カテゴリー:中国・領海

「 ミサイル迎撃能力を持った中国 米国介入の阻止で領域拡大を狙う 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年3月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 828





英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が、中国が1月11日に行った弾道ミサイル迎撃システムの「技術実験」に成功したとの分析を発表した。これによって中国は、米露と並んでミサイル迎撃能力を持つ国に仲間入りしたことになる。

中国のミサイル開発は1970年代から始まる。21世紀の大国となるには宇宙と海洋における軍事的優越性の確立が欠かせないとの考えからだ。

宇宙も海洋も多くの未知の可能性を含んだ領域であり、それに関する研究も開発も、大いに結構だ。だが、中国の迎撃ミサイル技術の確立は人類にとって何を意味することになるのか。答えを得るために、中国の宇宙や海洋に対する考え方を見てみよう。

彼らの海洋に対する考え方はすでに明らかだ。東シナ海は沖縄トラフまですべて中国の海だと主張する。中国の大陸棚の延長なのだから当然だという理屈だ。しかし、日本を含む国際社会全体は海上の境界線は海底の地形のいかんにかかわらず、中間線を基本とすると考える。中国の考え方は、国際社会のそれとは異質なのだ。

宇宙に関しても中国は特異な考え方を表明してきた。米国議会の常設政策諮問機関である「米中経済安保調査委員会」の報告書を見てみよう。

ちなみに、同委員会は、民主、共和両党が選んだ専門家で構成される超党派の組織だ。米中の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査を目的とする。その研究への評価はきわめて高い。2008年の同委員会の報告書は次のように分析している。

「多くの中国人学者たちが、中国の統治する空間は領土上空に始まり、宇宙に向かって無制限に延びている、という主張をしている。中国当局は、自国の主権が宇宙にも及ぶことを明記した国内法をまだ制定はしていない。しかし、人民解放軍の著名な戦略家の蔡風珍将軍は、『一定地域の地上、上空、宇宙は切り離し不可能の統合体である。これらは現代の情報化戦争の戦略的な司令高度なのだ』と主張している」

国際社会には、宇宙上空のどの高さまでが、その国の領空なのかという規定はないが、一定の高度以上の空間は人類共有の空間だという考え方は受け入れられている。だからこそ、国際宇宙ステーションの建設をはじめ、多くの宇宙衛星の打ち上げが可能だ。

ところが、中国は、地上とその上空、宇宙は切り離すことの出来ない統合体だとしたうえで、「情報化戦争の戦略的司令高度だ」と主張するわけだ。海洋権益の貪欲な追求と同様に、宇宙権益についても貪欲かつ独善的な主張を展開しているのだ。

中国はこのような意図を具現化する力をつけつつある。ミサイル迎撃実験での成功もその一つだ。前述の委員会は、中国の宇宙に寄せる意図が、他の国々とは異なり濃い軍事的色彩を帯びていると分析する。

「(中国は)宇宙での軍事行動につながる兵器類の大規模な開発計画を進めている。衛星通信妨害装置、全地球測位システム(GPS)妨害装置、衛星攻撃ミサイル、レーザー兵器など、宇宙用兵器の開発や配備を野心的に実行している」

中国人民解放軍の基本目標は、「自国の主権の強化」である。そのことは中国の「国防白書」2006年版にも明記されている。彼らの主権は軍事力によって強化され、まず、アジアで確立される。

その際の中国の最大関心事は米国の介入を阻止することである。ミサイル迎撃実験の目標も同様であろう。

米国がその海域で力を失い、あるいは撤退したとき、中国は南シナ海の西沙諸島、さらに南沙諸島を取った。東シナ海、尖閣諸島、沖縄で同じ運命をたどらないためにも、鳩山政権は普天間問題を解決し、日米同盟を強化しなければならない。

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「 中国の軍拡による日本の危機を真摯に訴える『日本核武装入門』 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年2月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 826


中国の軍事戦略の分析における第一人者が平松茂雄氏である。防衛研究所に20年、杏林大学総合政策学部の教授として18年、その後現在に至るまで40数年間、中国の外交・安全保障戦略を研究してきた。膨大な数の著書を世に問うてきた氏が、今回は漫画に挑戦した。原作・監修が平松氏、漫画が丹州一心氏による同書は『日本核武装入門』(飛鳥新社)である。

平松氏と漫画という予想外の組み合わせに、「活字離れの激しい今、少しでも多くの人に、日本の危機を知ってほしいから」と氏は語った。

氏は長年、中国の軍事戦略が日本にもたらす危機を誰よりも詳しく、正確に、早い段階から書いてきた。政府に直言し、閣僚に情報提供し、分析と予測も発表し続けた。中国による東シナ海のガス田開発の動きもいち早く把握し、政府に、対処策を講じなければ手遅れになると、どの新聞社も報じない時期から警告を発してきた。

だが、海洋国家でありながら、海の持つ戦略的重要性をまったく意識しなかった日本政府は、氏の警告に耳を貸さず、逆に「あなたは心配し過ぎだ」と笑って受け流したという。

中国の海洋軍事戦略は氏の予測どおりに進んできた。そして今、台湾海峡における軍事的優位の確立、東シナ海の日本の海への侵略、尖閣を含む沖縄諸島の領有権主張、米国の動きを封鎖する海と宇宙における前例のない軍拡、これら一連の現実の先に待ち受ける日本の運命を、『日本核武装入門』で氏は次のように予測する。

「残念ながら日本は……少なくとも日本文化は必ず終焉を迎える」「君たちが生きている間にね!」

日本は確実に中国によって滅ぼされ、子どもたちの読む本も日本語ではなく中国語で統一されるようになると断言するのだ。一見乱暴で、起こりえない事態の空想だと感ずる人がいてもおかしくない。まさか、近未来に、日本が中国に併合され、「日本人」から「日本族」になるなどとは、誰も考えない。

しかし、平松氏の作品をしっかり読むと、暴論に思える氏の論や、的はずれに思えるその危惧が、明確かつ堅固な根拠に基づいていることがわかる。中国の軍事戦略と、他国の領土領海への侵略・拡大について、氏の予測と分析はことごとく当たってきた。今、氏が警告する日本の運命が現実となる可能性もある。そのような事態の発生を防ぐ手立てはただ一つだと、氏は静かに語る。

「日本が核を持てば、あるいは助かるかもしれない」と。

日本人のあいだでは、核は忌み嫌う対象である。そのことを承知しつつ、氏は強調しているのだ。

「われわれ日本人は(核を)持つことが最大の抑止力だということにいい加減に気づかねばならないだろう」

「国際政治からいえば、日本は唯一核を持って許される国だった。なぜならば唯一の被爆国だからだ」

「核を落とされたのだからまた落とされないように核で防衛する。この核保有の論理が通用するのは日本だけ」

はたして、氏の論に、否、氏が明確な論拠を基に示す数多くの事実に、正面から対座し、誠実に考えるだけの政治的成熟を、私たちは身につけているだろうか。少なくとも鳩山政権の中枢を占める人々には、とうてい期待出来ない。であれば、国民が、信念を持って問題提起しなければならない。

そのためには、まず事実を知ることだ。大半を絵が占める本書のページをめくってみれば、専門的な事柄が、非常にわかりやすく描かれているのに驚く。オバマ大統領の「核兵器のない世界」に向けての演説が、日本に平和や安定よりも危機をもたらすことの解説も含めて、活字の好きでない人々にも読んでほしい。中国の軍拡の目的と実態を具体的に知ってみれば、じつに衝撃的で恐ろしい世界が見えてくる。

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「 鳩山施政方針のあまりの空疎さ 」

『週刊新潮』 2010年2月11日号
日本ルネッサンス 第398回




夢想家、鳩山由紀夫首相の施政方針演説は、空疎で聞くに堪えなかった。「いのち」という言葉を連発し、力を入れるあまり声が裏返っていた。国民の「いのち」を預かる身として、日本の置かれている現実をもっと冷静に見るべきだろう。

首相は、「生まれくるいのち」「育ちゆくいのち」「働くいのち」を守り、さらに「世界のいのち」も「地球のいのち」も守ると、目標値を高めていく。

すばらしいことだ。平和を守ることと同様、反対する人はいまい。だが、いのちを守ることは多くの責任を果たすことであり、首相が語ったように、政治の責任は非常に大きい。

生まれ、育ついのち、そして働くいのちを守るには医療、福祉、雇用など、種々の社会政策が肝要で、それらを可能にする経済成長が欠かせない。だが、鳩山政権の経済政策のどこに成長を促す要素があるのだろうか。そうしたこと以前に、いのちを守るには日本国の安全そのものが守られていなければならない。その点について、鳩山首相の考えは支離滅裂である。

戦後日本の平和と安定の土台は日米安保体制だった。だからこそ、首相の基本的価値観が、明らかに米国と距離を置き、中国に傾く点にあるにも拘らず、首相は演説で「日米同盟の深化」に触れざるを得なかった。

首相の施政方針演説の2日前に演説したオバマ大統領は、しかし、日米同盟にも、日本の存在自体にも触れなかった。鳩山政権の日本は完全に無視されたのだ。首相はそのことを当然知っていたにも拘らず、日本に深刻な影響を与える米国の「日本離れ」にどのように歯止めをかけるのか、そのために何をすべきかについて、演説で何も語らなかった。

ついでに言えば、鳩山政権を事実上差配していると言ってよい小沢一郎民主党幹事長の政治資金問題についても一言もなかった。都合の悪いことには向き合わないのである。


自己中心的で内向き


首相は、国内のいのちだけでなく、世界のいのち、地球のいのちを守るともいう。そのためには地球環境や諸国間の覇権争いの厳格なコントロールが必要だ。他国を力ずくで抑圧し、異民族を虐殺し続ける、たとえば中国のような国は放置してはならない。中国を含む如何なる国の身勝手な振舞いも許してはならないのだ。

しかし、日本離れを進める米国への対処について語らなかったと同じく、「世界のいのち」に大きな脅威をもたらしている中国についても、首相は一言も言及しなかった。

声を裏返らせていのちを連呼してもなにも起きはしない。首相の言葉に説得力がないのは、その視点が自己中心的で、内向きで、他国の動きを認識していないからだ。

夢見る未熟な政治家、鳩山首相を無視したオバマ大統領も、しかし、一般教書演説で見る限り、極めて内向きである。就任して1年、初の一般教書演説の大部分を、大統領は国内経済の再活性化と雇用創出に割いた。今後5年間で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出するそうだ。

現実的な目標とは思えないが、世界一の大国であり続けると決意する大統領としては、掲げざるを得なかった政治的目標値なのであろう。

日米双方の最高指導者は、共に、理想家である。しかし、両者の違いはそれでも非常に大きい。鳩山首相が中心軸を欠いたマシュマロのように柔らかく頼りなく、言葉に始まり言葉に終わるのに対し、オバマ大統領は、国家の基本を一応は押さえている。それが中国の軍事的脅威、もしくは「テロとの戦い」への対処策としての軍事支出の据え置きである。

大統領はすべての裁量的歳出の伸びを3年間凍結したが、社会保障費と国防費は例外とした。国家の基盤は経済だけではなく、軍事的基盤があってこそ、自国と自国民を守ることが出来ると識っているからだ。

オバマ政権の目下の最大の目標は、国内経済の再活性化である。一方で、GDPの10%を超える140兆円に達する見込みの財政赤字も削減しなければならない。大統領は2月1日に予算教書を発表したが、200万人分の雇用創出につながる経済成長戦略と同時に、財政赤字の削減という相反する課題に取り組む筋道を示した。注目されるのは軍事費だ。

前述のように、オバマ大統領は一般教書演説で、軍事費に伸び率凍結の枠ははめなかったが、内部調整でアフガニスタンへの軍事支出を増やすのとは対照的に、有人月探査計画や宇宙開発計画の予算を削減すると発表した。これは一体、世界の安全保障にどんな影響を与えるのか。


秘かに喜ぶ中国


どの国にとっても月探査は膨大なコストの割に現実的見返りが実感しにくい、いわば金食い虫の企画である。米国はケネディ大統領の提唱で始まったアポロ計画、有人月探査をソ連に先がけて成功させた。75年まで続いて、打ち切られた有人月探査を、ブッシュ前大統領が復活させた。2020年までに、有人月探査を実現する計画だった。それを今回、オバマ大統領が中止させたわけだ。

代わりに5年分の宇宙開発関連予算59億ドルをつけたが、これでは国家プロジェクトとして宇宙開発を続けることは困難だ。月探査計画の2020年の実現は困難であろう。

秘かに喜んでいるのが、中国ではないだろうか。中国はいま、異常な軍拡の真っ只中にある。喫緊の目標と見られる台湾併合に関連して、2002年段階で台湾海峡の制空権を握った。台湾をとらえる短距離ミサイルは1,400基も配備済みである。

台湾併合にはそれだけでは不十分で、中国はどうしても米国の介入を防がなければならない。そのために、米軍事力の強みでもあり弱点でもある高度ハイテク技術への依存性を突く力を、中国は蓄えた。サイバー攻撃と宇宙衛星網の破壊である。

中国人民解放軍にはサイバー攻撃のための部隊として、総参謀本部に第3部及び第4部が設けられている。軍全体、否、国家ぐるみで実施するサイバー攻撃を、彼らは「暗殺者の棍棒」と呼んでいるそうだ。中国を起点とする米国防総省へのサイバー攻撃は09年で年間9万件に迫る勢いだとされている。

中国はまた、2020年には独自の宇宙ステーションを、2030年には月面基地を完成させると見られている。両者を結べば、月と地球の間の宇宙空間も、そこを飛び交う衛星も支配出来る。世界のあらゆる情報を瞬時に入手し、ピンポイントで対処する能力を手に入れられる。現在、圧倒的強さを誇る米軍に対等に立ち向かう能力を、中国人民解放軍が手にするということだ。

理想を語り、その甘い陶酔の海に溺れる鳩山首相の無策は論外として、オバマ大統領の控え目な宇宙、軍事政策を最も喜んでいるのは、中国であろう。

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「 首相を追い詰める名護市長選挙 」

『週刊新潮』 2010年2月4日号
日本ルネッサンス 第397回


1月24日、米軍普天間飛行場の移設問題を最大の争点とする沖縄県名護市市長選挙で元市教育長の稲嶺進氏(64)が当選した。氏の公約は辺野古の海に基地は造らせないというもので、日米の長年の合意である辺野古への移設は非常に困難となった。

沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告書には、沖縄県米軍区域の総面積の21%にあたる5,002ヘクタールの返還が普天間移設の柱として明記されている。それに伴って訓練場や通信所を県内の他施設に統合し、パラシュート降下訓練は伊江島に、実弾砲兵射撃訓練は本土に、12機のハーキュリーズ航空機は岩国飛行場に移すなどが決められている。すでに準備は進んでおり、岩国のハリアー航空機14機は米国に移駐済みだ。

辺野古移設が頓挫すれば、これらすべての移設も白紙に戻されかねない。政府合意の白紙撤回は異常事態であり、米国の信頼を著しく損なう。5月には移設先を決めるとの鳩山由紀夫首相の言葉が実現されない場合、責任は極めて重大である。

首相も岡田克也外相も、複雑な歴史を背負った沖縄で、県知事や名護市長が辺野古移転計画を容認するまでにどれほどのハードルを越えなければならなかったか、その苦労を想像出来なかったのだろう。だからこそ、簡単に国外や県外移設を公約し、自縄自縛に陥った。

名護市長選挙の時期、私は沖縄八重山諸島のなかでも、最も革新勢力が強く先鋭的な反米反自衛隊の地という評判がある石垣島にいた。同島では2月28日に市長選挙がある。5選を目指すのが大浜長照(ながてる)現市長だ。氏の特徴はなんといっても軍事的な事柄への徹底した反対姿勢である。

氏と、米海軍との間に起きた或る出来事を見てみる。私はこれを、便宜的に「非常事態宣言事件」と呼ぶ。


デモ隊が港のゲートを封鎖


発端は在日米海軍が09年4月1日から3日まで、掃海艦2隻を石垣港に寄港させたいと通知したことだった。米艦船の寄港は日米地位協定で認められているのだが、島では反対の声が起きた。八重山地区の労働組合協議会、九条の会やえやま、いしがき女性九条の会など8団体15人が会見し、「身の毛のよだつ思い」「軍服を着て、市街地を歩くことは許さない」などと非難した。

大浜市長は接岸可能な岸壁はクルーズ船などの予約で一杯で、掃海艦の接岸は物理的に不可能だとして拒否回答を送った。さらに「観光客に無用の不安と混乱を招く」「子どもたちに強い恐怖を与える」「市民感情に配慮を欠いた一方的な押しつけ」「寄港は平和行政と相いれず、内政干渉」だとして、強く反対した。

これに対し3月17日、米軍側は寄港予定を2日延期し、民間の船が出港する後の3日に入港したいと改めて通知した。

地元紙の「八重山毎日」は翌3月18日、「米艦船は来ないで!」との見出しで社説を掲げ、米艦船は「招かざる迷惑な客」だ、米艦船の寄港を「果たして台湾や中国などがどう受け止めるか」と問うた。

石垣島の鼻先の日本の領海を中国の潜水艦が侵犯し、逃げ去ったのは04年11月だった。中国は台湾及び沖縄諸島を照準にとらえた短距離ミサイルを1,150基も配備済みだ(08年9月時点)。しかも、毎年約100基ずつ、増やしている。先の社説子は、こうしたことについてどう考えるのだろうか。沖縄(日本)への軍事的脅威を構築済みで、それをさらに拡大する中国に、的外れの配慮を示し、一方で同盟国の掃海艦という比較的小さな艦船の入港の「危険」を煽りたてる。中国にどう思われるかを心配するより、中国の短距離ミサイルや潜水艦の脅威こそを心配しなければならないはずだ。が、国際情勢への目配りを欠く社説子は「米軍であれ、自衛隊であれ軍隊と名のつくものがこの八重山に出入りすることを一切お断りしたい」と断じるのだ。

さらに驚くべき反応が、今度は大浜市長から起きた。米艦船の寄港予定日近くの4月1日、市長は「寄港した場合は非常事態宣言をして対応せざるを得ない」と述べたのだ。同盟相手が、「乗組員の休養と地元との交流」を求めたのに、市長は極論で息巻いたわけだ。

当時の在沖縄米総領事のケビン・メア氏は、「米海軍の沖縄での活動自体が日米安保の下で日本を守る責任を果たす用意が、米国にあると示すことになる。石垣港は南の海路の中心にあり、寄港の経験を通してこの海域を知っておく必要がある」と記者会見で述べたが正論であろう。

このような経緯を経て、掃海艦2隻は4月3日午前9時前後に石垣港に入港、接岸した。待ち受けていたメア総領事は艦船に移り、艦長以下乗組員を歓迎した。その後、メア総領事と2人の艦長ら幹部が港内から市街地に出ようとしたときだ。反対派が組織した約300人のデモ隊が港のゲートを封鎖してメア氏ら全員を7時間以上封じ込めた。


空疎な友愛精神


地元紙「琉球新報」は、「兵士入れるな」「市民抵抗にらみ合い」などの見出しでこれを報じた。記事にはデモに駆けつけた8歳の小学3年生の、「戦争が起きそうな気持ちになる」との言葉を引用している。相も変わらぬ陳腐な報道である。

沖縄県警は、しかし、港を実力封鎖した人々を解散させるところまでは動かず、メア総領事らに裏口からの脱出を提案したという。メア氏は、米国の代表として裏口からの脱出は断固拒否すると断り、車を降りて、徒歩でデモ隊の真ん中を突っ切った。

石垣島にも、無論、日米安保を高く評価し、同盟の絆を深め、島に自衛隊を誘致したいと考える人々は存在する。だが、掃海艦の寄港に非常事態宣言を口にするなど、常軌を逸していると言われても仕方がない人物が5選を目指すのが「革新の島」石垣の実態である。それは沖縄全土に共通する政治風土でもある。

反米軍、反自衛隊の気風の強いこの沖縄で、普天間の移設先になることを名護市が受入れたのは実に大きな決断だった。それを空疎な友愛精神で反転させたのが鳩山首相だ。

閣僚らはすでに、何を優先すべきかに気付いている。選挙結果について北澤俊美防衛大臣は「沖縄の皆さんに、政府が本来決めるべき選択を過重に任せる風潮は良くない」と語り、平野博文官房長官は「一つの民意の答えとしてはあるだろうが、検討していく上では、(それを)斟酌しなければいけないという理由はない」と語った。他方、首相も、「選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れ」「ゼロベースで、5月末までに結論を出す」と語った。余りに軽い首相の言葉だけに意味は不明だが、1,600票弱の差で導き出された選挙の結果と日米安保体制と、どちらが日本の国益にとってより重要なのかを、未だ判断出来ないのではないか。

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「 有事の可能性が大きい北朝鮮 自由統一に向けた備えが急務 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年1月9日新春号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 820


新しい年が巡り来た。私たちの前に広がるこの一年は緊張溢れる年になるだろう。民主党政権下の政治的空白と機能停止状況から脱して、多くの緊急事態に向けての準備を整えなければならない。その一つが北朝鮮有事である。

近い将来、北朝鮮情勢が激変する可能性は大である。日本は北朝鮮有事を日韓関係の根本的改善につなぎ、植民地時代の記憶を乗り越え、真の日韓友好関係を築くべく戦略を練らなければならない。

そのために、朝鮮半島の危機を真に韓国の国益となるような方向で乗り越えるための支援を行なうことが必要だ。それは、韓国による朝鮮半島の自由統一を日本の戦略目標とすることだ。米韓両首脳は昨年6月16日に「自由民主主義と市場経済にのっとった平和統一を志向する」とした自由統一ビジョンを発表した。日本はこの考えに沿って、日米韓の戦略対話を、政府、軍および民間専門家の各レベルで行なわなければならない。

そのなかで、米韓軍が北進するとき、日本はどのような協力をすべきなのか、拉致被害者の安全確保のために、米韓両国にどのような協力を求めるのかも、詰めておく必要がある。朝鮮半島の自由統一の主体はあくまでも韓国であることを内外に明らかにして、日韓、および日米韓の連携で動くのである。

このような戦略を、昨年、シンクタンク国家基本問題研究所(国基研)で発表し、同提案を持って、年末に韓国を訪れた。多くの専門家と意見交換したなかで、意外だったのは、韓国の戦略問題専門家のなかに、日本は統一韓国を望んでいない、分断国家のまま、弱い韓国にとどめておくことが日本の利益にかなうと考えているのではないかと思う人びとが少なからず存在したことだった。そうしたなかで、日本は韓国の自由統一を支持すべきだと明確に打ち出した国基研の提言を、多くの人びとが前向きに受け止めた。

韓国戦略問題研究所の高在弘(コージェイフン)氏は、北朝鮮有事の研究者として知られる若手研究者である。氏は有事の際に起きうる状況として、四つのケースを挙げた。(1)特定国(中国)が一方的に軍事的、政治的に介入、(2)米中合意によって朝鮮半島の分裂が固定化、(3)北朝鮮に社会主義体制が維持される、(4)南北朝鮮が連邦制となる。

いずれも韓国にとっては望ましくなく、こうしたシナリオを避けるために、利害が衝突する点についてあらかじめ協議を重ねることの重要性を、氏は強調した。

とりわけ問題になるのが、不可避と思われる中国軍の早期介入である。場合によっては、韓米両軍が三十八度線から北上し、中国軍が国境から南下し、平壌(ピョンヤン)で相対峙するという最悪のケースも考えられる。このような方向に、事態が向かう場合、危機を回避するために、日本に果たしてほしい重要な役割があると、高氏は言う。

第一に、北朝鮮有事で、同じ民族である韓国軍が進入するのは正当な行為だと発表し、中国の部隊派遣には正当性がないという国際世論をつくる先頭に立ってほしいというのだ。日本の国益を考えても、これは当然である。

だが次の言葉を聞いたときに、私は少なからず驚いた。氏は言った。

「もし、中国軍が北朝鮮に入るなら、日本も自衛隊を派遣する可能性があるという意思表示をしてほしい。そのことによって中国軍の撤退を誘導してほしい」

タブーと思われてきた日本の自衛隊の派遣を表明せよというのである。それは韓国の日本に寄せる期待と信頼の表れである。韓国の若手研究者の言葉に応えることができれば、日韓関係は確実に過去を乗り越え、新しい次元に立つことができるだろう。そこまで考え、賢く戦略的に対処できる日本に、今年は成長してほしい。そのための議論を闘わせていきたいと私は思う。

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「 民主党は議論無用の革命政党か 」

『週刊新潮』 2009年12月24日号
日本ルネッサンス 第392回



日本人は昔から皇室を権威とし、権力によって支えられる政党や政治家との間に一線を引き区別してきた。

時代によって皇室を巡る状況は変化し、歴史を振りかえれば、皇室が権威の次元を超えて権力を握ったときもある。反対に、経済的逼迫の中で権威を保つことさえ侭ならなかったと思われる時代もある。

そんな苦労の時代の典型が大永(だいえい)6(1526)年の天皇崩御によって践祚(せんそ)した第105代後奈良(ごなら)天皇の時代だったと、竹田恒泰氏が『旧皇族が語る天皇の日本史』(PHP新書)に書いている。

著書によると、その頃は、御所の築地塀(ついじべい)が崩れても修繕出来ず、三条大橋から内侍所(ないしどころ)の灯火を見通すことが出来たそうだ。内侍所は宮中三殿のひとつで、三種の神器のひとつである八咫鏡(やたのかがみ)を模した神鏡を祀る神聖な場所である。その神聖な内侍所の灯を遠くから見通せるほど無防備な状況にあっても、御所が襲われたり、天皇が傷つけられたりすることはなかった。皇室が日本人の心の中に、大切な存在として刻みこまれていたことの証左である。

権威としての存在と権力者としての存在の決定的な相違は、生存の形にも表れていた。たとえば、江戸城や大坂城は外堀、内堀で守られ、城壁は堅牢な造りで敵の侵入を防いだ。権力者としての武将たちはそうした砦の中に住み暮した。一方、天皇のおわします御所は敷地のまわりにささやかな疏水を走らせているだけの造りだった。民と共に在り、民のために祈る権威としての存在だからこその佇まいだ。

これも竹田氏の著書で学んだことだが、鎌倉時代の蒙古襲来のとき、亀山上皇は石清水八幡宮に行幸して、敵の降伏を祈願した。加えて、8ヵ所の御陵(天皇、皇后の墓所)に勅使を送り、宣命を持たせた。宣命には、自分の命はどうなってもよいから、国と民を守ってほしいと書かれていたという。日本が大東亜戦争で敗れたとき、昭和天皇が占領者として来日したマッカーサーに語られたのと同じ言葉である。


鳩山氏の知的特徴


お言葉は、昭和天皇のお人柄を示していたというより、民を守る祈りから発せられた日本国の天皇としての特徴を表わしていたと考えてよいだろう。

このような皇室であればこそ、御所の周りのささやかな疏水を乱暴にまたぎ、侵入する者はいなかったのだ。権威は鎧をまとわずして、自ずと国民の上に君臨する。皇室と政府、権威と権力の共存が日本国の特徴である。

今回、民主党政権が強引に実現させた天皇と中国の国家副主席、習近平氏の会見は、日本人が幾世紀にもわたって大切にしてきた権威と権力を隔てる仕切り線を乱暴に踏み越えるものだった。鳩山政権はまさに皇室を政治的に利用したのである。

羽毛田信吾宮内庁長官の怒りの会見をきっかけに、鳩山由紀夫首相や平野博文官房長官らの宮内庁への働きかけの実態が明らかになった。14日の小沢一郎氏の会見から、同件に関する氏の考え方の一端も明らかになった。

三氏はいずれも、今回の件は天皇の政治利用ではないと強弁する。が、聞けば聞くほど、三氏の主張は皆、絵に描いたような政治利用である。彼らは、まるで、自分たちの政治目的のために皇室を活用するのは当然だと考えているかのようだ。

鳩山首相は、天皇の会見は1ヵ月前に申請しなければ受けつけないという内規、「1ヵ月ルール」は知っていたと述べ、しかし、「杓子定規が、国際的な親善の意味で正しいことなのか」と疑問を呈した。

首相は、「日中関係において非常に重要な方なので、何とか(会見を実現)出来ないか」と、平野官房長官に働きかけの指示を与えたという。

宮内庁側は、まず、宮内庁式部職が、打診してきた外務省に断り、次に、羽毛田長官が平野官房長官の要請を断っている。平野官房長官は「首相の指示を受けての要請だ」として、再度要請した。この2度目の要請に、宮内庁は屈服した。

このように事実を辿ってみると、政治の力で内規を変えさせたことは明らかだ。首相自身、「杓子定規」を批判して、政治力で変えさせたことを公にしているにも拘らず、それが政治的圧力であることを、理解していないのだ。自分の語る言葉の意味を理解出来ないのが、鳩山氏の知的特徴であることに、この約3ヵ月、私は驚き続けてきたが、その場その場を無意味な言葉で弁明する姿は見るに堪えない。


中国の従属関数国として


小沢氏は、皇室の政治利用を認めたり、恐縮したり謝ったりするかわりに、内規自体、誰が作ったのかも不明で、法律でもないとして、それに縛られることはないとの姿勢を強く打ち出した。憲法には天皇の国事行為は内閣の助言と承認で行われると明記されており、今回の件もその範疇だと、逆に、主張した。

この内規は、陛下の御体調を考えて政府と宮内庁が合意して決めたものである。作者不明ではなく、日本国政府の意思が明確に示されているので、内規を守ろうとした宮内庁長官を責めるのはおかしい。

今回の件を、小沢氏や鳩山氏らの言葉尻を捕えての論争で終わらせては、日本が直面する危機の本質を見失うことになる。民主党中枢部がどっぷりと浸って染まりきってしまっている中国の影響が、これからの日本の外交を決定的に変えていく危険性に目を向けなければならない。

小沢幹事長と胡錦涛国家主席は10日の会談で、「日米中の3ヵ国はバランスの取れた正三角形の関係であるべきだとの認識で一致した」と、山岡賢次氏が語っている。

「正三角形」論を証明するように、鳩山首相は14日、「(天皇との会見は)日中関係をさらに未来的に発展させるために大変大きな意味がある。判断は間違っていない」と強調する一方で、同日午後には、社民党などとの連立を重視する立場から普天間問題を先送りする決定を下した。問題の早期決着と日米合意の尊重という、同盟国の強い要望を拒否したのである。小沢氏も民主党議員の半分近くを率いて、中国への接近を印象づけた。民主党は、同盟国よりも社民党を、そして中国を選んだのだ。

首相はそれでも「米国との交渉で是非、理解を求めていきたい」と語る。まさか再び「Trust me」と言うつもりではあるまい。

恐ろしいことに、私たちの国は国会での論議もなしに、安全保障政策の大転換をはかりつつあるのだ。鳩山政権は日米同盟を日中関係に置き換えようとしつつあるのだ。日中関係では、わが国は間違いなく、中国の従属関数国として扱われる。それを象徴するのが今回の天皇陛下の政治利用である。

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「 北朝鮮による中国人拉致事件が多発 放置する中国政府の実態を直視せよ 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年11月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 815



11月17日、東京文京区民センターで横田早紀江さんのお話を、救う会全国協議会常任副会長の西岡力氏とともに、じっくり聞く機会を得た。めぐみさんが拉致されて11月15日で満32年。子どもを奪われた空白の32年は、どれほど長く、つらい日々だったことだろう。

畳をかきむしって泣き叫び、隣家のお婆さまが気づかって見舞ってくださった日々。めぐみさんの拉致が判明してからは、寒い日も暑い日も、救出を訴え続ける日々。こうしたことをあらためて2時間にわたってうかがった。

「涙が枯れるといいますが、本当に涙が出てこなくなりました」

早紀江さんはそう言いながら日程表を見せてくださった。心底、驚いた。かなり忙しいと自分では考えている私よりも、なお、早紀江さんのほうが忙しいように思えた。私の日程は、取材して書く人間としては当然の結果だが、彼女はもともと家庭の人である。しかも、お年も七十代の半ばである。

拉致被害者の母というだけで身を粉にして訴え続けてきた。民主党政権ができたときも、政府、各党を回り、解決を頼んだ。早紀江さんは語る。

「こうしたことは本来、政府の役割です。政府のほうから、こういう措置を取りますという報告や説明が、家族になされるのが通常の国家ではないでしょうか」

早紀江さんの言葉が示すように、拉致問題解決への政治の動きは、家族が引っ張ってきた面が否めない。疲れた体に鞭打ちながら全国を巡り、夜、休むとき、時々、こう思うという。

「この苦しみはいつまで続くのか。こんな苦しい日々が人生なら、もう二度と、生まれてきたくない。そしてハッと気づくのです。私よりも、もっと深い苦しみや絶望の中に、めぐみも他のお子さん方も、ずっと、いるのだと」

思い直して決意する。翌朝目覚めて支度をして出かける。その決意を早紀江さんはこう語る。

「いつどこで倒れて死んでも、悔いのないように、命ある限り、拉致の解決を訴え続けます」

金正日政権との交渉が、非常に困難なものであることは確かだ。国際的な包囲網なしには難しいことも明らかだ。その際忘れてならないのは、中国の果たしている役割である。

中国はずっと、北朝鮮を経済的、軍事的に支えてきた。金正日政権が今も存続しえているのは、一にも二にも、中国が水面下で支えてきたからだ。

だが、中国の仕業はそれだけではないことが、早紀江さんの会での話で判明した。中国は長年、北朝鮮の拉致の片棒を事実上担ってきたというのだ。これは西岡氏が脱北者の姜哲煥(カン・チョルファン)氏の記事を紹介するかたちで語った。姜氏は、生きて出る人は稀といわれる政治犯収容所の地獄から生還し、中朝国境の鴨緑江を渡り、中国経由で韓国に逃れ、今新聞記者として活躍する人物だ。

その姜氏が、脱北者を支援してきた中国の朝鮮族多数が、北朝鮮に拉致され続けていると、11月17日付の「朝鮮日報」で報じたのだ。中国公安当局は拉致被害者は200人に上ると考えているとも報じられている。

北朝鮮保衛部は、脱北者が急増した1990年代後半から、北朝鮮住民の脱北を支援する中国の朝鮮族に標的を定めて拉致を開始したという。北朝鮮は問題外だが、もっと深刻なのが、中国政府による拉致被害者の返還要求や抗議がほとんどないことだ。朝鮮族であっても、中国籍の中国国民であるにもかかわらず、中国政府はこの一連の拉致事件を事実上、放置し、北朝鮮の蛮行を見逃し、結果として拉致の片棒を担いでいるのである。

日本人の拉致解決を阻む大きな要因に、こうした中国政府の姿勢があることを認識しなければならない。拉致解決は、北朝鮮一国が相手ではない。真の相手は中国だということだ。

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「 外国人参政権法案を議員立法で提出もくろむ鳩山政権のご都合主義 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年11月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 814



鳩山由紀夫氏がまだ民主党幹事長だった今年4月、彼は外国人参政権問題についてこう語っている。

「まさに愛のテーマだ。(私が)友愛と言っている原点はそこにある」
さらに、氏はこうも語った。

「仏教の心を日本人が世界で最も持っているはずなのに、なんで他国の人たちが、地方参政権を持つことが許せないのか」(「産経新聞」2009年10月10日付)

氏は、外国人の参政権は地方政治にとどまらず、国政においても認められるのがよいとまで明言する。国政選挙に外国人を参加させて、国家というものが維持出来るのかなどという発想は、氏には無縁なのであろう。

この鳩山政権下で外国人参政権問題が急展開し、実現されかねないという懸念は少なからぬ人びとが共有する。だが、首相の夢見る少年のような幼い発想とは別に、外国人参政権問題についての民主党の意見はまったく集約されていない。意見集約が不可能だったからマニフェストにも載らなかった。

他方、民主党は個々の議員による立法を事実上禁止する通達を、小沢一郎幹事長名で九月一八日に出した。民主党の法案はすべて政府提案、いわゆる閣法として出す、個々の議員は立法などせず、次の選挙に備えて政治活動に専念せよという趣旨の通達である。

立法府の面々に立法を禁ずるという尋常ならざるこの通達は、従来、多くの議員立法を行ってきた民主党の、闊達な議論を封殺するものだ。

こうした状況下の11月6日、山岡賢次国対委員長が、突然、自民党の川崎二郎国対委員長との会談で、現在の国会に外国人への参政権付与法案を議員立法で提出すると述べたのだ。

山岡氏は、党内に賛否の溝があるために、党議拘束をかけずにやるとの考えも示した。つまり、政府としての統一見解が出せないから、閣法でなく議員立法でやるというのである。なんというご都合主義か。

私は、そもそも、議員立法を禁ずること自体反対である。また、そのルールを例外的に破り、自分たちの通したい法案はなんとしてでも通すという独善主義にも反対である。
それでも、山岡氏は自信をうかがわせた。小沢チルドレンと呼ばれる1年生議員143人は、ほとんどが小沢、山岡ラインの指示に従って、参政権付与法案の支持に回るであろう。社民党、そして民主党、自民党のリベラル派を足せば、法案可決は可能だと確信している口振りだ。

民主党で外国人参政権に最も熱心な人物の一人、川上義博参院議員も9日、可決に向けての「自信はある」と述べている。

地方参政権というが、地方自治体は、原子力発電所や米軍基地などに代表されるように、国家政策の根幹にかかわる問題に直接関係している。地方選挙だからといって軽視は出来ない。

また、地方参政権付与の対象となる在日永住者のなかには金正日政権に忠実な朝鮮総連加盟者が多数存在し、中国共産党員もいる。韓国籍の永住者は韓国の参政権も保有しており、日本の参政権を得れば、日韓両国で政治に直接かかわる立場を得る。

民主党は、韓国が05年に外国人に地方参政権を認めたのであるから互恵主義で日本も同様にせよと主張する。だが、韓国で永住が認められるのは韓国人の配偶者やその子どもたちに限られ、永住在韓日本人は約300人にすぎない。特別永住資格を与えられた在日韓国人約40万人(朝鮮籍の人々を含めると約45万人)とは比較にならない。つまり、互恵主義は成り立たないのだ。

このような矛盾と問題を抱える法案だけに、反対論が続出し、山岡氏は現時点での法案提出を断念した。独善的手法で突っ走りかねない民主党の政権運営には、不安がいっぱいだ。

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「 善意で日本の力を殺ぐのか、民主党 」

『週刊新潮』 2009年11月19日号
日本ルネッサンス 第第387回


先週の小欄でも詳述したが、鳩山由紀夫首相は事前に内容を詰めることもなくCO2排出を1990年比で2020年までに25%削減するという、空前の政策を国連で発表した。

同案作成の中心人物だった参議院議員の福山哲郎外務副大臣は「Voice」12月号に、「政権交代によって、政策決定の在り方も180度変わった」として、以下のように書いた。

「もはや、『やれるか、やれないか』『やれるものをやろう』で政策を決めるのではない。『これをやる』という政治の意思を示し、そのために行ないうる政策を総動員する方向へと、舵は切られたのだ」

福山氏は、麻生太郎前首相の打ち出した05年比15%削減案は「あまりに中途半端」「説得力がない」「中国やインドなどに、新しい枠組みに参加しない理由を与えているも同じ」と手厳しいが、果たしてそうか。

たしかに民主党の25%削減案は「中途半端」ではない。異常なほど突出している。だが、同案は麻生案より余程「説得力がない」。民主党自身、25%の根拠もその実現策も未だ示し得ていない。また、福山氏は麻生案では中国やインドの参加が得られないと言うが、鳩山首相が国連で衝撃の25%目標を打ち上げても、米中もインドも乗ってこなかった。逆に、先進国に40%削減を求めてきた中国は日本に倣って削減にコミットするより、さらなる援助を求めた。

私も関わっているシンクタンク「国家基本問題研究所」で10月20日、民主党案についての研究会を開いた。同案の日本経済への影響について、経団連環境安全委員会委員長の坂根正弘氏は語った。

「日本は世界のGDPの8%を占める一方、CO2排出では4%です。どの業界も多分、(省エネにおいては)自分たちが世界一だと自負している。もし世界一でないなら、潔くペナルティを払うと、皆、言うと思います」



月餅を降らせているのは日本


世界一の自負があればこそ、従来の自民党政府の、そしてこれからの民主党政府の、日本がCO2削減目標値を達成出来ない場合に払うペナルティには納得いかないというのだ。
「先に経団連は05年比4%削減案を発表して批判されました。この数字は、欧米諸国が13乃至14%削減案を出し、それに必要な費用と同じ削減費用を日本がかけるとしたら、4%に相当するということで打ち出したのです」

坂根氏が語ったのは限界削減費用、追加的にCO2を1トン削るのに必要な費用のことだ。省エネが進んでいる企業や国ほど同費用は高くなるのであり、現在、限界削減費用は、全世界で日本が断トツに高い。

21世紀政策研究所が興味深い試算を行った。限界削減費用の算出には、削減目標値、基準年などの要素が関ってくるが、各国が掲げる目標値を基に計算すると、1トンのCO2を削減するのに、EUは54ドルかかる。カナダ65ドル、豪州25ドル、米国16~30ドルに対して、麻生政権の05年比15%削減なら、150ドルだった。鳩山首相の90年比25%なら、なんと、621ドル~1,071ドルに跳ね上がる。

日本は京都議定書で公約した6%削減を国内では達成出来ず、排出権取引で排出枠を海外から購入した。つまり、日本の企業が外国企業に最新鋭の技術を提供し、そこで生じた排出量の減少分をその外国企業なり政府が排出権として確保し、それを日本政府が税金で購入したのだ。

自民党政権は06~08年の3年間で26件の排出権取引を実施、内19件が中国相手だった。日本の技術による設備更新と金銭的メリットを当然の権利であるが如く享受するのが、中国にとって通常のパターンになっているのだ。待っていれば月餅が空から降ってくると中国人はほほ笑む。月餅を降らせているのは日本である。

排出権を購入してきたのは政府だけではない。経済界も同様だ。これまでに電力、鉄鋼業界を中心に日本の産業界は京都議定書の6%達成のために排出枠を購入してきた。支払額は1兆円に達すると経団連はいう。

「我々には京都議定書のトラウマがあります。結局、米国も中国も参加せず、EUは自分たちに有利な1990年が基準だと主張し、日本はこの日本に不利な条件を呑んだ。結果、世界一の燃費効率を血の滲む努力で達成した我々が非難される事態となった。なぜこうなるのか……。鳩山さんは高い目標を掲げて日本が世界をリードすると仰る。全世界の4割強のCO2を排出する米中は本当にその高い目標についてくるのか。私は本当に心配しています」

福山氏は前述の記事で、「『各国が賞賛』といった評価を受けたのは今回の鳩山発言が初めてである」と胸を張った。確かに各国は賞賛した。だが、そこには人類社会の理想を共に目指そうとの前向きの賞賛とともに、「もっと大量の月餅を日本が世界にバラ撒くことになる」と、ほくそ笑みつつ捧げた賞賛もあることを知らねばならない。そこが解らなければ、あまりにも外交音痴である。


日本が一人負けをする

坂根氏は鳩山首相の「政治主導」で、このままCO2削減が実施されれば、鉄鋼のような基幹産業は日本に立地出来なくなると警告する。
「鉄や化学は生産段階のCO2比率が大きい割に、対価がもらいにくい。新日鐵がもの凄いコストをかけてCO2を減らして作った鉄でも、鉄は鉄です。小松やトヨタが高く買うかと言えば、そうはならず、安い外国の鉄を買うでしょう。結果、日本の鉄鋼産業は成り立ちにくくなります。

一方、鉄を買った製造業、たとえば私の会社である小松製作所の場合、一台の建設機械によって生ずるCO2のうち、鉄やゴムなどの素材段階で4%、会社で機械を製造するのに4%、残りの92%は機械のユーザーが燃料などで排出します。したがって、素材や製造段階の4%ずつを締め上げて削るよりも、92%分を如何に効率よく削るかという発想が大事です」

こう言うと、産業界は抵抗勢力のように非難されるが、決してそうではないと氏は強調する。産業界の提案は産業毎のモデル作りである。

「産業毎に最新モデルを出して、情報開示をし、各国のレベルをそこまで上げる。相当難しい課題ですが、我々は我々の技術への正当な評価を得たうえでそれらを提供し、全世界のCO2を削減しようと考え、ある時期まで、極めて真面目にこのセクター別アプローチで世界を引っ張ってきた。ところが、ここにきて鳩山さんの政治主導で完全に違う方向に向かってしまった。非常に残念です」

民主党案の25%削減で日本が一人負けをする自縄自縛に陥りかねない。日本の技術を生かしてビジネスチャンスにつなげるためにも、民主党は世界への愛に加えて、もっと日本の国益を考えよ。真面目に産業界の主張にも耳を傾けることだ。

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「 日米首脳は中国に対して現実よりも理想を見がちだ 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年11月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 813



21世紀の残りの90年間、日本人の運命は台頭した中国の脅威をどうかわすかによって決まる。大事なことは、日本がその脅威を認識し、備えることである。

明らかに鳩山政権には、中国の脅威への認識が欠けている。そこから生まれてきたのが「東シナ海を友好の海にする」「東アジア共同体をつくる」などの発想だ。理想のなかで現実を見失っている鳩山由紀夫首相の対中外交は、米国のオバマ大統領の、これまた理想外交と重なって、負の相乗効果を生み出していきかねない。

たとえば、オバマ大統領が提唱した「核のない世界」への道である。大統領は、(1)戦略核兵器の配備数をこれまでの千単位から百単位に削減、(2)戦略核の予想使用範囲を狭め、(3)将来の核の信頼性確保のための実験や新たな開発を行わない、を打ち出した。

核の力による抑止効果を担保するという従来の戦略から、超大国の米国が率先垂範して大胆な軍縮を断行することで、地球上の核拡散を阻止する戦略への転換である。

ミリバンド英国外相が語ったように、オバマ戦略がうまくいけば、「地球社会の安全性は高まり、核のない世界が実現し、地球温暖化の前に、人類は(原子力発電という)安全かつ信頼性の高いエネルギー源を確保しやすくなる」。しかし、失敗すれば、「人類は核拡散と、テロリストが核兵器を手にするという背筋の寒くなる現実に向き合わなければならなくなる」。

事実、米国もロシアもヨーロッパ諸国も、イランの核開発を止めることはいまだ、できていない。また、オバマ大統領はロシアには核軍縮を呼びかけたが、中国の核については取り立てて発言していない。

米国大統領もまた、日本の首相同様、中国に対しては現実よりも理想を見がちだと言わざるをえない。核軍縮はしかし、現実の国際政治のなかでどのように進展するのかは、見通しが立っていないのであるから、今、中国の核兵器に言及しないからといって、ただちに影響が出るわけではない。大統領自身、核軍縮も核のない世界の実現も、遠い遠い目標だと認めている。それだけに、中国の核について言及しないことは、中国の経済協力を死活的に必要とする米国の、不必要な摩擦を避けるという意味での戦略でもあろう。

だが、次世代戦闘機F22ラプターの生産中止と対日輸出の拒否は、あと10年、15年のうちに深刻な影響を及ぼしかねないきわめて現実的な問題だ。

第五世代の戦闘機F22は、中国が開発中の彼らの第五世代の戦闘機に対処出来る唯一の現存する戦闘機である。米国は日本に、いつ開発が終わり実戦配備出来るのか未定のF35を薦めるが、その間に、中国は第五世代の戦闘機とともに、現在保有している第四世代の戦闘機の改良型を作りつつある。第四世代と第五世代の中間タイプである。

中間タイプが完成すれば、日本は完全に中国に制空権を握られ、日本の安全保障は危機に直面する。日本が自らの安全のために取りうる措置として、米国の核抑止力をより確かなものにするか、究極的に日本自身の顕著な軍事力の整備に踏み込むことが考えられる。この点は、国内議論を重ねなければならないが、懸念すべきは、なぜ、オバマ大統領がF22の生産中止、対日輸出拒否という結論を出したかである。

ゲーツ国防長官は今年7月、こう述べている。

「2020年までに米国空軍は約1,100機のF22およびF35を備え、最強の空軍であり続ける。対照的に中国は20年にはいまだ第五世代戦闘機の開発に至らず、米中の軍事力の差は現在よりも拡大すると予測される」

こうした見通しが大統領の軍縮およびF22生産中止を後押ししたと見られる。私には、日米両国が中国の脅威を過小評価している気がしてならない。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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