順調ならば、現在の経営形態を変える必要はないではないか。建設凍結はともかく、営業中の道路は公団方式のままで問題なしとなりかねない。
猪瀬試案が前提とする財務の現状把握に問題がある。道路公団は「黒字」などではない。詳しくは拙著『日本のブラックホール 特殊法人を潰せ』(新潮社刊)をご覧いただきたいが、公団は、本来、費用として計上すべき除却費も減価償却費も計上していない。粉飾決算だから黒字に見えるのである。除却費や減価償却費を計上し、利息負担の軽減措置である政府補給金収入(利子補給金)1640億円を引くと、わずか254億円しか残らない。道路公団は赤字寸前といわなければならない。
同様の方法で他の3公団の損益を計算すると、すべて赤字となる。本四公団は1576億円の赤字、首都高速は766億円の赤字、阪神高速は1127億円の赤字である。4公団全体で3215億円の赤字になってしまう。これが4公団の実態である。こうした実態を考えれば、現在の債務を全額、機構に継承させるという猪瀬試案では、将来の施設更新もにらんだうえでの債務の償還はむずかしいと思う。
試案には管理費と金利はおのおの会社と機構の費用として計上されているが、除却費(改良費)と減価償却費は計上されていない。つまり、現在の決算制度の欠陥をそのままひきずっているのだ。狡猾(こうかつ)な道路公団や国土交通省は、こうした点を突いてくるだろう。たとえば、除却費や減価償却費を費用として計上してこなかったことを棚に上げて、大規模な改良や施設更新はどうするのかと攻めてくるだろう。猪瀬氏らはこの点の対応策を考えるべきだ。
財務分析の2番目の問題は4公団で7兆円近い建設仮勘定の取扱いだ。この点について、試案は敵に塩を送ることになりかねない内容だ。猪瀬試案を支持するだけに、国土交通省や公団に逃げ道を与えてほしくないと思うのだ。