カテゴリー:安全保障・自衛隊・イラク復興

「 ミサイル迎撃能力を持った中国 米国介入の阻止で領域拡大を狙う 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年3月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 828





英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が、中国が1月11日に行った弾道ミサイル迎撃システムの「技術実験」に成功したとの分析を発表した。これによって中国は、米露と並んでミサイル迎撃能力を持つ国に仲間入りしたことになる。

中国のミサイル開発は1970年代から始まる。21世紀の大国となるには宇宙と海洋における軍事的優越性の確立が欠かせないとの考えからだ。

宇宙も海洋も多くの未知の可能性を含んだ領域であり、それに関する研究も開発も、大いに結構だ。だが、中国の迎撃ミサイル技術の確立は人類にとって何を意味することになるのか。答えを得るために、中国の宇宙や海洋に対する考え方を見てみよう。

彼らの海洋に対する考え方はすでに明らかだ。東シナ海は沖縄トラフまですべて中国の海だと主張する。中国の大陸棚の延長なのだから当然だという理屈だ。しかし、日本を含む国際社会全体は海上の境界線は海底の地形のいかんにかかわらず、中間線を基本とすると考える。中国の考え方は、国際社会のそれとは異質なのだ。

宇宙に関しても中国は特異な考え方を表明してきた。米国議会の常設政策諮問機関である「米中経済安保調査委員会」の報告書を見てみよう。

ちなみに、同委員会は、民主、共和両党が選んだ専門家で構成される超党派の組織だ。米中の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査を目的とする。その研究への評価はきわめて高い。2008年の同委員会の報告書は次のように分析している。

「多くの中国人学者たちが、中国の統治する空間は領土上空に始まり、宇宙に向かって無制限に延びている、という主張をしている。中国当局は、自国の主権が宇宙にも及ぶことを明記した国内法をまだ制定はしていない。しかし、人民解放軍の著名な戦略家の蔡風珍将軍は、『一定地域の地上、上空、宇宙は切り離し不可能の統合体である。これらは現代の情報化戦争の戦略的な司令高度なのだ』と主張している」

国際社会には、宇宙上空のどの高さまでが、その国の領空なのかという規定はないが、一定の高度以上の空間は人類共有の空間だという考え方は受け入れられている。だからこそ、国際宇宙ステーションの建設をはじめ、多くの宇宙衛星の打ち上げが可能だ。

ところが、中国は、地上とその上空、宇宙は切り離すことの出来ない統合体だとしたうえで、「情報化戦争の戦略的司令高度だ」と主張するわけだ。海洋権益の貪欲な追求と同様に、宇宙権益についても貪欲かつ独善的な主張を展開しているのだ。

中国はこのような意図を具現化する力をつけつつある。ミサイル迎撃実験での成功もその一つだ。前述の委員会は、中国の宇宙に寄せる意図が、他の国々とは異なり濃い軍事的色彩を帯びていると分析する。

「(中国は)宇宙での軍事行動につながる兵器類の大規模な開発計画を進めている。衛星通信妨害装置、全地球測位システム(GPS)妨害装置、衛星攻撃ミサイル、レーザー兵器など、宇宙用兵器の開発や配備を野心的に実行している」

中国人民解放軍の基本目標は、「自国の主権の強化」である。そのことは中国の「国防白書」2006年版にも明記されている。彼らの主権は軍事力によって強化され、まず、アジアで確立される。

その際の中国の最大関心事は米国の介入を阻止することである。ミサイル迎撃実験の目標も同様であろう。

米国がその海域で力を失い、あるいは撤退したとき、中国は南シナ海の西沙諸島、さらに南沙諸島を取った。東シナ海、尖閣諸島、沖縄で同じ運命をたどらないためにも、鳩山政権は普天間問題を解決し、日米同盟を強化しなければならない。

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「 中国の軍拡による日本の危機を真摯に訴える『日本核武装入門』 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年2月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 826


中国の軍事戦略の分析における第一人者が平松茂雄氏である。防衛研究所に20年、杏林大学総合政策学部の教授として18年、その後現在に至るまで40数年間、中国の外交・安全保障戦略を研究してきた。膨大な数の著書を世に問うてきた氏が、今回は漫画に挑戦した。原作・監修が平松氏、漫画が丹州一心氏による同書は『日本核武装入門』(飛鳥新社)である。

平松氏と漫画という予想外の組み合わせに、「活字離れの激しい今、少しでも多くの人に、日本の危機を知ってほしいから」と氏は語った。

氏は長年、中国の軍事戦略が日本にもたらす危機を誰よりも詳しく、正確に、早い段階から書いてきた。政府に直言し、閣僚に情報提供し、分析と予測も発表し続けた。中国による東シナ海のガス田開発の動きもいち早く把握し、政府に、対処策を講じなければ手遅れになると、どの新聞社も報じない時期から警告を発してきた。

だが、海洋国家でありながら、海の持つ戦略的重要性をまったく意識しなかった日本政府は、氏の警告に耳を貸さず、逆に「あなたは心配し過ぎだ」と笑って受け流したという。

中国の海洋軍事戦略は氏の予測どおりに進んできた。そして今、台湾海峡における軍事的優位の確立、東シナ海の日本の海への侵略、尖閣を含む沖縄諸島の領有権主張、米国の動きを封鎖する海と宇宙における前例のない軍拡、これら一連の現実の先に待ち受ける日本の運命を、『日本核武装入門』で氏は次のように予測する。

「残念ながら日本は……少なくとも日本文化は必ず終焉を迎える」「君たちが生きている間にね!」

日本は確実に中国によって滅ぼされ、子どもたちの読む本も日本語ではなく中国語で統一されるようになると断言するのだ。一見乱暴で、起こりえない事態の空想だと感ずる人がいてもおかしくない。まさか、近未来に、日本が中国に併合され、「日本人」から「日本族」になるなどとは、誰も考えない。

しかし、平松氏の作品をしっかり読むと、暴論に思える氏の論や、的はずれに思えるその危惧が、明確かつ堅固な根拠に基づいていることがわかる。中国の軍事戦略と、他国の領土領海への侵略・拡大について、氏の予測と分析はことごとく当たってきた。今、氏が警告する日本の運命が現実となる可能性もある。そのような事態の発生を防ぐ手立てはただ一つだと、氏は静かに語る。

「日本が核を持てば、あるいは助かるかもしれない」と。

日本人のあいだでは、核は忌み嫌う対象である。そのことを承知しつつ、氏は強調しているのだ。

「われわれ日本人は(核を)持つことが最大の抑止力だということにいい加減に気づかねばならないだろう」

「国際政治からいえば、日本は唯一核を持って許される国だった。なぜならば唯一の被爆国だからだ」

「核を落とされたのだからまた落とされないように核で防衛する。この核保有の論理が通用するのは日本だけ」

はたして、氏の論に、否、氏が明確な論拠を基に示す数多くの事実に、正面から対座し、誠実に考えるだけの政治的成熟を、私たちは身につけているだろうか。少なくとも鳩山政権の中枢を占める人々には、とうてい期待出来ない。であれば、国民が、信念を持って問題提起しなければならない。

そのためには、まず事実を知ることだ。大半を絵が占める本書のページをめくってみれば、専門的な事柄が、非常にわかりやすく描かれているのに驚く。オバマ大統領の「核兵器のない世界」に向けての演説が、日本に平和や安定よりも危機をもたらすことの解説も含めて、活字の好きでない人々にも読んでほしい。中国の軍拡の目的と実態を具体的に知ってみれば、じつに衝撃的で恐ろしい世界が見えてくる。

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「 スリランカが守る鳩山援助隊 」

『週刊新潮』 2010年2月18日号
日本ルネッサンス 第399回


日本時間の1月13日にハイチで起きた地震は、総人口1,000万人の国に死者21万人強、被災者300万人強の被害をもたらした。90%以上の建物が崩壊し、首都ポルトープランスは壊滅した。あれから約ひと月、瓦礫の片づけははかどらず、医薬品も食糧も水も不足している。

地理的に見てハイチは米国の裏庭である。それだけにオバマ大統領は直ちに反応した。ハイチ問題についての、最初の演説でこう語っている。

「ハイチ問題最優先」で「米国の指導力」を発揮する。「神の恵み」の下で、「南の隣人たちと連携」する。「陸軍、海軍、海兵隊、コーストガード」を投入し、「米軍は24時間体制の」救出活動を行い、「政府は1億ドル(約90億円)を支出する」。

ハイチは数年前まで、激しい反政府武装勢力の活動で社会不安が続いていた。国連は04年に、PKO部隊、「国連ハイチ安定化派遣団」を送った。06年の選挙で新政府が発足し、ようやく治安が回復しつつあった矢先の地震だった。

このハイチに外交攻勢を強めたのが中国だ。中国は04年以降国連PKOに150人の警察部隊を派遣していた。今回の地震で中国部隊の幹部8人が死亡、中国政府は彼らを「英雄」として国葬で讃えた。

中国がハイチに力を入れる理由に、中南米における台湾の影響力排除があるのは明らかだ。現在、中国とハイチ間に国交はない。台湾と国交を維持する国は現在23ヵ国で、内12ヵ国が中南米に集中しており、ハイチはそのひとつなのだ。

もうひとつの理由は米国の裏庭に影響力を及ぼすことだ。中国の動きは素早く、中国軍の第一陣は地震発生から33時間でポルトープランスに到着した。米国、アイスランド、プエルトリコに続く早さだった。

日本はどうか。施政方針演説で声を限りに「いのち」と連呼した鳩山由紀夫首相は、ハイチの地震発生から約36時間後の1月14日夕方、記者団の質問を受けて、述べた。

「多くの人命が失われたこと、心からお悔やみを申し上げたい」

陸上自衛隊の国際緊急医療援助隊(国緊隊)が派遣されたのは地震発生から9日目の1月21日だった。彼らは23日に現地入りし、医療活動を開始した。


サマーワと同じ構図


自然災害時の援助では、何よりも即応することが大事である。だが、被害国の状況によっては、医療活動といっても危険が伴う。ハイチの場合、元々の社会構造の不安定に加えて、食糧や水不足による不安と不満が募り、国連援助隊が住民に襲われるケースも多発した。逃げきれず、国連側が催涙スプレーをかけたケースさえある。医療隊といえども、身を守る武器携行が必要である。

今回、国緊隊の派遣に関して政府決定が遅れたのは、まさに隊員の「いのち」をどう守るのかについて、判断出来なかったからだ。関連法は国緊隊の武器携行を禁じている。かといって、ハイチでは国連PKO活動が続いていたのである。それは紛争が続いていることを意味する。刻々と入ってくる情報も、ハイチの社会不安と危険性について警告するものばかりである。そのような地域へ自衛隊を丸腰で派遣して、隊員の安全を担保出来るのか。その見極めに時間がかかり、9日がすぎたのだ。

安全確保に目処がついたからこそ、派遣に踏み切ったわけだが、具体的にはどういうことだったのか。国緊隊の約100名は、首都から西方約40キロの町、レオガンの、エピスコパル大学の敷地に診療施設を設営し、すでに千数百名の患者を手当した。

その彼らの安全を守るのはスリランカ軍である。エピスコパル大の設営場所から1.5キロ先に、国連のスリランカ軍2個中隊が設営しており、国緊隊に危険が及ぶような場合、目と鼻の先から救援に駆けつけてくれるという想定なのだ。国緊隊の設営場所は、スリランカ軍との距離の近さもあって決定されたといえる。

そのことを知って思わず嘆息するのは私だけではあるまい。イラクのサマーワで活動したとき、自衛隊の安全を英国軍やオランダ軍に守ってもらったのと同じ構図である。だが、スリランカの人口は2,000万人強、およそすべての面でわが国よりはるかに小国だ。その小国に、日本を守る負担をお願いしなければならないのだ。スリランカの人々に感謝しつつも、このような体制からは一日も早く脱しなければならない。

日本が国緊隊を派遣した1月21日、国連は軍事部門で2,000名、警察部門で1,500名のPKOの派遣を諸国に要請、日本政府は応えて、2月5日に自衛隊員350名の派遣を閣議決定し、一次隊の6日の派遣にこぎつけた。護身用の武器として、拳銃、小銃、機関銃も携行を許された。自衛隊のPKO部隊は避難民収容施設の用地造成や瓦礫の撤去、道路整備などを担当するという。

鳩山首相はこの展開について、「2週間という(短時間で)PKO派遣を決めることが出来た。今までになかったことで、感慨無量の思いがございます」と語っている。


自衛隊派遣の恒久法を


たしかに従来のPKO派遣に要した数ヵ月単位の時間に比較すれば、今回の派遣はかなり早い。理由は大別して2つある。

ひとつは防衛大臣直属部隊としての中央即応集団が07年3月、自民党政権のときに創設されていた点だ。中央即応集団は陸上自衛隊朝霞駐屯地に本部を置き、約4,000名の隊員で構成する。目的は「国際平和協力活動や国内の各種事態への即応」だ。すぐ任務に飛び出せるように、あらかじめ種々の予防接種を受けている。全員のパスポートは金庫に保管され、装備も整えられている。同集団創設以前は、隊員への予防接種だけで月単位の時間がかかっていた。

別の理由は、与党となった社民党が日本国の責任を認識し現実路線を選んだせいか、自衛隊のPKO派遣に反対しなかったことだ。野党の自民党も無論、反対しなかった。

自衛隊のPKO部隊の派遣に米国は好意的である。「米国の裏庭」で進む中国の影響力拡大の動きに当然、彼らは苦々しさを覚えているであろう。そこに価値観を共有する同盟国として、本来、協力が期待されている日本がかつてない早さで援助に入ったのだ。インド洋からの撤退や普天間飛行場移設での迷走が、これで帳消しにはならないが、鳩山政権への否定的見方を幾分緩和する材料にはなるだろう。

それにしても、この機会に鳩山政権が手をつけるべきことがある。自衛隊のPKO派遣をその度毎に決め、常に行動が遅れて評価されない現行制度から脱却して、今回のように素早い対応を可能にする自衛隊派遣の恒久法を制定することだ。自民党に異論があるはずはない。外交・防衛で一致協力するよい機会である。

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「 鳩山施政方針のあまりの空疎さ 」

『週刊新潮』 2010年2月11日号
日本ルネッサンス 第398回




夢想家、鳩山由紀夫首相の施政方針演説は、空疎で聞くに堪えなかった。「いのち」という言葉を連発し、力を入れるあまり声が裏返っていた。国民の「いのち」を預かる身として、日本の置かれている現実をもっと冷静に見るべきだろう。

首相は、「生まれくるいのち」「育ちゆくいのち」「働くいのち」を守り、さらに「世界のいのち」も「地球のいのち」も守ると、目標値を高めていく。

すばらしいことだ。平和を守ることと同様、反対する人はいまい。だが、いのちを守ることは多くの責任を果たすことであり、首相が語ったように、政治の責任は非常に大きい。

生まれ、育ついのち、そして働くいのちを守るには医療、福祉、雇用など、種々の社会政策が肝要で、それらを可能にする経済成長が欠かせない。だが、鳩山政権の経済政策のどこに成長を促す要素があるのだろうか。そうしたこと以前に、いのちを守るには日本国の安全そのものが守られていなければならない。その点について、鳩山首相の考えは支離滅裂である。

戦後日本の平和と安定の土台は日米安保体制だった。だからこそ、首相の基本的価値観が、明らかに米国と距離を置き、中国に傾く点にあるにも拘らず、首相は演説で「日米同盟の深化」に触れざるを得なかった。

首相の施政方針演説の2日前に演説したオバマ大統領は、しかし、日米同盟にも、日本の存在自体にも触れなかった。鳩山政権の日本は完全に無視されたのだ。首相はそのことを当然知っていたにも拘らず、日本に深刻な影響を与える米国の「日本離れ」にどのように歯止めをかけるのか、そのために何をすべきかについて、演説で何も語らなかった。

ついでに言えば、鳩山政権を事実上差配していると言ってよい小沢一郎民主党幹事長の政治資金問題についても一言もなかった。都合の悪いことには向き合わないのである。


自己中心的で内向き


首相は、国内のいのちだけでなく、世界のいのち、地球のいのちを守るともいう。そのためには地球環境や諸国間の覇権争いの厳格なコントロールが必要だ。他国を力ずくで抑圧し、異民族を虐殺し続ける、たとえば中国のような国は放置してはならない。中国を含む如何なる国の身勝手な振舞いも許してはならないのだ。

しかし、日本離れを進める米国への対処について語らなかったと同じく、「世界のいのち」に大きな脅威をもたらしている中国についても、首相は一言も言及しなかった。

声を裏返らせていのちを連呼してもなにも起きはしない。首相の言葉に説得力がないのは、その視点が自己中心的で、内向きで、他国の動きを認識していないからだ。

夢見る未熟な政治家、鳩山首相を無視したオバマ大統領も、しかし、一般教書演説で見る限り、極めて内向きである。就任して1年、初の一般教書演説の大部分を、大統領は国内経済の再活性化と雇用創出に割いた。今後5年間で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出するそうだ。

現実的な目標とは思えないが、世界一の大国であり続けると決意する大統領としては、掲げざるを得なかった政治的目標値なのであろう。

日米双方の最高指導者は、共に、理想家である。しかし、両者の違いはそれでも非常に大きい。鳩山首相が中心軸を欠いたマシュマロのように柔らかく頼りなく、言葉に始まり言葉に終わるのに対し、オバマ大統領は、国家の基本を一応は押さえている。それが中国の軍事的脅威、もしくは「テロとの戦い」への対処策としての軍事支出の据え置きである。

大統領はすべての裁量的歳出の伸びを3年間凍結したが、社会保障費と国防費は例外とした。国家の基盤は経済だけではなく、軍事的基盤があってこそ、自国と自国民を守ることが出来ると識っているからだ。

オバマ政権の目下の最大の目標は、国内経済の再活性化である。一方で、GDPの10%を超える140兆円に達する見込みの財政赤字も削減しなければならない。大統領は2月1日に予算教書を発表したが、200万人分の雇用創出につながる経済成長戦略と同時に、財政赤字の削減という相反する課題に取り組む筋道を示した。注目されるのは軍事費だ。

前述のように、オバマ大統領は一般教書演説で、軍事費に伸び率凍結の枠ははめなかったが、内部調整でアフガニスタンへの軍事支出を増やすのとは対照的に、有人月探査計画や宇宙開発計画の予算を削減すると発表した。これは一体、世界の安全保障にどんな影響を与えるのか。


秘かに喜ぶ中国


どの国にとっても月探査は膨大なコストの割に現実的見返りが実感しにくい、いわば金食い虫の企画である。米国はケネディ大統領の提唱で始まったアポロ計画、有人月探査をソ連に先がけて成功させた。75年まで続いて、打ち切られた有人月探査を、ブッシュ前大統領が復活させた。2020年までに、有人月探査を実現する計画だった。それを今回、オバマ大統領が中止させたわけだ。

代わりに5年分の宇宙開発関連予算59億ドルをつけたが、これでは国家プロジェクトとして宇宙開発を続けることは困難だ。月探査計画の2020年の実現は困難であろう。

秘かに喜んでいるのが、中国ではないだろうか。中国はいま、異常な軍拡の真っ只中にある。喫緊の目標と見られる台湾併合に関連して、2002年段階で台湾海峡の制空権を握った。台湾をとらえる短距離ミサイルは1,400基も配備済みである。

台湾併合にはそれだけでは不十分で、中国はどうしても米国の介入を防がなければならない。そのために、米軍事力の強みでもあり弱点でもある高度ハイテク技術への依存性を突く力を、中国は蓄えた。サイバー攻撃と宇宙衛星網の破壊である。

中国人民解放軍にはサイバー攻撃のための部隊として、総参謀本部に第3部及び第4部が設けられている。軍全体、否、国家ぐるみで実施するサイバー攻撃を、彼らは「暗殺者の棍棒」と呼んでいるそうだ。中国を起点とする米国防総省へのサイバー攻撃は09年で年間9万件に迫る勢いだとされている。

中国はまた、2020年には独自の宇宙ステーションを、2030年には月面基地を完成させると見られている。両者を結べば、月と地球の間の宇宙空間も、そこを飛び交う衛星も支配出来る。世界のあらゆる情報を瞬時に入手し、ピンポイントで対処する能力を手に入れられる。現在、圧倒的強さを誇る米軍に対等に立ち向かう能力を、中国人民解放軍が手にするということだ。

理想を語り、その甘い陶酔の海に溺れる鳩山首相の無策は論外として、オバマ大統領の控え目な宇宙、軍事政策を最も喜んでいるのは、中国であろう。

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「 普天間飛行場問題で考えるべき 中国の軍事脅威の異常な高まり 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年2月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 824




1月24日の沖縄県名護市の市長選挙の結果は、鳩山政権の終焉への第一歩となる可能性が大きい。どの国の、どの時代の歴史を見ても、国防の基本を蔑ろにした国は滅びている。鳩山由紀夫首相の友愛外交は、その背後に強固な軍事的備えがあって初めて生きてくるのだが、首相の外交は単なる空疎な言葉だけであり、これでは日本は持たない。

普天間飛行場の移設がより困難になり、日米安全保障体制が機能しなくなったとき、日本の国防の危うさは文字どおり日本の浮沈につながる。北澤俊美防衛相や平野博文官房長官は危機を実感しているのであろう。選挙結果は受け止めるが、「手続きも含めて法律でやらなければならない部分もある」(平野官房長官)の発言に見られるように、移設が全面的に選挙結果によって左右されるわけではないとの姿勢を示している。

なぜ、今、普天間飛行場移設問題を含めて日米安保の万全の体制が必要か。中国の軍事的脅威の高まりが尋常ではないからだ。米国は、2002年から毎年、国防総省の報告書「中国の軍事力」を発表。一方、共和・民主超党派の米中経済安保調査委員会も報告書を発表、QDRと通称される「4年ごとの国防計画見直し」などで中国の軍事力を分析してきた。

そうした情報を読めば、首相の唱える安保・外交政策がいかに的はずれで問題外であるかがわかる。米国の分析をざっと紹介する。たとえば、日本が将来直面するであろう中国の脅威を、すでに現在体験中の台湾のケースである。米国は、02年の段階で、すでに、台湾は台湾海峡の制空権を中国に奪われたと分析する。その年、台湾海峡に臨む中国大陸の沿岸には、台湾を狙う短距離ミサイルが350基配備ずみだった。09年には、その数は1,150基に増えている。毎年100基以上増え続けているのである。

むろん、右のミサイルへの核弾頭の装備は可能であり、方角を変えれば、ただちに日本攻撃にも使えることは言うまでもない。

中国は、軍事力で台湾を制圧出来る水準をすでに確立済みだが、それでは不十分だ。台湾問題に米国が介入出来ない状態をつくらなければならない。そこから、すさまじいとしか言いようのない「介入阻止作戦」が展開されてきた。その方法は二つ、サイバー攻撃で米国を機能不全に追い込み、潜水艦を駆使して空母を足止め、あるいは破壊することである。

第一の作戦は、米軍の強みでもあり弱点でもあるハイテクへの高度の依存性を突くものだ。そのために、中国人民解放軍には二つの特別部隊がつくられた。国防総省、国務省をはじめ、考え得るすべての研究機関や大学のコンピュータに侵入して情報を盗む部隊、もう一方は必要なときにコンピュータ網を攪乱し、破壊する部隊だ。ちなみに、中国軍では、これらサイバー攻撃部隊を「暗殺者の棍棒」と呼んでいる。

「暗殺者の棍棒」が、たとえば国防総省に仕掛けたサイバー攻撃は、07年に4万3,880件、08年は5万4,640件、09年は前半だけで4万3,785件だった。年間9万件に迫るすさまじさである。

この数は、国防総省一省に対する攻撃であり、有事の際には米国全土に一斉攻撃が始まると考えてよい。

第二は空母に対する潜水艦の攻撃能力の強化である。06年10月、中国の攻撃型潜水艦が沖縄沖で訓練中の米空母「キティホーク」にまったく気づかれることなく、8キロメートル地点まで接近して浮上したように、中国は米空母を攻撃する能力を十分に備えてしまった。

こうした状態があるからこそ、米国は日米安保条約をも踏まえて備えを固めたいと考えている。米国との協力は日本の安全を守ることにつながる。それが鳩山首相にはわからないのだ。

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「 首相を追い詰める名護市長選挙 」

『週刊新潮』 2010年2月4日号
日本ルネッサンス 第397回


1月24日、米軍普天間飛行場の移設問題を最大の争点とする沖縄県名護市市長選挙で元市教育長の稲嶺進氏(64)が当選した。氏の公約は辺野古の海に基地は造らせないというもので、日米の長年の合意である辺野古への移設は非常に困難となった。

沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告書には、沖縄県米軍区域の総面積の21%にあたる5,002ヘクタールの返還が普天間移設の柱として明記されている。それに伴って訓練場や通信所を県内の他施設に統合し、パラシュート降下訓練は伊江島に、実弾砲兵射撃訓練は本土に、12機のハーキュリーズ航空機は岩国飛行場に移すなどが決められている。すでに準備は進んでおり、岩国のハリアー航空機14機は米国に移駐済みだ。

辺野古移設が頓挫すれば、これらすべての移設も白紙に戻されかねない。政府合意の白紙撤回は異常事態であり、米国の信頼を著しく損なう。5月には移設先を決めるとの鳩山由紀夫首相の言葉が実現されない場合、責任は極めて重大である。

首相も岡田克也外相も、複雑な歴史を背負った沖縄で、県知事や名護市長が辺野古移転計画を容認するまでにどれほどのハードルを越えなければならなかったか、その苦労を想像出来なかったのだろう。だからこそ、簡単に国外や県外移設を公約し、自縄自縛に陥った。

名護市長選挙の時期、私は沖縄八重山諸島のなかでも、最も革新勢力が強く先鋭的な反米反自衛隊の地という評判がある石垣島にいた。同島では2月28日に市長選挙がある。5選を目指すのが大浜長照(ながてる)現市長だ。氏の特徴はなんといっても軍事的な事柄への徹底した反対姿勢である。

氏と、米海軍との間に起きた或る出来事を見てみる。私はこれを、便宜的に「非常事態宣言事件」と呼ぶ。


デモ隊が港のゲートを封鎖


発端は在日米海軍が09年4月1日から3日まで、掃海艦2隻を石垣港に寄港させたいと通知したことだった。米艦船の寄港は日米地位協定で認められているのだが、島では反対の声が起きた。八重山地区の労働組合協議会、九条の会やえやま、いしがき女性九条の会など8団体15人が会見し、「身の毛のよだつ思い」「軍服を着て、市街地を歩くことは許さない」などと非難した。

大浜市長は接岸可能な岸壁はクルーズ船などの予約で一杯で、掃海艦の接岸は物理的に不可能だとして拒否回答を送った。さらに「観光客に無用の不安と混乱を招く」「子どもたちに強い恐怖を与える」「市民感情に配慮を欠いた一方的な押しつけ」「寄港は平和行政と相いれず、内政干渉」だとして、強く反対した。

これに対し3月17日、米軍側は寄港予定を2日延期し、民間の船が出港する後の3日に入港したいと改めて通知した。

地元紙の「八重山毎日」は翌3月18日、「米艦船は来ないで!」との見出しで社説を掲げ、米艦船は「招かざる迷惑な客」だ、米艦船の寄港を「果たして台湾や中国などがどう受け止めるか」と問うた。

石垣島の鼻先の日本の領海を中国の潜水艦が侵犯し、逃げ去ったのは04年11月だった。中国は台湾及び沖縄諸島を照準にとらえた短距離ミサイルを1,150基も配備済みだ(08年9月時点)。しかも、毎年約100基ずつ、増やしている。先の社説子は、こうしたことについてどう考えるのだろうか。沖縄(日本)への軍事的脅威を構築済みで、それをさらに拡大する中国に、的外れの配慮を示し、一方で同盟国の掃海艦という比較的小さな艦船の入港の「危険」を煽りたてる。中国にどう思われるかを心配するより、中国の短距離ミサイルや潜水艦の脅威こそを心配しなければならないはずだ。が、国際情勢への目配りを欠く社説子は「米軍であれ、自衛隊であれ軍隊と名のつくものがこの八重山に出入りすることを一切お断りしたい」と断じるのだ。

さらに驚くべき反応が、今度は大浜市長から起きた。米艦船の寄港予定日近くの4月1日、市長は「寄港した場合は非常事態宣言をして対応せざるを得ない」と述べたのだ。同盟相手が、「乗組員の休養と地元との交流」を求めたのに、市長は極論で息巻いたわけだ。

当時の在沖縄米総領事のケビン・メア氏は、「米海軍の沖縄での活動自体が日米安保の下で日本を守る責任を果たす用意が、米国にあると示すことになる。石垣港は南の海路の中心にあり、寄港の経験を通してこの海域を知っておく必要がある」と記者会見で述べたが正論であろう。

このような経緯を経て、掃海艦2隻は4月3日午前9時前後に石垣港に入港、接岸した。待ち受けていたメア総領事は艦船に移り、艦長以下乗組員を歓迎した。その後、メア総領事と2人の艦長ら幹部が港内から市街地に出ようとしたときだ。反対派が組織した約300人のデモ隊が港のゲートを封鎖してメア氏ら全員を7時間以上封じ込めた。


空疎な友愛精神


地元紙「琉球新報」は、「兵士入れるな」「市民抵抗にらみ合い」などの見出しでこれを報じた。記事にはデモに駆けつけた8歳の小学3年生の、「戦争が起きそうな気持ちになる」との言葉を引用している。相も変わらぬ陳腐な報道である。

沖縄県警は、しかし、港を実力封鎖した人々を解散させるところまでは動かず、メア総領事らに裏口からの脱出を提案したという。メア氏は、米国の代表として裏口からの脱出は断固拒否すると断り、車を降りて、徒歩でデモ隊の真ん中を突っ切った。

石垣島にも、無論、日米安保を高く評価し、同盟の絆を深め、島に自衛隊を誘致したいと考える人々は存在する。だが、掃海艦の寄港に非常事態宣言を口にするなど、常軌を逸していると言われても仕方がない人物が5選を目指すのが「革新の島」石垣の実態である。それは沖縄全土に共通する政治風土でもある。

反米軍、反自衛隊の気風の強いこの沖縄で、普天間の移設先になることを名護市が受入れたのは実に大きな決断だった。それを空疎な友愛精神で反転させたのが鳩山首相だ。

閣僚らはすでに、何を優先すべきかに気付いている。選挙結果について北澤俊美防衛大臣は「沖縄の皆さんに、政府が本来決めるべき選択を過重に任せる風潮は良くない」と語り、平野博文官房長官は「一つの民意の答えとしてはあるだろうが、検討していく上では、(それを)斟酌しなければいけないという理由はない」と語った。他方、首相も、「選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れ」「ゼロベースで、5月末までに結論を出す」と語った。余りに軽い首相の言葉だけに意味は不明だが、1,600票弱の差で導き出された選挙の結果と日米安保体制と、どちらが日本の国益にとってより重要なのかを、未だ判断出来ないのではないか。

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「 安保50年、日米両政府は祝わない 」

『週刊新潮』 2010年1月21日号
日本ルネッサンス 第395回



1月19日、海上自衛隊は碇泊中の艦船を満艦飾に装い、夜には各艦にライトを当てて、50年前のこの日、日米安保改定条約が調印されたことを祝うという。同じ日、駐日米国武官主催の「ホームパーティー」も開かれる。関係者への招待状は 1月12日配達という直前のタイミングだが、鳩山政権の空虚な安全保障政策に危機感を抱く人々は、同会への招待を前向きにとらえ、日米の絆の確認につなげたいと期待する。

50年前の1月19日、岸信介首相はホワイトハウスで、クリスチャン・ハーター国務長官と共に安保条約改定の調印式に臨んだ。

岸は57年6月に行ったアイゼンハワー大統領との首脳会談で初めて、米国側に安保改定を申し入れたが、その主張は日本は防衛力の増強に努める、米国に可能な限りの軍撤退を求める、安保条約を合理化し、大幅に改定して、日本の自立を高めるというものだ。岸は10年後の沖縄、小笠原諸島返還も求めた。

日本の要請を米国に受け入れさせるために、岸の行った訪米前の準備は真剣かつ徹底していた。原久氏の『岸信介 権勢の政治家』(岩波新書)に詳しいが、岸は駐日大使マッカーサー(マッカーサー元帥の甥)との予備会談を少なくとも7回行い、東南アジアをも歴訪してアジアにおける日本の地位の重要性を米国に印象づけた。国内では防衛力強化を目標に、第一次防衛力整備三か年計画(1958~60年)を策定した。3年間で、陸自として18万人、海自12万4,000トン、空自1,300機の整備を目指すと明記した。

対等な安保協力を求める限りは、自国の戦力を強める意思を明示し、米国の眼前で実行する必要があることを知悉していたのだ。米国は、言葉だけでなく、戦力を養って真の独立を確立していきたいとする岸に安保改定の合意を与えた。


命を懸けての安保改定


岸はしかし、国内で苛烈な抗議運動に直面した。30万の大群衆が反対の気勢をあげて首相官邸を取り囲み、警視総監は警備に「自信がない」として、官邸脱出を勧めた。側近が一人去り、二人去る中で「殺されようが何されようが(安保改定は)絶対必要」と思い定めた岸は、法案の自然成立に必要な30日目の6月19日の朝をデモ隊が取り囲む官邸で迎えた。4日後、新条約の発効を見届けて辞任したが、大戦略を描き得た岸であればこそ、文字どおり命を懸けての安保改定だった。

岸が心を砕いたのは、冷戦の深まりとともに日本に尚、浸透しようとする社会主義、共産主義勢力を如何に食いとめるかでもあった。安保改定の前年、北京を訪れた浅沼稲次郎は「米帝国主義は日中両国人民共同の敵」と述べた。岸の求める安保改定に応じなければ、日本が「中立化」或いは「共産化」していきかねないと米国が恐れたほどの力を、浅沼ら、左派勢力は誇示した。

改定安保調印から50年、いま日米間の溝は深い。鳩山首相は日米の対等という、岸と同じ表現を用いながら、内容がまったくないのである。

対等な同盟国、或いは対等な協力者に必要なのは自助及び相互援助の力を有していることである。その力は、経済力などの非軍事力ではあり得ず、軍事力そのものである。だが、民主党の象徴的リーダーとしての鳩山首相も実質的リーダーとしての小沢一郎幹事長も、その点の認識を欠いている。両氏とも自らの意識と現実との距離を認識できないのである。

本誌が発売される頃には、自衛隊のインド洋における補給活動は中止される。普天間飛行場の移転問題は展望が見えない。そうした中で、インド洋での給油給水活動を中国海軍が肩代わりする可能性も指摘されている。海自の幹部の1人は、中国海軍はすでにソマリア沖で自国艦船への補給活動を行っており、インド洋で海自に取って替わることは、技術的に不可能ではないと推測する。

アフガニスタンの活動全体がテロとの戦いであるだけに、中国が申し出れば米国側に拒む理由はないとも見る。その場合、日本の立つ瀬は失われていくだろう。右の幹部が語る。

「自衛隊が情報収集において米軍に依存している以上、政治的齟齬によって情報提供を受けられなくなれば、わが国の防衛は支障を来します。海上艦艇の動きなど、戦術面の情報は掴めても、中国軍の動きや北朝鮮の弾道ミサイルなどの戦略情報については全くわからなくなります」

鳩山首相は岸と異なり、対等な関係の基盤となる情報力や軍事力の整備を考えず、逆に自衛隊の定員も装備も減らす政策である。「対等」の主張とは裏腹に、対米依存を高めざるを得ない矛盾の中にある。


虚ろな対等論


もう一点、岸政権当時も警戒すべきであった体制も価値観も異なる中国は、いまや誰の目にも尋常ならざる軍事的脅威を形成する。対して、日本は万全の守りを実現出来るのか。東シナ海における一方的開発や尖閣諸島領有権の譲らぬ主張を見るまでもなく、中国の脅威は厳然としてあり、現時点で日本が独自に対抗出来るとは思えない。どうしても、米国との連携が必要で、それは、アジア全体の自由と民主主義にとっても必要である。日米の緊密な連携は米国にとっても不可欠なはずだ。

その意味で1月19日は、両政府がともに祝うべき記念日なのだ。しかし、合同式典を考える雰囲気さえ、両国間には存在せず、米国政府は、鳩山民主党の虚ろな対等論を疑問視する余り、日本政府とまともに話し合えるのかと疑っている。

去る9日、北澤俊美防衛相が日米両首脳が50周年を機にそれぞれ声明を発表する方向で調整中だと明らかにした。何もないよりも、声明だけでもあったほうがよいという苦肉の策にすぎない。

この現状に強い危機感を抱くのが、日米関係の重要性と中国の軍事力の脅威を実感している日米両国の軍当事者らである。日米関係の空洞化が中国に誤ったメッセージを与える危険性を、彼らは十二分に承知しているからだ。だからこそ、駐日武官がホームパーティーを開くのだ。

世界の大国米国と、相対的に力を落としつつあるといえどもこれまた大国日本の軍事同盟の調印を祝うにしてはささやかな武官主催の会、公式の催しの色彩から遠くはなれた形のホームパーティーに期待が集まるのも、それが政治の齟齬を埋めたいという当事者相互の意思確認の肯定的な動きととらえられるからだ。岸が命を懸けて成立をはかった改定安保条約は、紛れもなく50年間、日本を支えてきた。自衛隊は同盟関係の基盤を成す信頼醸成に努めてきた。

それを鳩山政権はいとも簡単に崩しつつある。日本に死活的に必要な日米同盟を空洞化させ、大戦略の片鱗も想像出来ない鳩山民主に政権与党の資格がないのは明らかだ。

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「 民主党政権を主導する小沢一郎氏 矛盾に満ちた変節を疑う 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年1月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 821



藤井裕久財務大臣の辞任など、鳩山民主党は年初から波乱含みである。藤井氏辞任の背景に、小沢一郎幹事長との齟齬があったと指摘されている。民主党政権の展望が一に小沢氏の意向や決定にかかっているといっても過言ではない現在、氏の目指すものは何なのかを、明確に把握しておきたい。

『日本改造計画』(講談社)を世に問うた1993年、氏が主張した政策、憲法改正を実現して日本は普通の国になる、自己責任を旨とし小さな政府をつくる、小選挙区制導入で二大政党制を実現するなどは真っ当な主張だった。

しかし、その後、氏の主張は著しく変化した。すべての根幹である日本国のあり方についての考え方も変わった。憲法改正、普通の国という考えが後退し、国連重視の度合いが強まった。

たとえば、『日本改造計画』では憲法九条を離れて日本は普通の国になるべきだと主張した。集団的自衛権を行使するための「小沢調査会」も設置した。96年の『小沢一郎 語る』(文藝春秋)でも、「日本だけが、お巡りさんの役は御免こうむります、消防士にはなりません、清掃作業も御免こうむります、汚いこと、嫌なこと、危険なことは私ら全くやりません、と言って済みますか」と問うている。

しかし、氏は同書でこうも書いていた。個別的、或いは集団的自衛権で平和を保つ時代はすぎて国連中心の平和維持活動以外に平和を担保する道はないのだから、平和維持のための御親兵を日本が国連に提供すべきだ、と。

ついに、日本は国連に「御親兵」を捧げて、国連の理想を広める先頭に立つべきだと主張するに至ったわけだ。これでは普通の国ではなく、夢見る異常の国である。

それからさらに10年後の2006年、『小沢主義(オザワイズム)』(集英社インターナショナル)で変化はさらに際立った。

「明治維新の際、新政府は当初、自前の軍隊を持たず、薩長をはじめとする旧藩の『多国籍軍』によって国家防衛、治安維持を行っていた。今の国連と同じである」「この明治維新にならって、日本は今こそ国連に『御親兵』を出して、世界平和への我が国の姿勢と理念を世界にアピールしていくべきだ」

なんと明治新政府と国連を同一視しているのだ。維新のとき、確かに明治新政府には自前の軍隊はなく、旧藩が御親兵を奉じた。しかし、それらはいずれも日本人の軍隊であり、出身藩は異なっても目標は一つだった。富国強兵を進め、欧米に追いつき、日本が陥っている国家存亡の危機から脱することだ。それは、すべての日本人が等しく抱いた共通の目的だった。列強の脅威の前に、日本国民は藩の境を越えて団結したのだ。

だが、国連のメンバーは、国も民族も、それぞれの目標もまったく異なる。国連は第二次世界大戦の戦勝国連合にすぎず、いまだに敵国条項をもって、日本を敵国と位置づけている。加えて常任理事国には、中国など、必ずしも日本と価値観を共有しない国がある。

そのような国連に日本が御親兵を奉じて使ってもらうという考えのなんと幼稚で自虐的なことか。

憲法改正と集団的自衛権の双方を否定し、国連重視に傾いてきた小沢氏がたどり着いたのが『小沢主義』である。そこには、「自分の脚で立ち、自分の頭で考えて決断」すること、つまり自己責任の重要性が強調されている。

だが、国連にすべてを託そうという氏の考えは、自己責任の対極にある。壮大な自己矛盾だ。氏がたどった普通の国構想から国連至上主義構想への変化は、憲法改正論から憲法擁護論への変化でもある。結局、小沢氏はいつの間にか、現行憲法の比類なき擁護者になったのだ。日本の歴史を加害者の歴史と位置づける東京裁判史観の信奉者だともいえる。氏の対中政策が朝貢的色彩を帯びる一つのゆえんである。

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「 有事の可能性が大きい北朝鮮 自由統一に向けた備えが急務 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年1月9日新春号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 820


新しい年が巡り来た。私たちの前に広がるこの一年は緊張溢れる年になるだろう。民主党政権下の政治的空白と機能停止状況から脱して、多くの緊急事態に向けての準備を整えなければならない。その一つが北朝鮮有事である。

近い将来、北朝鮮情勢が激変する可能性は大である。日本は北朝鮮有事を日韓関係の根本的改善につなぎ、植民地時代の記憶を乗り越え、真の日韓友好関係を築くべく戦略を練らなければならない。

そのために、朝鮮半島の危機を真に韓国の国益となるような方向で乗り越えるための支援を行なうことが必要だ。それは、韓国による朝鮮半島の自由統一を日本の戦略目標とすることだ。米韓両首脳は昨年6月16日に「自由民主主義と市場経済にのっとった平和統一を志向する」とした自由統一ビジョンを発表した。日本はこの考えに沿って、日米韓の戦略対話を、政府、軍および民間専門家の各レベルで行なわなければならない。

そのなかで、米韓軍が北進するとき、日本はどのような協力をすべきなのか、拉致被害者の安全確保のために、米韓両国にどのような協力を求めるのかも、詰めておく必要がある。朝鮮半島の自由統一の主体はあくまでも韓国であることを内外に明らかにして、日韓、および日米韓の連携で動くのである。

このような戦略を、昨年、シンクタンク国家基本問題研究所(国基研)で発表し、同提案を持って、年末に韓国を訪れた。多くの専門家と意見交換したなかで、意外だったのは、韓国の戦略問題専門家のなかに、日本は統一韓国を望んでいない、分断国家のまま、弱い韓国にとどめておくことが日本の利益にかなうと考えているのではないかと思う人びとが少なからず存在したことだった。そうしたなかで、日本は韓国の自由統一を支持すべきだと明確に打ち出した国基研の提言を、多くの人びとが前向きに受け止めた。

韓国戦略問題研究所の高在弘(コージェイフン)氏は、北朝鮮有事の研究者として知られる若手研究者である。氏は有事の際に起きうる状況として、四つのケースを挙げた。(1)特定国(中国)が一方的に軍事的、政治的に介入、(2)米中合意によって朝鮮半島の分裂が固定化、(3)北朝鮮に社会主義体制が維持される、(4)南北朝鮮が連邦制となる。

いずれも韓国にとっては望ましくなく、こうしたシナリオを避けるために、利害が衝突する点についてあらかじめ協議を重ねることの重要性を、氏は強調した。

とりわけ問題になるのが、不可避と思われる中国軍の早期介入である。場合によっては、韓米両軍が三十八度線から北上し、中国軍が国境から南下し、平壌(ピョンヤン)で相対峙するという最悪のケースも考えられる。このような方向に、事態が向かう場合、危機を回避するために、日本に果たしてほしい重要な役割があると、高氏は言う。

第一に、北朝鮮有事で、同じ民族である韓国軍が進入するのは正当な行為だと発表し、中国の部隊派遣には正当性がないという国際世論をつくる先頭に立ってほしいというのだ。日本の国益を考えても、これは当然である。

だが次の言葉を聞いたときに、私は少なからず驚いた。氏は言った。

「もし、中国軍が北朝鮮に入るなら、日本も自衛隊を派遣する可能性があるという意思表示をしてほしい。そのことによって中国軍の撤退を誘導してほしい」

タブーと思われてきた日本の自衛隊の派遣を表明せよというのである。それは韓国の日本に寄せる期待と信頼の表れである。韓国の若手研究者の言葉に応えることができれば、日韓関係は確実に過去を乗り越え、新しい次元に立つことができるだろう。そこまで考え、賢く戦略的に対処できる日本に、今年は成長してほしい。そのための議論を闘わせていきたいと私は思う。

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「 拉致の実態を前にして政府の脆弱性を痛感する 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年12月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 818



12月6日、東京都港区の「ゆうらいふセンター」で行われた、「いかに救い いかに守るか」と題された拉致と国防に関するシンポジウムに参加した。実際の議論に先立って、全員で約20分間のビデオを見た。主催者である予備役ブルーリボンの会が作ったものだ。

同会は、自衛官OB、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補によって構成され、北朝鮮人権法の趣旨を踏まえて拉致問題に関する啓発活動を行ない、拉致被害者救出の具体的可能性を探ろうとする純粋な民間団体である。

同会の代表、荒木和博氏は北朝鮮に拉致された可能性が否定できない、いわゆる特定失踪者の調査に関しても地道な努力を続けてきた。荒木氏らは曽我ひとみさんら拉致被害者の証言を基に、実際に工作員らはどのようにして拉致を実行するのか、シミュレーションを行なってみた。拉致する役もされる役も、屈強な予備自衛官が務めた。

曽我さんはお母さんのミヨシさんと一緒に歩いていたところを、背後から来た数人の男たちにあっという間に縛り上げられ、さるぐつわをはめられ、クルマに押し込まれた。シミュレーションでは、縛り上げてクルマに乗せるまでわずか一九秒だった。曽我さん役を演じたのは屈強な男性であるが、それでも複数の男に背後から襲われれば、簡単に引き倒され、足を縛られ、後ろ手に縛り上げられてしまう。

もう一つのシミュレーションは、蓮池薫さんらが体験した事例だった。海岸で襲われ、袋詰めにされるケースだ。これもいとも簡単に実行された。

荒木氏が語った。

「拉致は、向こうがその気になれば、日本の長い海岸線の至るところで可能だということです。海岸線を守る体制がまったくなく、守ろうという気も政府にはないように思えます」

氏は、政府に欠けているのはもう一つ、いかに、拉致されている人たちを救い出すかだと強調する。いま、とりわけ救出作戦を考えなければならないのは、北朝鮮情勢が流動化の度合いを増しているからだ。

たとえば北朝鮮は突然、デノミを行なった。統制経済よりも、闇経済が力を持ち、人びとは手にした現金を貯め込んできた。デノミはそうしたおカネを吐き出させて市場に回し、再び経済を活性化させようという狙いだ。

しかし、新紙幣と交換できる額に10万ウオンの上限を設けたために、多くの庶民の虎の子の貯金が失われることになる。経済の恨みは、金正日政権の崩壊を早める結果につながっていく。

そうしたときに、拉致被害者をどのように救い出すのか、シンポジウムではさまざまな具体論が語られた。荒木氏らが北朝鮮向けに実施してきた短波放送番組「しおかぜ」で、北朝鮮情勢が混乱に陥ったとき、東海岸の特定地点目がけて集結するように呼びかけるというのもその一つだった。海上に船を待機させ、日本人を救出する計画だ。

混乱のなかで、どのようにして拉致被害者らが海岸線まで逃れてくるのか、具体的にどの地点に集合するのか、日本から派遣する船は海上保安庁なのか海上自衛隊なのか、そうした日本の動きは、朝鮮半島、特に韓国の目にどう映るのか、多くの疑問が生じてくる。

本来、こうした事柄は、日韓政府間で詰めるべきことだ。当然そこには米国も入っていなければならない。また作戦を成功させるには情報を収集していなければならない。そしていま、その気になれば情報は取れるのである。多くの脱北者から事情を聞くこと、彼らに、有力な情報にはそれなりの対価を支払うという日本政府の意思を明確にするだけで、それは口コミ社会の北朝鮮に広がり、情報が集まってくる。

民間人が一堂に集い、こんな作戦を議論しながら、国民を守るという国家の基本的役割を忘れ去ったかのような政府の脆弱さを痛感した。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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