「 日本道路公団は第二の国鉄となる前に国民の声を真摯に聞け 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年3月10日号
オピニオン縦横無尽 第387回
九州大分県の幼馴染から相談事の電話がかかってきたのは約2年前だった。ミカン農家の岡本栄一さんだ。北九州市と鹿児島県を結ぶ日本道路公団の東九州自動車道が、自分のミカン畑を二分するルート状に計画されている。社会のために役立つ道路なら自分のミカン畑を差し出すのも厭わないが、どう考えてもこの計画はおかしい、力になってくれる人を紹介してくれないかという電話だった。
私の助言などはなんの役にも立たなかったが、彼はこの2年間、自分で情報を集め、ルートを2キロほど山側にずらし、道路公団の建設予定価格の約半分の代替案を作成した。その試案を道路公団北九州国道工事事務所に届けたが、まったくなんの反応もないという。
岡本さんの2年間の足跡をみてみよう。彼はまず1995年度の「高速道路便覧」で高速道路の建設費は全国平均で1キロ当たり 27億円であることを知る。一方、道路公団の東九州自動車道の建設予算は1キロ辺り53億7000万円で約2倍であるのに驚いた。
そこでまず、建設費を削る方法はないかと考え始めた。全線にわたってしろうとが考えるのは荷が重すぎる。で、自分のミカン畑がかかわってくる椎田と宇佐間のルートの半分、約15キロ分について調べ始めた。椎田は福岡県と大分県の境目にある小さな町で、大分県宇佐には、宇佐神宮という由緒正しい立派な神社がある。
このルートに関して、道路公団の計画は平野部を 走ることになっている。が、平野部のルートは用地費、補償費に巨額の資金が必要だ。加えて、付帯工事費も高くつく。たとえば山裾地帯を走るルートに変更すれば、山裾を削った切り土を手前の谷を埋める盛り土に活用できる。平野部での工事現場に遠くから土を運ぶのに較べて、コストは大幅に下がる。岡本さんらは平野部での高速道建設には山裾地帯での建設に較べて、使用する土の量も約140万立法メートルも多くなることも割り出した。この土代もコストを押し上げる。
彼はやがて500人の同志を集め、手分けして山裾ルートを設定し、標高差を測り、材料、コスト、土地代、補償費などを計算したところ、先述したように、道路公団の約半分のコストでできるという結論に達したのだ。
500人の同志のなかには、土木や建設関係のプロも入っているとはいえ、なんといっても、しろうとの集まりである。岡本さんらの試算に欠点を見出すのは、道路公団側にとってはきわめて容易なことだろう。しかし、それでも道路公団はこうした国民の意見に謙虚に耳を傾けるべきである。道路公団は事実上、債務の塊なのである。第二の国鉄に事実上なり果てている。彼ら自身、道路建設とその運営に、経営者としてはすでに失敗している。
たとえば現在道路公団の累積債務は26兆円。うち21兆5000億円が財投資金からである。道路公団の年間収入は2兆3000億円。彼らは利子さえ払えずに約2000億円を特別会計から利子補填してもらっている。
「文芸春秋」でそう指摘したら、道路公団側はそれでも経営は大丈夫なのであると説明に来てくれた。「高速道路の償還計画」をみると、累積債務は2014年にピークの31兆円に達し、そのあとは減り続けてそれから30年後の44年にはゼロになるのだという。
まさに絵に描いたボタ餅である。この目論見どおりに事が運ぶという保証は実はどこにもない。先のことどころか、道路公団の現状はその会計のあり方から、計画の全体像まできわめてわかりにくく外部のチェックが働かないのだ。道路公団の債務はいずれそっくり国民が支払うことになる。だからこそ、公団は、国民の指摘に耳を傾けよ。ミカン農家の岡本さんら500人の調査をまともに受けとめよ。