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2001.03.01 (木)

「 頭デッカチな医療 」

『GQ』 2001年4月号
COLUMN POLITICS

精神科医の和田秀樹さんから非常に興味深いことを聞いた。

 田中康夫さんが知事になった長野県は、男性の平均寿命が日本の47都道府県中、一番長く78.08歳である。女性は全国4番目で83.80歳だ。一方、長野県の1人あたり老人医療費は、全国で最も少なく、97年度でみると、59万2000円だというのだ。
 全国一或いは全国トップ水準の長寿を支えているのが、全国一安い老人医療費だというわけだ。では、長野県の医療の特徴はなんだろうか。

 さまざまな切り口があると思われるが、そのひとつは「大学病院に頼らないこと」だと和田氏は言う。大学病院は都道府県毎につくられているが、大学病院の多い所が必ずしも、よい医療が行われているわけではないということだ。

 長野にも大学病院がひとつ、あるにはあるが、県民は大学病院に全面的に頼るのではなく、診療所や開業医をうまく活用し、地域医療のネットワークが出来あがっている。この状況を、県内に複数の大学病院を擁している県と比較すると、成程、両者の違いが見えてくる。

 そこで大学病院が3つ以上ある県をみてみよう。この条件を備えた県は全国に6つある。北海道、福岡、大阪、東京、神奈川、愛知だ。まず、北海道と福岡のケースである。

 両県の1人当たり老人医療費は全国で最も高い。97年度で北海道が104万1000円、福岡が102万8000円である。

 で、これら2つの県の高齢者は日本一高い医療費を使ってどれだけの健康と長寿を楽しんでいるのか。北海道の男性の寿命は47都道府県中28番目、女性は22番目だ。福岡は男性40番目、女性は20番目にとどまっている。

 長野に較べると、両県ともに長野県の倍近い医療費を使いながら、県民の健康度、それを反映した寿命は、全国比較でまん中から下、もしくは最下位部に属している。

 もうひとつの例、大阪をみてみよう。大阪府は全国で8番目に高い老人医療費を使っており、その額は1人当たり93万4000円だ。そして大阪府民の平均寿命は男女共に47都道府県中45番目、まさに最下位といってよい。

「大学病院が多数あって、高度先進医療が行われていると思われる県の方が、実は、県民は長生きしていないのです。大学病院を軸とした医療に何らかの問題があることを示していると考えられます」

 若手気鋭の学者の和田秀樹さんは非難をおそれず、このように問題提起する。大学病院や医学部教授の絶大な権威を思うと、和田氏の指摘は本当に勇気ある指摘だ。

 和田氏の言葉どおり、現代の医療は、あまりにも頭デッカチになりすぎていると私も思う。医学部教授を頂点に位置付けてる日本の医療には、素晴らしいものが色々とあっても、生身の人間を見つめる視点には欠けるのではないか。

 人間の体や脳の仕組みは、一面では驚いても驚き足りない程、解明されつつある。それでも、人間の体や心は、驚くほどわからないのが現実だ。

 人間の心と体を相手にして行う医療には、だからこそ、人間や病人をじっと見続ける視線、見守り続ける視線が必要だ。

 和田さんは『老人を殺すな!』(KKロングセラーズ)の中で70歳くらいまでの人間の体と、80歳くらい以上の人間の体は、違うと指摘している。青年期、中年期、ヤングオールドとしての70歳くらいまでの人間の体の機能は、それ以降の体の機能と大きく異るという。人間の体は加齢と共に驚くほどの変化をとげ、血圧や血糖値、コレステロールなどが高くてはいけないなどの“医学常識”が通用しなくなるというのだ。

 こうした知識は丁寧な人間(患者)観察によってはじめて得られる。最先端技術に過度の比重を置いた大学病院中心の医療では、そんな診療所や開業医の知識や体験は活かされない。だから大量の薬と高価な最先端医療で医療費だけは膨れあがっても、県民の健康増進(寿命)に結びつかないのだ。

 膨れあがる医療費を削減し、もっと健康になるために、皆で、大学病院からちょっとばかり距離を置くことも必要だ。

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