「 偽りの微笑、ヒラリー来日の真実 」
『週刊新潮』 2009年3月12日号
日本ルネッサンス 第353回
日本国がザブザブと沈んでいく音が聞こえるようだ。オバマ政権の下で米国の対日政策が歴史的な大変化を遂げていることに、麻生太郎首相や小沢一郎民主党代表は気づいているだろうか。米国は日本に笑顔の下に冷たく厳しい監視を包み込んだ視線を送り、中国には熱い期待と戦略的パートナーとしての信頼を寄せる。
日本を最初の訪問国に選んだヒラリー・クリントン国務長官は2月16日、羽田に着いた時から笑顔を振りまいた。日本は、アジアにおける「要石」だと持ち上げた。麻生首相には、ホワイトハウスを訪れる初めての外国首脳として招待したいとの“お土産”を与えた。
首相は喜んで招待を受け、中曽根弘文外相はクリントン長官に、“初めての訪問先”に日本を選んだことについて、感謝の挨拶をした。多くのメディアはクリントン長官の言葉を“米国の対日重視”と額面どおりに報じた。
果たして米国外交は日本重視か。一連の日本の反応を、当のオバマ政権は苦笑で見ているのではないか。
クリントン長官のブレインで、いま、同長官に最も強い影響力を及ぼすといわれるのがマデリーン・オルブライト元国務長官である。彼女はビル・クリントン氏の政権で国務長官を務め、同政権の末期の2000年10月、金正日を平壌に訪ね、成果を得られず空しく帰国した人物だ。北朝鮮外交では失敗したが、民主党政権への彼女の影響力は強い。オルブライト氏の近著、『次期大統領への覚書』を読むと、クリントン長官がアジア歴訪に当たって氏の助言を忠実に実行したことを実感する。
第10章「アジアの世紀における米国の地位」には、日本、朝鮮半島、中国に対して、オバマ政権がとるべき基本姿勢と政策が明記されている。オバマ大統領の価値観と重なる氏の『覚書』は、少なくとも、向う4年間、米国のアジア政策の潮流を予言するものと考えてよいだろう。
日本の手足を縛れ
氏は、米国がアジア政策で成功の果実を得るには、「指導しようと試みてはならない。友好的なレフェリーとなれ」と主張する。
「利点は、プレーヤーに至近距離から(監視の)目を光らす立場に立てることだ」というのだ。日本関連での記述には冷笑と警戒心が目立つ。
「東アジアを最初に訪問するとき、中国を最優先しがちだが、まず、トーキョーを訪問せよ」
「米国の信頼出来る友人であるが、日本は近隣諸国と折り合いが悪いために、米国との密接な関係を重要視する」からだという。
元国務長官はこうも書く。
「本来なら日本はとうの昔に国連安保理の常任理事国に就任していてよいはずだが、第二次世界大戦時の日本の残虐非道の犠牲者である中国に阻まれてきた」
「日本の残虐非道」について、彼女がどれだけ正確な知識を持つのかは不明だが、歴史観において、氏が中国の主張に染まっているのは明らかだ。日本を悪と見做す氏の価値観は、対日安全保障政策にも影響を及ぼしている。
「念頭に置くべき問いは、日本がより有力でより存在感のある軍事国家になるよう奨励すべきか否かである」「東アジアの安定維持のための、手強い同盟国となり得る技術力と資金が日本にはある。一方、国際社会への責任を負う米国は、日本の助力を利用出来る。一部とはいえ、日本人は戦後の枠組みを打ち破り、自由になりたいと主張する」
このように事実を列記したうえで、氏は、「なぜ我々は、日本が新憲法を定め、近代的な軍事国家へと発展していくことを歓迎してはならないのか」と問い、自ら答えを導き出してみせる。氏はざっと次のように並べた。
①アジア太平洋における米軍の力は圧倒的で、中国とて較べるべくもない。②米軍は、アジアにおいて日本を守る力だが、それはまた、日本を拘束する力としても評価されている。③日本への軍事的抑制を緩めれば、中国が尚一層の軍事力強化を急ぎ、南北朝鮮は中国に接近する。④それにもまして、日本の軍事的独立が米国の国益に沿うものであるとは考えられない。
したがって、日本には憲法改正もさせずに、自衛隊の手足を縛ったままにしておくのがよいという論法だ。いまやアジア諸国は、日本も含めて、中国の軍事的脅威に晒されているが、オルブライト氏はそんな現実を殆ど理解しない。自衛隊を縛る種々の制約が、日本の安全保障のみならず、米国の安全保障にもどれだけの不都合を生じさせているかなど、まったく気づいていない浅薄な分析である。
中国中心主義の氏は、日本の安全保障上のひとり立ちを望まず、未来永劫、米軍が頭を押さえておくのがよいと考えるわけだ。日米は同等ではないと考えているのだ。
日本の政治家は退屈だ
氏は、ある外交官の体験を借りる形で日本を酷評する。「概して日本の政治家は非常に退屈だ。夕食の席ではフォークをお尻に突き刺しでもしなければ、居眠りしそうなほどだ」と。そして日本に関してこう締めくくった。
「(日本訪問では)必ず、笑顔で到着し、お土産を携え、ポケットにフォークをしのばせて行け」
改めてクリントン長官の訪日を振りかえってみよう。ヒラリーは最初から最後まで笑顔で通した。手土産は首相へのホワイトハウス一番乗りの切符だった。首相、外相、小沢代表との一連の会談の成果は無きに等しかった。さぞかし、心にフォークを突き立てていたことだろう。
米国外交に詳しい田久保忠衛氏が喝破した。
「誰の仕掛けか、メディアは、クリントン長官の訪日を一斉に米国の対日重視と報じましたが中身はありません。わずかに中曽根外相との会談で沖縄の海兵隊のグアムへの移転が正式に合意されただけです。一方、麻生首相のホワイトハウスでの会談は通訳込みで1時間余、異例の短さです。昼食会も記者会見もなく、話題にもなりませんでした」
田久保氏は、日米会談の内容の稀薄さは、米中会談と較べると、なお際立つと指摘する。
「中国でクリントン長官は、ブッシュ政権時代に設置した米中戦略経済対話を、経済に限定せず、安全保障、政治、地球環境など、世界の重要課題について包括的な枠組みを形成するための戦略対話に格上げすることで合意しました。日本とは政策を語り、中国とは大戦略を語り合う。この差は、埋め難く深刻で、日本は完全に脱落したと思います」
戦後60年余り、国家の基盤を捨て去ってきたことが、現状を生み出した。自民、民主両党の責任ある政治家たちは、いまこそ日本をまともな国家に立て直すための行動に踏み出さなければならない。
3/16 櫻井よしこ
18年ぶり。
4/3ごろ発売の著書「明治人の姿」のポスター持参。
お土産は、庭で採れたしいたけでした。
古田敦也さんからのメッセージ。…
トラックバック by 笑っていいとも!のテレフォンショッキングのゲストの似顔絵の輪!あっ、輪!ブログ — 2009年03月16日 16:27
[…] ne does not need to go back in time to find conservatives making this argument: Sakurai Yoshiko, in an article in the March 12 issue of Shukan Shincho, takes the benign out of benign neglect from the Obama administration, and argues that the new admi […]
ピンバック by The LDP finds something to agree on | East Asia Forum — 2009年03月20日 14:01