「 自然によるCO2削減を無にし、地球温暖化を促す人類の愚挙 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年2月3日号
オピニオン縦横無尽 第382回
1月23日付の「インターナショナルヘラルドトリビューン」(IHT)紙は一面トップに大きな写真入りで予想を超えるスピードで進む地球温暖化のニュースを伝えていた。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業部会が発表した新たな報告書によると、100年後の地球の平均気温は、これまで予測されていた最大で3.5度の上昇という数字をはるかに上回る5.8度の上昇にもなりうるというものだった。温暖化による海面の上昇幅は88センチにも及びかねないとも警告されている。
同報告書は全体で1000ページを超える大部のもので、研究にかかわった専門家は516人、それを123人の専門家がまとめた。現時点では過去のいかなる報告よりも地球の気候を深く総合的に分析したものと評価されている。
上海で開催された今回の会議の副議長のJ・ヒューストン卿は「来るべき100年間に起こるであろう気候変化は、過去1万年に起きた、いかなる変化よりもはるかに深刻なものとなる」と予測し、地球規模の早い対策が必要だと警告している。
地球温暖化の主因である二酸化炭素の排出量は、IPCCの話合いにもかかわらず、いっこうに減少の兆しをみせていない。具体的な削減策の将来展望も見えない。人間とは悲しいもので、目前の利便性や経済性にとらわれて、ほんの30年先、50年先を見ることができない。しかし、このままいけば「人類は80年で滅亡する」と警告した書があることは、すでにご紹介した。
西澤潤一、上墅勛黄(うえのいさお)両氏による著述である。同書から二酸化炭素と地球の生態の関係を拾ってみる。
現在地球の大気中の二酸化炭素は0.036%だが、5億5000万年前、地球で大爆発が起きていたといわれるカンブリア期には、大気中の二酸化炭素は0.65%で現在の約18倍だった。この時代の海面は現在より200メートルも高かったと推測されるそうだ。
その時から4億2000万年あまりもかけて、地球はゆっくりと、大気中の二酸化炭素を減らしていった。植物が光合成を繰り返し、海面と大気が触れ合って二酸化炭素を海中に取り込み、海中の珪藻が炭素をさらに取り込んでくれた。こうして4億2000万年がすぎて今から約1億3000万年前の白亜期末からジュラ紀への移行期までに、大気中の二酸化炭素濃度は0.25%へと減少した。海面は、それでも今より125メートルも高かったとされる。
植物はこの地球上にさらに繁茂し、炭素を海中に取り込んでくれる珪藻はさらに増え、地球をおおう海水が、周期4000年にわたるゆっくりとした潮流をつくっていった。潮流は地球を水平に移動するだけでなく、沈み込みと呼ばれる現象を伴って移動する。潮流の沈み込みは深さ4000メートルに達し、深海の低温部に大量の二酸化炭素が蓄積され封じ込められている。
さらに1億3000万年がすぎて、現在地球の大気は、人類生存を許容する二酸化炭素濃度になってきたのだ。
地球が4億年も5億年もかけて減らしてきた大気中の二酸化炭素を人類がどれだけの速度で増やしているか。今1年間に人類が放出する二酸化炭素は230億トン、液体にして30万トンのタンカー、7万5900隻分だと西澤教授らは指摘する。タンカーを1列に並べると、赤道の周囲半周を超えるのだそうだ。それはまた、1億年余前の白亜紀、活発な火山活動が噴き出していた二酸化炭素量の35倍にもなる量だとも指摘されている。
まさに地球創造の神をも畏れぬ行為に人類は没頭していることになるのだ。地球の気候が反乱を起こし変化し始めるとその速度もスケールも人類のコントロールのきかないものとなる。このことを皆が認識することが大事だ。