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2001.02.01 (木)

「 公人が私人にもどるとき 」

『GQ』 2001年3月号
COLUMN POLITICS

昨年11月に、ペルーのフジモリ大統領が辞任を発表し日本に滞在し始めてすでに3ヶ月目に入った。氏の滞在は、日本という国のあり方に、幾つかの大きな疑問を突きつけ続けている。
 第一の疑問は、日本の亡命者や難民政策に対するものだ。恥ずかしいことに、日本はこれまで、亡命者も難民も原則として受け入れてこなかった。フジモリ前大統領の受け入れは、これから先、日本が政策を転換させていくということなのか。この点について外務省と法務省に取材を申し込むと省庁再編で今暫く対応できないということだった。そのため詳細はわからないが、どうみても日本政府が、亡命者受け入れへと政策変更を考えているとは思えない。

 というよりも、むしろ外務省は、その後の経過にホッと胸をなでおろしているのではないか。なぜなら、フジモリ氏が実は日本国籍を有していたという事実が“確認”されたことによって、氏の日本滞在の法的根拠は出来たのであり、同問題は外務省の所管ではなく法務省の所管だという姿勢をとっているからだ。

 だが、フジモリ氏の日本への事実上の亡命に驚いた多くの人は、氏の日本国籍所有という事実にもっと驚いたのではないか。そしてペルー国民の驚きは、日本人のそれよりも数倍強かったに違いない。新聞、テレビで報じられたペルー国民の反応の中には、今になってフジモリ氏が日本国籍を有する日本人だというのは、事実を知らされなかったペルー国民に対する“裏切り”だとの声も強かった。

 日本は二重国籍を認めてこなかった国だ。二重国籍を回避するために1985年に国籍法が改正された。フジモリ氏の日本国籍は、氏が生まれたときにご両親がペルーの日本大使館に出生届を出したことによって取得されたと説明された。政府関係者は「国籍を持っているかどうかもわからなかったフジモリ氏は改正国籍法の対象外」と述べており、85年の改正法が遡ってフジモリ氏に適用されることはないとの立場を示した。

 この説明は、国際社会、とりわけペルー国民にとって受け入れられるものだろうか。私たち日本人がペルー人になったつもりで、立場を逆転させて考えれば、容易に想像がつく。法的には、針の穴をくぐるような際どさで通用するとしても、常識論、そして、政治家に必要な道義に基づいて考えれば、フジモリ氏が実は日本国民であった、だから、東京から突然辞表を提出して、ペルー国民への説明責任も果たすことなく、日本にとどまるというのは、スンナリとは受け入れ難い。

 フジモリ氏に住居を提供している曽野綾子氏は、フジモリ氏は私人であると主張する。曽野氏はまた「キリスト教徒として巡り合わせがある」とも述べており、今回の行動が、氏のキリスト教徒としての“愛”から生まれていることは良く理解しているつもりだ。

 だが、たとえそうでも、フジモリ氏を「私人」と位置づけるのには無理がある。なんといっても、氏は、10年余りにわたってペルーの大統領だった人だ。そのような人物が、外国から辞表を送ったからといって、突然、私人に戻るという理屈は通用しないだろう。フジモリ氏は、一体何をしたのかしなかったのかを、ペルー国民に説明する義務を負った公人なのである。インフレを抑制し、犯罪率を下げ、教育水準を上げたなどの功績は十分に評価するが、そのことと国民への国民への説明責任を負っていることとは別物である。

 従ってフジモリ氏に対する日本政府の対応にはいくつかの選択肢がある。まず、氏にペルー国民への説明義務を果たすよう助言することだ。氏がペルーへの帰国を拒否し亡命を求めるなら、これまで亡命者を受け入れてきた国に氏を丁重に送り届けるべきだ。日本がしてはならないのは氏が日本人の血を引く人物だからという理由で受け入れることだ。日本人だから受け入れて、他民族なら亡命者も難民も駄目というなら人種差別になる。日本がそれでもフジモリ氏を受け入れるなら、国籍があったからという理由ではなく、人種によらず、いかなる国からの亡命者や難民も受け入れる法改正を伴う措置としてでなければならないのだ。

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「 公人が私人にもどるとき 」

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