『週刊新潮』 2010年8月12・19日合併号
日本ルネッサンス 第423回
今から28年前、中国人民解放軍の海軍提督、劉華清が大戦略を立案した。そこには幾段階かの具体的目標が掲げられており、第4段階の目標は2040年までに西太平洋とインド洋から米海軍を排除し、同海域に中国の覇権を確立するというものだ。
米国を排除して創り出すのは大中華圏だ。が、その幕明けは台湾併合なしには始まらない。台湾の置かれている地理的条件は、中国がそれを制した場合、南シナ海、東シナ海は無論のこと、彼らの長期戦略目標である西太平洋及びインド洋における覇権を手にする第一歩となる。日米及びアジア諸国の視点に立てば、中国に排除され、従属さえ強いられかねない時代への第一歩が、中国の台湾併合だといえる。
戦略的に重要な位置を占める台湾の現状は極めて脆弱だ。輸出の40%は中国向けで、企業の70%が中国に投資をしている。多少の変動はあるが中国大陸で働く台湾人は150万人規模に上る。経済的に中国に深く組み込まれているのだ。
中国は軍事的併合よりも、より現実的な篭絡の道として経済や人間の交流の深化の道を選び、それが成功しているのだ。
6月29日に結ばれた中台経済協力枠組み協定(ECFA)はその一例だ。協定は中台貿易において中国が539品目の関税を撤廃し、台湾は267品目を撤廃するという内容で、一見、台湾有利である。
しかし、これこそ中国の深謀遠慮、台湾吸引の甘いエサである。そもそも、両国が通常の国同士が結ぶ自由貿易協定(FTA)ではなく、ECFAに落ち着いたのは、中国が台湾を国と認めず、中国の一地方政府と位置づけた結果である。台湾との協定は、国内協定の扱いなのだ。
中国にとって関税面では大幅譲歩だが、それだけに台湾は貿易に励み、経済の一体化はさらに進むだろう。たとえ、将来、野党で台湾の独立を支持する政党である民進党が政権を奪還したとしても、経済的な一体化が進めば、後戻りは不可能だ。
台湾の危機は日本の危機
中国は79年以来、台湾に「三通」(通商、通航、通信の直接交流)を呼びかけてきた。いまや、中台間に三通を妨げる壁はほぼなくなり、人民元と台湾ドルの交換も解禁された。
加えて中国の人民元は、そのマネー総量が米国を100兆円も上回り、世界一の規模になった。人民元の国際通貨化への流れが加速する中で、台湾経済はいよいよ中国経済に組み込まれていく。
経済の次は文化である。驚くことに、中台両国で中国語辞典の共同編纂も始まることになった。今年7月10日に明らかになった同決定は、文化、教育、メディア交流を制度化することで、中台相互の意識格差を縮小、解消し、中台一体化をさらに進めようという試みの第一段階と位置づけられている。この先には、当然、最終段階としての、統一に向けた政治交渉が待ち受けている。
このような中台関係の緊密化にも拘わらず、中国は押さえるべきところは厳然と押さえている。最終局面で台湾に否と言わせないだけの軍事的包囲網を完成させつつあるのだ。冒頭で触れた西太平洋とインド洋から米海軍を排除するという戦略目標に加えて、台湾に照準を合わせたミサイルは、台湾国防部の報告では今年末には2,000基に達する。中国は、台湾が独立を唱える場合、軍事力を行使すると長年言い続けて今日に至るが、その準備はいつでも整っているということを、ミサイルのみならず、大型軍艦51隻、潜水艦43隻などの年内配備によって誇示しているのだ。
軍事力の行使を中国がためらうとすれば、米国の反発、反撃の可能性ゆえであろう。そこで台湾問題で米国に中国を抑止する意思と力はあるかを問わなければならない。この点について米国の保守系シンクタンク、ランド研究所は、「2020年までに、米国は中国の攻撃の前で台湾を防衛しきれなくなる」と分析した。
同研究所は、米国が台湾防衛の意思をもって第5艦隊と第7艦隊を投入し、第五世代戦闘機であるF-22を飛ばすとしても、また、沖縄の嘉手納空軍基地を使用できるとしても、中国軍は米軍を打ち負かすだろうと分析したのである。
まさに日本にとって他人事ではない。これこそ、日本の問題でもある。米国とても、一国の力では台湾は守り得ない。ならば、台湾を守るべき立場の国々が力を合わせることで、自国の国益をも守る体制を作っていかなければならない。
再度強調すべきは、台湾の危機は日本の危機だという点だ。アジア、太平洋の地政学を考えるとき、台湾は紛れもなく、日本の命運を決する国のひとつである。地政学や安全保障上の重要性に加えて、日本人には歴史的に台湾への強い思い入れがある。民族としての記憶や思い入れは、国の展望を決するに当たってのひとつの無視し得ない判断材料である。
政治的に台湾の側に立つ
それにしても、台湾を領有していた日本の敗戦後も、なぜ、台湾は中国に奪われずに済んだのか。台湾海峡はなぜ、中国の内海にならずに済んだのか。中国共産党との戦いに敗れながらも国民党は如何にして台湾を守り得たのか。
こうした一連の問いへの答えとして一人の日本人の存在が浮かび上がる。歴史に埋もれ、語られることもなかったその人物、旧帝国陸軍の根本博中将の足跡を辿ったのが、『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(門田隆将 集英社)である。
門田氏は、蒋介石総統への強い思い入れに突き動かされ、命を賭して国民党軍を助けた根本中将の物語を発掘し、幾筋もの糸によって結ばれた日本と台湾の姿を描き出した。国民党政府が日本を貶めるためにどれほどの謀略を図ったかがかなり明らかになっている現在、根本中将の余りにも一本気な蒋介石観を批判するのは容易い。しかし、当時の日本の多くの軍人も政治家も、同じような想いを抱いていた。大事なことは、その純な想いと誠実さが一人の日本の軍人を奮い立たせ、金門島以東の現在の台湾を守り切ることが出来たということだ。
結果、戦後の日本は台湾海峡を自由に航行し、日本全体がその恩恵に浴した。一軍人の命を賭けた無私の行為が、日本の繁栄を支えるひとつの要素となったのだ。
さて、「この命、……」を読みながら考えるのは、いま再び、日本は台湾に最大限、手を貸さなければならないということだ。まず、台湾が台湾でなくなるところまで中国に吸引され尽す前に、日本は台湾とのFTAを結ぶことだ。次に、常に政治的に台湾の側に立つことだ。さらに、台湾を支える安全保障上の最大限の協力を試みることである。
『週刊新潮』 2010年8月5日号
日本ルネッサンス 第422回
7月25日から28日までの4日間、過去最大規模の米韓合同軍事演習、「不屈の意志」が日本海で行われた。
横須賀を母港とする原子力空母「ジョージ・ワシントン」を主軸に、艦艇約20隻、航空機約200機、人員約8,000人を投入した演習だった。日本の海上自衛隊の幹部4人もオブザーバーとしてジョージ・ワシントンに乗艦したが、米韓軍事訓練への自衛隊の参加は初めてである。
訓練は北朝鮮の潜水艦の探知、捜索、攻撃などを想定し、第5世代戦闘機F22も4機投入された。演習の規模や内容から判断すれば、米韓両国の意思は固く、投入し得る軍事力は強大に思える。だが、仔細に見れば、「不屈の意志」には中国が色濃い影を落としているのが見てとれる。
「北京コンセンサス」という言葉が浮かんでくる。かつて、国際社会では「ワシントンコンセンサス」が囁かれた。米国の了解や合意なしには国際社会のルールは成立しない、ルールは米国が作るという意味だ。いまそれが、アジア海域で北京コンセンサスにとって代わられつつあるのではないか。そう思わせたのが「不屈の意志」だった。
そもそも、同演習は3月26日、韓国の哨戒艦、「天安」が北朝鮮に撃沈されたことをきっかけに立案された。だが、北朝鮮は「北朝鮮犯行説」に烈しく反発、未だに事件への北朝鮮関与説を「創作劇」だと主張し、韓国に「北朝鮮非難を謝罪し、事実を認識せよ」と要求する。
中国は国連安保理における議論では徹頭徹尾、北朝鮮の側に立った。引き揚げられた天安の傷跡が立証した魚雷攻撃の証拠、或いは撃沈現場の黄海海底から回収された北朝鮮製魚雷の部品など、どのような物証を示しても、中国は納得しなかった。
圧倒的軍事力を有する中国
最終的に、国連安保理は7月9日、「天安撃沈につながった攻撃を非難する」としたが、北朝鮮の名指しは避けた。韓国軍民による合同調査で北朝鮮が天安沈没に責任ありとした結論を「考慮し、深い懸念を表明」した一方で、「無関係だと主張する北朝鮮の反応にも留意」するとの議長声明をまとめたのだ。中国の反対で、北朝鮮制裁はおろか非難決議も出来なかったわけだ。イランの核開発疑惑に関しては、シブシブながら追加制裁決議に同意したのとは対照的に、中国と国境を接し、それだけに中国の国益に直接関わってくる北朝鮮問題に関しては、米国の影響排除を徹底させたのが中国だった。
この国連議長声明から2週間後、ベトナムのハノイでASEAN地域フォーラム(ARF)が開かれた。焦点は2つ、天安事件に関して北朝鮮非難をどのようにまとめるか、南シナ海の西沙、南沙両諸島をめぐる中国対ASEANの対立にどのような解決の道筋をつけるかである。
前者についてクリントン国務長官は北朝鮮の責任を厳しく追及、「挑発的行為をやめ、隣国との関係を改善すべきだ」と要求した。同長官はARFに先立って、ゲーツ国防長官と共にソウルを訪れ、初めて米韓外相・国防相会談(2プラス2)を開いた。その後、わざわざ4者揃って38度線の板門店に出向き現地を視察してみせた。「米国は韓国と共にある」との強いメッセージを北朝鮮、そして中国向けに発信したのだ。
これほど意気込んで臨んだのに、米国はARFでも中国の外交攻勢に競り勝つことが出来なかった。日米韓の強い要請にも拘らず、ARFではまたもや北朝鮮の名指しは行われなかったのである。
後者の南シナ海問題では、南シナ海の西沙、南沙両諸島の領有を主張する中国に対し、ベトナム、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどが異議を唱えてきた。しかし、圧倒的軍事力を有する中国は、現在、これら諸島を実効支配する。
中国はこれらの国々との二国間交渉で、個別撃破を狙ってきたが、ASEAN側は多国間交渉を主張し、米国を引き入れ、味方につけたい考えである。クリントン長官は「南シナ海の航行の自由は米国の国家利益だ」と発言はしたが、同発言は、ARF閣僚会議終了後のことだった。ASEANは米国関与の可能性を引き出しはしたが、米国はあからさまな介入には依然、慎重である。
米韓合同演習はこうした複雑な事情の中で行われた。国連でもARFでも、米中の鬩(せめ)ぎ合いが顕著だったように、「不屈の意志」の立案、実行においても、米国は中国の強い姿勢の前で変更を迫られた。
軍事演習は、当初、撃沈事件が発生した黄海で演習すると5月24日に発表された。だが、国連安保理で中国の協力を得るための外交的配慮として延期された。その間に中国は、一貫して北朝鮮を擁護しつつ、「中国近海への外国艦艇の進入は中国の安全を侵す」と米国を牽制し始めた。中国メディアには「中国の安全保障への挑戦」「米中に海上衝突の危機」などの非難の声が載った。報道は中国政府の意向であり、7月17、18日の両日、中国海軍は黄海上で米国牽制が明らかな軍事演習を断行した。
毅然とした対中姿勢を保つ
対して米国は妥協した。演習海域を黄海から東の日本海に移したのだ。中国の言い分を米国が聞き入れたのである。眼前に出現した現実は、黄海や東シナ海、さらには南シナ海など中国の周辺海域のルールは中国が作るということである。今年5月3日、中国の艦船が東シナ海で日本の海上保安庁の測量船を、中国の海から退去せよといって追い回したことを、私たちは思い出すべきだろう。
ここで必要なのは日米韓のさらなる協力である。3国が協力して毅然とした対中姿勢を保つことだ。だが、米国は、軍事的には中国を警戒しながらも、米中が合体したかのような経済交流のなかで身動きが取りにくい状況になっている。したがって米国の対中姿勢は思わぬところで揺れる。南シナ海の航行の自由の担保のように、自国の権益に関わりのあることでは発言するが、たとえば、ベトナムに人権状況の改善を要求しながら、ベトナムよりはるかに人権弾圧の厳しい中国の人権問題には口を閉ざし続けるように、極力、米国にとって不必要な中国との対立や摩擦を避けるのが米国外交の現実だ。
韓国は米国と共同歩調をとりながらも、危うい要因を抱え込んでいる。表向きの対北強硬策とは裏腹に天安事件発生直後、李大統領は北朝鮮関与説を意図的に排除しようとした。事件発生から約3週間後の4月15日、韓国の世宗研究所は、なんと、第3回の南北首脳会談を成功させようというセミナーを開催した。李大統領はともすると北朝鮮の脅威から目を逸らし、親北朝鮮に流れがちなのだ。それは中国の思惑に沿った中国支配の朝鮮半島を作ることである。
この厳しい周辺状況の下、日本の国運をかける意気込みで防衛力の強化整備に集中しなければならない。
『週刊ダイヤモンド』 2010年6月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 841
「この人は真性暗愚の宰相ですよ」
6月2日、突然辞任を表明した鳩山由紀夫首相について政治評論家の屋山太郎氏が語った。氏はかつて、鈴木善幸首相に「暗愚の宰相」の冠をかぶせたことがある。今回は「真性」が加わった。なぜか。
「鈴木氏は、自分が国際政治や安全保障など、国政の根幹である案件について知識も理解も持ち合わせていないことを十分に認識していました。だから、官僚の言うことをそのまま口移しに喋った。まったく中身がありませんでしたから、僕は彼を暗愚と呼んだ。村山富市氏も同じです。昨日まで自衛隊は憲法違反と言っていたのが、一夜にして合憲に変わり、自衛隊員に国を守る崇高な任務に励めと訓示しました。見ていてばかばかしくなりましたが、日米安保条約も自衛隊も認めたという点で大きく踏みはずさなかったのは、官僚の意見を聞いたからです」
前二者の「暗愚」と鳩山氏の違いは、官僚の助言にまともに向き合うか否かだと、屋山氏は言う。
「鳩山氏は、自身の国際情勢認識がいかに現実遊離で無意味であるかにまったく気づいていない。加えて、政治主導だと言って官僚排除で凝り固まっている。これでは、大きな間違いを犯すのは避けられない。だから『真性』を付けたのです」
それでも、鳩山氏は8ヵ月余の成果を強調した。子ども手当の実施を誇り、普天間問題で沖縄の負担軽減への思いを涙目で語った。「日本の平和は日本人がつくり上げる。米国依存の日米安保を50年、100年続けていいとは思わない」とも、語った。国民は聞く耳を持たなくなったが、「宇宙人」の自分の言葉は、必ず将来、正しかったと理解してもらえると胸を張った。
この人は本当にわかっていない。真に米国への依存を減らし、自力で領土、領海、領空を守り、国民の安寧を守るというのであれば、まず、現実を見て、そこから問題解決に取り組まなければならない。それが鳩山氏には最後まで出来なかった。
たとえば、沖縄県与那国島上空を分断する防空識別圏である。防空識別圏は各国が領空侵犯に備えるために領空の外に設ける空域で、ここに侵入する機体は迎撃戦闘機の緊急発進の対象となる。与那国島は日本の領土なのに、その領空の真ん中まで、台湾の防空識別圏となっている。
鳩山氏は、台湾側はこれを簡単に修正してくれると夢見ていた。そこで、沖縄を訪れた5月23日に、仲井眞弘多知事に「早急に見直す」と確約した。
だが、5月29日、台湾外交部は、「台湾の主権と空域にかかわることで受け入れられない」「事前協議を欠いた一方的通告」だと拒絶した。
自分が願えば、他国はその願いを受け入れてくれると空想し、願いを実現するにはどんな手を打たなければならないかをまったく考えず、準備もしないのだ。この人は単なる夢想家に始まり夢想家に終わる人なのだ。
さて、新首相の下で民主党を立て直すとしたら、まず、鳩山・小沢一郎両氏の手法、つまり権力の二重構造を繰り返さないことだ。
政策には口出ししないと言って、小沢氏は普天間問題にいっさい介入しなかった。突き放して見つめつつ、鳩山氏が失敗すれば、別の人物を首相に担げばよいとの構えである。他方、自身は資金と公認決定権、つまりカネと人事権を握り、力を維持し、首相をも支配の下に置く。これはかつて田中角栄氏が「闇将軍」として政界に君臨したのと同じ手法である。
民主党の新首相は、たとえ小沢氏の影響を深く受けていても、表面的には小沢色を薄める努力をすると思われる。だが、国民はよく見ていることを忘れてはならない。権力の二重構造から脱することなしには、新政権も民主党も立ち直れないであろう。
『週刊ダイヤモンド』 2010年6月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 840
「韓国の哨戒艦への北朝鮮の攻撃がわが国の国防政策立て直しにつながるかもしれません。それ以前に、北朝鮮の核実験と中国の東北工程(高句麗は中国の一部だった、つまり、北朝鮮は中国の領土だという主張)が、韓米同盟の危機を救ってくれました」
こう語ったのは韓国戦略問題研究所の権泰栄(グォン・テヨン)所長である。権氏は韓国きっての戦略論の専門家である。
去る3月26日夜、韓国海軍の哨戒艦「天安」が轟沈された事件は、5月15日に魚雷のスクリューが海底から回収され、北朝鮮の犯行だったことが証明された。李明博大統領は5月24日、これを「北朝鮮による軍事挑発」だと明言し、北朝鮮船舶の韓国領海の通過禁止、開城工業団地と乳幼児向け支援を除く南北間の交易・交流の中断、国連安全保障理事会での北朝鮮の責任追及を発表した。
日米両政府は全面的に韓国政府を支援すると発表したが、中国政府は「冷静な対応」を求め、非協力的である。
権氏は、国際政治の動きとは別に、北朝鮮の潜水艦の取った航路などを正しく把握し、その軍事的脅威に備える必要があると強調する。
「天安轟沈事件の2~3日前、北朝鮮の西海の海軍基地から2隻の小型潜水艦が出港したことは確認されています。300トン級と130トン級で、大型のほうは鮫(サンオ)級、小型は鮭(ヨノ)級です」
権氏が、現時点(5月21日)での推測だと断ってさらに説明した。
「鮫級がNLL(韓国と北朝鮮の黄海上の軍事境界線)を越えて韓国側水域に潜入し、天安から3キロメートル地点まで接近し位置を確認、それをもう一隻の鮭級が魚雷で攻撃したと見られています。もちろん、これからの調査で詳細はもっと明らかになりますが、今回の事件の重要なポイントは北朝鮮の非対称性の戦力が功を奏した点です。1,200トンの天安が130トンの鮭級潜水艦の発射した250キログラムの魚雷に撃沈された。北朝鮮が以前から小型潜水艦に力を入れてきた理由がわかります」
「統一日報」論説委員の洪熒(ホン・ヒョン)氏が興味深いことを語った。
「太平洋で行われる環太平洋合同演習(通称リムパック)には、韓国軍も毎年参加しています。1,200トン級の韓国の潜水艦も参加するのですが、8万トンから10万トンを超える米海軍空母や1万トン近いイージス艦など最新鋭の巨艦10隻以上を、わずか1,200トンの潜水艦が沈めるシミュレーション結果になっています。その間、米海軍側は一隻の潜水艦も発見出来ないのです。天安を沈めた北朝鮮の鮭級は、リムパックに参加する韓国海軍の潜水艦の約10分の1のサイズです」
小が大を破壊するのだ。北朝鮮の韓国攻撃は、この非対称性戦力によって成功した。潜水艦の威力はわかっていながら、その防御はかなり難しい。
李大統領の北朝鮮非難に反発し、北朝鮮は「全面戦争」も辞さないという強烈なメッセージを発表した。北朝鮮の恫喝はあまりにおどろおどろしいためにかえって非現実的に聞こえがちだが、その言葉どおりの行動を取りかねないのが金正日政権の異常さである。
権氏が指摘した。
「北朝鮮の対韓国侵入工作特殊部隊はかつて12万人でした。現在は18万人です。核や生物兵器などの大量破壊兵器とともに、この特殊部隊は深刻な脅威です。韓国政府は韓国独自の国防力の強化と、韓米同盟の再強化にとりかかっています」
しかし、と、権氏は述べる。
「北朝鮮有事の際の韓日連携についての話し合いは進んでいないように見受けます。また、普天間問題で日米同盟が揺れています。韓国は非常に心配しています。韓国のためにも日米同盟を強化してほしいのです」
権氏の訴えを、鳩山由紀夫首相にこそ、聞いてほしいものだ。
『週刊新潮』 2010年6月3日号
日本ルネッサンス 第413
5月23日、沖縄を再訪した鳩山由紀夫首相は仲井眞弘多(ひろかず)知事と対面し、立ったまま会話を始めた。「日米間のギリギリの交渉」について報告する首相に知事が声をかけた。
「おかけいただけませんか? どうぞ」
着席を促され、首相は「失礼かと……。よろしいですか? 座って恐縮です」と答えて、ようやく着席した(5月24日付『産経新聞』)。
首相たる者が47都道府県の一知事になんという恐懼恐縮振りか。1986年の初当選以来約四半世紀も政治家をしていて、沖縄海兵隊の抑止力を今年5月になってようやく学び知ったという前代未聞の首相だけに、自らが巻き起こした混乱の渦の中で、恐懼恐縮せざるをえないのは、仕方がないのだろう。
首相は知事の前で用意してきた文書を読み上げた。「辺野古の付近にお願いをせざるを得ない」「混乱を招いたことに、心からおわび」するとしたが、その中で首相は随分とおかしなことを言っている。「(前政権が)米国と交渉さえしてこなかった負担軽減と危険性の除去を(自分は)前進させる」との主張である。
自民党政権は本当に、沖縄の負担軽減や危険性の除去について「交渉さえしてこなかった」のか。06年5月1日の日米合意文書を見てみよう。これは前年10月に合意した「日米同盟、未来のための変革と再編」に基づいて、在日米軍と自衛隊の再編の具体策を詰めたもので、通称ロードマップと呼ばれる。そこには、ざっと以下のように書かれている。
約8,000名の第3海兵機動展開部隊の要員とその家族約9,000名は、2014年までに沖縄からグアムに移転する。対象となる部隊はキャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧及び牧港補給地区から移転する。
結果、「嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる」とロードマップに明記されたように、広大な土地が返ってくる。全面返還されるのは、キャンプ桑江の0.675平方キロ、普天間飛行場の4.806平方キロ、牧港補給地区の2.737平方キロ、那覇港湾施設の0.559平方キロ、陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファームの0.16平方キロだ。6.425平方キロのキャンプ瑞慶覧も部分返還される。
首相の発言は事実に反する
また普天間移転に伴って、緊急時の使用には福岡県の築城基地と宮崎県の新田原基地が充てられる。
元航空自衛隊員で安全保障問題に詳しい潮匡人氏が語った。
「普天間移転で沖縄県への負担はかなり軽減される予定で、すでに実現済みの部分もあります。海兵隊員8,000人が家族と共にいなくなり、土地が沖縄に返され、築城や新田原の利用にみられるように、県外に移る機能もあります。そこを見ないで普天間の移転先にだけとらわれ、計画全体を止めるのは愚かです」
普天間移転イコール沖縄県への負担軽減であることに、まず、留意せよと、潮氏は強調する。その軽減が十分か否かの議論は当然あるだろう。だが、日米間で沖縄の負担軽減が全く交渉さえされてこなかったという首相の発言は事実に反する。
また首相は、自民党案とほぼ同じ案に戻った点を問われ、24日、「辺野古だが、現行案ではない。住民の安全はもちろん、環境面に徹底的に配慮する新しい形」だと反論した。
だが、96年の普天間返還合意は住民の安全を守り騒音を減らすことが原点だった。環境保護のために何年間にもわたる環境アセスメントも行われた。06年のロードマップにも安全性、騒音、環境への配慮は明記されている。まるで自分だけが住民の安全と環境に配慮しているかのような首相の言い方はおかしいだろう。
普天間問題で認識すべきは、沖縄への負担軽減だけでなく、日米安保体制による日本全体への負担軽減の実態である。防衛費で見てみよう。
日本の防衛費は現在約4・7兆円。米国は50兆円、中国は15兆円と見てよいだろう。中国が年々2桁の伸び率で軍事費を増やしてきたのに対し、過去8年間、日本は防衛費を年平均で2%ずつ減らしてきた。この少額予算は、日米安保条約で日本の安全が担保されるという前提があって初めて可能である。
兵力を見ると、陸上兵力で世界最大規模は中国軍で160万人、米国と韓国がほぼ同じ54万人、日本は韓国は無論のこと、トルコの40万人やミャンマーの38万人よりも少ない13万8,000人だ。
海上兵力はどうか。米国が排水量602万トンに上る軍艦を有し、中国が132万トンに迫るのに対し、日本は34・5万トンである。
航空兵力は米国が作戦機3,890機、中国は1,950機、日本は430機。ちなみに韓国と台湾は各々530機保有する。
国益を損ねた責任
無論、兵力の単純比較だけで物事は測れない。作戦機が同数であっても、その性能と軍の練度が問われるのは言うまでもない。それでも、軍事において量は極めて重要である。日本の軍事力は米中は勿論、韓国や台湾のような周辺諸国に較べてさえも小規模である。それで済んできたのは、前述のように日米安保条約のもたらす抑止力ゆえだ。
4月7日から22日まで、中国は最新鋭のキロ級潜水艦2隻を含む10隻の艦隊を組んで東シナ海で激しい訓練を行い、沖縄本島と宮古島の間を航行してみせた。沖縄を含む南西諸島は鹿児島から長径1,000キロの広大な海に散在する。その守りに配備の陸上自衛隊は2,100人、対して米軍の地上部隊は1万8,000人だ。日本の不十分な兵力を、米軍が補っているのだ。日米安保体制への過小評価は許されないだろう。
21世紀の世界は、21年にわたる異常な軍拡で力をつけた中国の軍事的脅威に直面している。中国の喫緊の目標は台湾を自らの影響圏に組み入れることだ。中国は、台湾海峡に、第4世代戦闘機400機を配備済みだ。中国製の第4世代多目的戦闘・攻撃機も280機、短・中距離弾道ミサイル1,500基も同じく配備済みだ。加えて中国製の第5世代戦闘機は早ければ2017年には配備されると、米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」の主任研究員、リチャード・フィッシャー氏が発表した。圧倒的軍事力で抵抗を諦めさせて、台湾を併合する意図だという。
日本は、このような国の隣に位置しているのだ。中国の直近の主戦場は台湾海峡を含む東シナ海と西太平洋である。だからこそ、同海域に中国への抑止力としての軍事力の整備が必要である。普天間の代替飛行場が沖縄でなくてはならないゆえんだ。
首相が現行案の普天間に戻ったのは、抑止を学んだゆえと語った。国民を翻弄し、明らかに国益を損ねた首相は、ここに至った経緯を、国民全員に明確に説明する責任がある。
『週刊ダイヤモンド』 2010年5月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 838
世界諸国のリーダーたちは、日々の政治を大戦略につなげて考える。近未来、中期的展望、長期的展望と三段階に分けて問題を整理し、対策を講ずる。
大戦略を描くには、自国だけでなく周辺諸国がどのような動きを見せるか、地球をいくつかの地域に分けて各地域がどのような状況にあるかを読み取り、予想しなければならない。
では、わが国の鳩山由紀夫首相に、その種の「先読み」能力、戦略構築能力はあるか。答えは言わずもがなである。何かどこかが決定的におかしい首相は、普天間移設問題で初めて沖縄入りするときもなんら「腹案」などなかった。が、側近にこう言ったそうだ。
「目を見つめて語り合えばわかってもらえる」
まことに、首相はどこかが決定的におかしいのである。こんな人物がわが国の政治のトップに居続けるうちに、世界は大きく変わりゆく。どのように変化していくのかについて、最新号の「フォーリン・アフェアーズ」にデイビッド・カプラン氏が寄稿している。
氏は、米国新安全保障研究所の上席研究員で、これまでに多くの優れた分析を世に問うてきた。
「中国の力の地政学」で、氏は陸海双方において、中国がどこまでその力を浸透させていくかを分析、予測する。
歴史を振り返ると、「大帝国」が企図して大帝国になることは稀で、むしろ「有機的」、つまりおのずと大帝国へと成長していくというのだ。国家が力をつけ始めると、そこからさらに新しい需要が生じ、力を伸ばす。あるいは、「一種の不安がさらなる拡張へと走らせる」というわけだ。
カプラン氏は、中国の外交的野心は約一世紀前の米国の野心と同様、積極果敢に中国を駆り立てていくが、米中の勢力拡大への動機はまったく異なると説く。米国が国際社会に一定のモラル、価値観、自由や民主主義政体を広めようとしたのに対し、中国はエネルギー、鉱物資源、稀少金属などを貪り続けるために拡張する。それは世界の総人口の約五分の一を占める中国人の生活水準を上げ、維持するためだと見る。
資源の効率的入手を目指す中国は、必然的に超現実志向の外交・安全保障政策を展開する。たとえば、金正日体制を支持し続けるのも、脱北者を逮捕しては送り返すのも、現体制維持が北朝鮮の有する豊富な資源を入手するのに都合がよいからだ。そこには守るべき価値観などはない。自由も人権も民主主義も埒外なのである。
中国的超現実外交における異常な軍拡の持つ意味を、カプラン氏は次のように読み解く。目にするだけで他国が中国を恐れ、端から抵抗する意思を喪失させてしまうほどの強大さを維持して、結果として戦わずして勝利を得るための軍事力なのだ。
だが、単にショーケースに入れて見せつけるだけの軍事力ではないのは明らかだ。中国が最も力を入れて構築している軍事体制は、敵、即ちこの場合は米国だが、米国海軍がいくら頑張っても攻撃することさえ出来ない中国内陸部に軍事力の中枢機能を完成させるとともに、米海軍の中枢機能である空母を、必要あらば壊滅させるだけの攻撃力を構築することだという。
二一世紀の世界の前に立ち塞がる最大の脅威は拡張し続ける中国の力であり、その前で米国がロシアと手を結ぶことも大いにありうるというのだ。
脅威は軍事力だけではない。中国経済の持つ影響力は言うまでもないが、中国最大の武器の一つは人口力だと、カプラン氏は言う。たとえば、ロシア極東のロシア人は700万人、国境の反対側には一億人を超える中国人がいる。武力よりも経済力よりも、まず、ロシアは人口力によって中国に敗北するというのである。鳩山首相らの唱える外国人参政権がいかに日本を足元から滅しかねないかが見えてくる。
『週刊新潮』 2010年5月20日号
日本ルネッサンス 第411回
東シナ海で進行中の事態はまさに日本の危機であり、異常事態だ。
危険かつ侮蔑的な行動
「海監51」が接近したとき、「昭洋」はそう判断して、南東(奄美大島)方向の海域に沈めていた地震計を先に回収しようと移動を開始した。海保の担当者が語った。
「それでも中国船は接近してきました。最接近の距離は1キロ弱です」
海上の1キロは殆ど至近距離だ。小回りが利きにくい船にとって、衝突の危険さえある距離なのだ。
「海監51」は14時30分に警告第一声を発したあとも、「中国の規則が適用される海だ」「調査を中止せよ」と繰り返しつつ、「昭洋」を追尾した。追尾は16時30分まで続き、やがて「海監51」は進路を変え、17時45分、「昭洋」のレーダーから消えた。
結局、2時間10分にわたって、海保は中国に追い回された形である。しかし、海保担当者はこう語る。
「我々は、調査を無事に完了するために、別の海域に移るのが賢明だと判断したのです。地震計は翌日、全て無事に回収し、その他の作業も6日には完了しました」
「海監51」に追われて逃げたのではないという説明だが、果たして中国側はどう受けとめたか。彼らは、単に日本側の移動に合わせて伴走したとは考えなかっただろう。実力行使をすれば、日本は引き下がると実感したはずだ。まともな国なら、自国の海に入り込んできた外国船が調査中止を命じたとき、大人しく引き下がることはあり得ない。海保が「穏やかに」対応せざるを得ない背景に、日本外交の惨状がある。
「昭洋」事件のひと月前、10隻の中国海軍艦隊が東シナ海で軍事訓練を行ったあと、沖縄本島と宮古島の間を通過した。東シナ海中部海域で訓練をする中国艦隊に、海上自衛隊は監視体制を敷いた。当欄でもすでに紹介したが、その海自の艦船に中国のヘリが、高さ30メートル、距離90メートルまで異常接近した。自民党衆議院議員、小野寺五典(いつのり)氏は「もしこれが日中逆の立場であれば」「完全に撃ち落されているのではないか」と、4月14日の衆院外務委員会で述べている。
それほどの異常接近であり、日本への侮りとしか思えない同事件が起きたのが4月8日だった。問題は、同件についての政府発表が13日まで、5日間も遅れたことだ。その間の12日、鳩山由紀夫首相と中国の胡錦濤国家主席がワシントンで首脳会談をした。首相は厳しく抗議しなければならないはずだが、同件を話題にさえしていない。発表の遅れは、鳩山首相が中国の非に抗議しなくても済むような状況を作ろうと、外務省、或いは官邸が画策したのではないかとの推測が広がったゆえんである。
中国海軍の危険かつ侮蔑的な行動に関する情報は、防衛、外務、首相ら閣僚にどのように伝わったのか。国会議事録から見てみよう。
抗議ではなく「申し入れ」
防衛政務官の長島昭久氏が4月20日の外交防衛委員会で自民党の佐藤正久議員の質問に答えて、事実関係を以下のように語っている。
4月8日11時頃、警戒監視中の海自護衛艦「すずなみ」に中国海軍のヘリが異常接近。同14時頃、「すずなみ」から統合幕僚監部に連絡、15時頃、統幕から内局事態対処課に連絡、18時20分防衛大臣以下政務三役に報告が上がる。18時30分、外務省に連絡し、中国政府への申し入れを依頼、ほぼ同時に官邸に報告した。
これが防衛省側の動きだが、午前11時に起きた異常事態が大臣ら三役に報告されるまでになぜ、7時間20分もかかったのか。これで危機に対処出来るのかという疑問は湧く。しかし、防衛省としては、大臣らが情報を受けたあとは、外務省、官邸に迅速に情報を伝えてはいた。
では、外務省に入った情報はどうなったか。岡田克也外相が同情報を知ったのは、なんと12日だった。
21日の外務委員会でも小野寺氏は、防衛省が8日18時30分、外務省、官邸に連絡したにも拘らず、12日まで4日間もなぜ外相に伝わらなかったのかと質した。
岡田外相はこう答えた。
「4日間といいましても、9日が金曜日でありますので、10、11日は土日ということで、12日は月曜日になるわけです。報告が上がってきたのは12日の昼頃であります」
国家の危機管理に金曜日も、土日もあるものか。この種の危機意識の薄さが、国家の大失態につながるのは歴史の示すところだ。
外務省は12日になって初めて中国側に、抗議ではなく「申し入れ」を開始した。外務省の「申し入れ」を確認した防衛省は、13日に情報開示に踏み切った。その間、鳩山首相は前述のように胡主席との首脳会談を終えた。勿論、事件への言及は、一言もなかった。
日本の中国外交の見直し、海保、海自の力の充実、日米安保体制の強化の必要性が痛感される事例である。
『週刊ダイヤモンド』 2010年5月1・8日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 836
沖縄県普天間飛行場の移設をめぐる鳩山由紀夫首相の対応は、絵に描いたように拙劣で無責任だ。おそらく首相は、自ら全責任を引き受けて問題解決に当たったことがない人なのだろう。
そんな首相に、沖縄県知事の仲井眞弘多(ひろかず)氏の言葉を聞かせたい。
沖縄の主要二紙は、連日「国外・県外移設」に向けてのキャンペーンといってよいような紙面づくりを行っている。たとえば「沖縄タイムス」は4月20日の一面トップで独自の世論調査を発表、90%が国外・県外移設を望んでおり、県内移設への反対は昨年秋から26ポイントも増えたと大見出しで報じた。同紙も、もう一方の現地有力紙である「琉球新報」も、基地反対を掲げて主張してきた新聞で、その報道内容は、実は、ある程度予測出来る。
こうした主張を、声高に前面に押し出す紙面づくりの中にも、沖縄の本音を示す事象やメディアの主張とは本質的に異なる物の考え方を示唆する記事が掲載されているのが、面白い。その一つが、前述の世論調査と同じ日の紙面に載った仲井眞知事のインタビュー記事だ。
沖縄では25日の日曜日に「県民大会」が行われ、大会では当然、基地への激しい反対論が主軸となる。その大会に、知事は「もし出るなら、ネバーギブアップで鳩山さんに頑張ってほしいというのが心境だ」と、思いがけないことを述べたのだ。
「仮に5月じゃなくても、もう少しずれ込んでもいい。もう少しおおらかに見たほうがいい」と、首相にとっては干天の慈雨のような言葉で首相をいたわってもいる。さらに、「本来、防衛の施設なので、国民は等しく歓迎すべきものだ」と、刮目すべきことを述べている。
新聞でもテレビ報道でも、基地は「迷惑施設だ」と指摘される。だが、仲井眞知事は「国民は等しく歓迎すべき」だと言った。知事の発言は正論であり、多くの米軍基地を抱える県の知事としての発言の重さを、首相は読み取るべきであろう。
但し、知事は「沖縄に(米軍専門施設の)75%を置かず、ある意味、どんな県、どんな地域でも本来受け入れないとおかしい」とも述べ、「歓迎すべき」ではあるが、必ずしも、沖縄が引き受けるということではないかもしれないと、示唆している。政治家として当然のバランスであろう。
さて、鳩山首相が知事発言から汲み取るべき点は、知事が「県内移設に反対」と明言していないことだ。移設先として、候補に挙がったと報じられ、内閣官房副長官から、官房長官との会談を打診された鹿児島県徳之島の関連三町長は、にべもなく拒絶した。徳之島の激しい拒絶姿勢と、仲井眞知事の姿勢を冷静に比べてみることだ。
もう一点、沖縄について、首相が心を配るべき対象は、移設先とされた沖縄本島北部名護市の辺野古地区の人々の考えである。辺野古の人々は、この地区の陸上に新たな滑走路を造る、いわゆるキャンプ・シュワブ陸上案には、「体を張って阻止する」と言う。他方、同地区からは、現行案、つまりこれまでに決定されていた沿岸部への移設への反対論はいまだ聞こえてこない。
確かに、1月に行われた名護市の市長選挙では、反対派の市長が誕生した。だが、実際に飛行場の移設先とされた辺野古地区では、メディアの出口調査で、賛成派の候補者が70~80%の支持を得たのである。
普天間の移設は、日本政府、現地、米国政府の賛成なしには実現しない。米国政府は、辺野古沿岸部への移設という現行案にこだわり続けている。沖縄の状況は、現行案であれば可能性はあるということを示している。あとは鳩山首相がこうした状況を理解し、対応出来るか否かである。中国海軍の脅威は迫っている。沖縄からの真の発信に向き合い解決を急ぐことだ。
『週刊新潮』 2010年4月29日号
日本ルネッサンス 第409回
4月10日、中国海軍東海艦隊の潜水艦、駆逐艦、フリゲート艦、補給艦、艦載ヘリなど10隻から成る多兵種連合編隊が、沖縄本島と宮古島の間を通過した。
「まさに威風堂々ですよ」
中国海軍の大規模編隊が日本近海を初めて航行したその様子に、海上自衛隊の関係者が思わず呟いた。
大艦隊の航行からその意図が読みとれる。注意深く見れば、興味深いことに気づく。中国が誇る最新鋭のキロ級潜水艦までが、浮上して中国国旗を翻しつつ航行したことだ。
中国海軍の潜水艦を視認する機会など、これまでは殆どなかった。2003年11月に鹿児島県大隅海峡を浮上して航行するミン級潜水艦が視認されたが、今回、中国の潜水艦を、しかも彼らの虎の子のキロ級潜水艦をしっかり見ることが出来たのは、恐らくそのとき以来だ。
堂々と姿を現わしたこのキロ級を、中国はロシアから購入した。音が非常に静かで一旦潜ると探知するのが難しい。その分、日本、米国をはじめ諸国にとっては脅威である。
中国は強大な米海軍力への対抗手段として潜水艦を重視してきた。06年には沖縄沖で訓練中だった米空母キティホークのわずか8キロ地点まで気づかれずに迫り、浮上した。その無言のメッセージは、「我々は気づかれずにここまで接近した。実戦ならば君たちはすでにミサイル攻撃を受け、空母は大破しているだろうね」ということで、米側に中国海軍の威力をいやという程、見せつけた。
中国の潜水艦は、いまや、冷戦期の旧ソ連の潜水艦以上の脅威と受けとめられている。03年以来、米軍が冷戦時代の「対潜戦」を再び重視し始めたのは、急速に高まる中国の潜水艦能力を念頭においてのことだ。
米軍に冷水を浴びせ、その空母をも足止めさせる威力を持つ潜水艦であれば、尚、その隠密性を維持しなければならないはずだ。にもかかわらず、彼らは、潜ったまま通過して差し支えない公海を浮上して航行した。なぜ彼らは潜水艦の軍事的特性である隠密性を犠牲にして姿を見せたのか。その理由を、中国側が珍しくはっきりと公表していた。
「常態化」を宣言
4月10日の軍のメディア、「解放軍報」を読むと、疑問は氷解する。内容は直截(ちょくさい)かつ明確で、中国側が大規模艦隊を外洋に派遣した意図を日本はじめ周辺諸国に周知徹底させたいと考えていることが伝わってくる。
以下、軍報の要旨である。
①東海艦隊の多兵種連合編隊は昼夜連続の対戦演習を実施したが、これは外洋艦隊活動の幕開けである
②今回の訓練は、参加兵力の規模の大きさ、時間の長さ、環境の複雑さ、いずれも近年稀なるものだ
③海軍司令部軍事訓練部の司令官は、外洋訓練の常態化、実戦化を推進すると明言
④中国海軍への艦隊ミサイル攻撃に対しては、電磁妨害及び火力攻撃によって各個撃破する
⑤中国海軍はまた、世論戦、心理戦、法律戦の三戦を実施する
先述の疑問は⑤で氷解する。中国共産党は毛沢東の時代からこの「三戦」を実施してきた。彼らの唱える「法律戦」は、国際法及び国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、他国からの反発に対して反撃のための法的根拠を固めることだ。中国が尖閣諸島を中国領とする国内法を作ったのが、その一例だ。「世論戦」は中国の軍事行動への大衆及び国際社会の支持を高めるための作戦である。「心理戦」は相手国の軍人及び文民の士気を低下させ、中国軍への対抗心や戦闘意識を喪失させるためのものである。
最新鋭のキロ級潜水艦の浮上航行は、日本国民と自衛隊に、中国にはかなわないと思わせるための示威行動だったわけだ。
さて、解放軍報の報道でとりわけ重要なのが「常態化」である。今回彼らが行った外洋軍事活動を中国はこれからずっと行い続ける、大艦隊が日本近海を通り、或いは日本近海にとどまり、中国の国益拡大のために活動すると、宣言したのだ。
現に艦隊には補給艦が含まれており、洋上補給を行っている。艦隊の外洋活動は長期間にわたると見るのが合理的であろう。
このことは日本にとって何を意味するのか。中国艦隊は10日に沖縄本島と宮古島の間を通過したが、7日から9日までの間、東シナ海の中部海域で艦載ヘリの飛行訓練を行った。日本近海での軍事活動であり、当然、海上自衛隊は護衛艦2隻とP3Cを派遣し、監視体制を敷いた。すると、中国海軍のヘリが低空飛行で海自の護衛艦に異常接近した。その距離、わずか90メートル、高さは30メートルで、護衛艦のマスト近くに迫った。完全に侮っているのである。これが、世界第二の軍事大国にのし上がった中国の、現時点における実相である。そして、力のない国は、中国が以降、常に行うと宣言しているこの種の傍若無人の振舞いに耐え続けなければならないということだ。
日本がなすべきことは明らか
ここに至るまでに中国がどれほどの軍拡を重ねてきたか。軍事情報が不透明なために、正確には把握出来ないが、日本の防衛予算がGDP(国内総生産)の1%未満であるのとは対照的に、中国は少なく見積っても3~4%である。中国の軍事費は発表数字の2~3倍と見られており、実際にはもっと膨大な予算が注ぎ込まれている。過去21年間、2桁の伸びを続けた中国の軍事費は現在、21年前の実に22倍に膨れ上がった。
留意すべきは、この異常なる軍拡が明確な戦略に基づいて推進されてきたことだ。防衛政務官の長島昭久氏が指摘する。
「1980年代に、鄧小平の右腕の中国海軍提督の劉華清が長期戦略を打ち出しました。まず、沖縄諸島から先島諸島、台湾、フィリピン、ボルネオに至る線を第1列島線と定義し、2010年までにこの海域から米軍の影響力を排除するというものです。次に、2030年までに空母部隊を完成させ、小笠原諸島からグアム、サイパン、パプアニューギニアに至る第2列島線の海域の制海権を確立する。さらに、2040年までに、西太平洋とインド洋から米国の支配権を削ぐというものです」
「中国はこの長期計画から外れることなく、人類史上、どの国も行ったことのない凄まじい軍拡に邁進してきた。それぞれの目標は、達成時期は多少遅れがちながらも着実に実現されてきた」と、長島氏は語る。
日本列島が存在する西太平洋、日本の生命線であるシーレーンが通るインド洋を、確実に自分の海にするという大目標を具現化しつつある中国の前で、日本がなすべきことは余りにも明らかである。それはいま根本から揺らいでいる日米同盟を立て直し、日本の防衛力を強化する具体策を打ち出し、実行することだ。
『週刊ダイヤモンド』 2010年4月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 835
いよいよここまで来たか。外洋海軍としての力を備えた中国が、太平洋およびインド洋の地政学を根本から塗り替えていく。日本は、中国の意向を常に気にして生きていかなければならない状況に陥るかもしれない。そんな思いで聞いたのが、中国海軍が10隻の艦隊を組んで沖縄本島と宮古島のあいだを通過したニュースだった。
むろん、同海域は公海で、国旗を掲げての通過は国際法上問題はない。だからといって、日本のこの静かな反応、否、むしろ、無反応というべき現実は何なのだろうか。とりわけ現地沖縄の状況には理解しがたいものがある。
沖縄のメディアがいま、熱心に報じているのは今月25日に予定されている普天間飛行場の県外移転を求める県民決起大会に向けての準備活動である。米軍基地はともかくも県外に移すべきだとのさまざまなインタビュー記事や論説などを掲載する一方で、中国海軍がこれまでにない大規模艦隊を組んで沖縄の鼻先を、堂々と通っていったことを脅威ととらえ、その意味や意図について警鐘を鳴らす報道はほとんどない。どの国が日本と価値観を共有し、どの国がまったく共有していないのか、どの国が日本の同盟国で、どの国が脅威なのかを識別しようとしないのである。むしろ、正しく識別し認識することを、沖縄のメディアは妨げている。
中国艦隊は沖縄本島の先を通過する前、ロシアから購入したソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦など五隻を使って東シナ海の中部海域で艦載ヘリの飛行訓練などを実施した。完全な対戦型の訓練である。国際法上問題なしとはいえ、日本近海での軍事活動に海上自衛隊は護衛艦2隻とP3Cを派遣し、監視体制を敷いた。当然の反応である。
ところが、中国海軍のヘリが思いがけない行動に出た。低空飛行で海自の護衛艦に異常接近したのだ。その距離、わずか60メートル、高さは30メートルで、護衛艦のマスト近くに迫った。政府は、これを危険であるとして中国政府に事実関係の確認を申し入れた。
なんと侮られていることか。それにしても、この侮りに直面してもなお、日本国民は怒りもしない。前述のように現場海域となった沖縄では、普天間から米軍を追い払い、日米安保条約反対運動に血道を上げることはあっても、中国への警戒感を高めることはない。
そんな日本の現状に中国はさぞかし満足しているだろう。日米安保条約が揺らげば、中国は東シナ海のガス田開発に踏み切ると考えるのが妥当だが、沖縄の人びとも、そして多くの日本人も、そのような危惧を抱く様子はないのである。
今回の中国艦隊の航行と、これまでの航行との最大の相違はその規模と編成にある。規模の相違は軍事力の相違である。中国海軍は2008年11月、09年6月、今年3月に、4~6隻の編成で今回と同じ海域を通過した。今回は10隻で、完全な艦隊としての航行である。艦隊には補給艦も含まれている。
これまで中国海軍は洋上補給をする能力はないといわれてきた。だが、今回洋上補給をしている様子が確認されている。洋上補給が可能になったいま、中国艦隊は長期にわたって、外洋にとどまることが出来るわけだ。
中国が海洋進出を目指し始めたのは1970年代だ。当時の中国は貧しくまともな艦船の保有は望むべくもなかった。そこで彼らは前代未聞の大規模ODAを日本から獲得し、軍用にもなるインフラを整備した。経済力をつけるに従い、すさまじい軍拡を進め、世界第二位の軍事大国となった。かたや日本は防衛予算を削り続けた。民主党は事業仕分けで本来増額すべき防衛予算をさらに削り、自衛隊員数も削った。
このままでは確実に、日本は中国への従属を迫られる状況に追い込まれる。いま一度、立ち止まって、日本の国防計画を考え直すべきだ。
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