「 税金を私物化し利権を離さない特殊・公益法人のあきれた実態 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年9月1日号
オピニオン縦横無尽 第410回
過日、元ヤマト運輸社長の小倉昌男氏と語り合った時のことだ。
『日本のブラックホール 特殊法人を潰せ』という本をまとめたばかりの私に、小倉氏は全国に26,000もある公益法人の“悪”について語った。周知のように、氏は旧運輸省や旧郵政省と“烈しく”戦ってきた人である。その戦いは、いつもきわめて大胆かつ緻密である。
公益法人に関して、氏はひとつひとつ調べたのだ。とはいっても26,000すべてではなく、運輸省所管分である。『運輸省関係公益法人便覧』には841法人が掲載されている。そのひとつひとつについて、予算、職員数、事業内容などを見ていかれたそうだ。
「明らかに天下り役人を食わせるためだけの公益法人が少なからずあるのです」と小倉氏。
『便覧』をパラパラと見るだけで、小倉氏の指摘した「役人を食わせるだけ」の公益法人はいくつも見つかった。2000年度版をめくり、小倉氏が言う。
「関東小型船舶工業会は予算八819万円、ちょうど1人分の給料ですね。石川県自家用自動車協会は、予算1013万5千円で、職員はゼロ。つまり予算は常勤役員の吉田某氏の給料分なのです」
こんな漫画のような公益法人、否、私益法人のなんと多いことか。
さてこの種の私益法人の役員はすべて天下り役人である。小倉氏が語る。
「トラック協会など、ひどいものです。彼らは多くの天下り役人を役員に据えて、税金のキックバックを受けているのです」
税のキックバックなど初めて聞く話だ。要はこういうことである。
1976年に軽油取引税が30%引き上げられたとき、引上げ幅の半分をバスおよび営業トラックに限り2年間の時限措置で軽減することになった。
具体的にどうやって税を払い戻すのか。軽油取引税は地方税であるから、各県がその県のトラック協会に補助金のかたちで払い戻すのだ。そのおカネの70%は地方のトラック協会、30%が全国トラック協会に配分される。
普通、補助金は事業計画が先にあって審議の結果、交付されるが、トラック協会の場合、まず初めに補助金が来る。彼らは使い道をそれから考えるのだ。つまり、かたちは補助金でも、これはやはり、税金の割戻しなのだ。
なんのためにこんなことをするのか。名目は「輸送力の確保と輸送コストの上昇の抑制に資するため」だ。だが、割り戻された税金はトラック協会に入るのみで、業者に戻るわけではない。
全国トラック協会の場合、このおカネを貨物自動車運送事業振興センターに寄付したりする。同センターは、これで全国にトラックセンターを建設したりしている。そのほかに全ト協は多額の基金を積み立ててもいる。各種行っている事業(一般事業や広報事業)には潤沢な委託費が付けられている。
そしてもうひとつ目を引くのは、前期繰越金である。少し古いが92年度で67億円もある。補助金に前期からの繰越しがあるなどという馬鹿なことがあってよいのか。そんな余裕のある団体に、なぜ補助金を交付するのか。小倉氏の集計によると、税金のキックバックとして全国のトラック協会に与えられた総額は92年度末で2465億円に上る。
読者の皆さまはすでに気づいたはずだ。この割戻しは2年間の時限措置だったはずなのに?と。たしかに当初、そういう条件で始まったこの利権の措置はなんと、25年後の今も、続いているのだ。そして各トラック協会には多くの天下りがぶら下がっている。補助金は協会と役人のためにあり、業者のためになどなってはいない。
利権と自己利益の塊が、特殊法人と、公益法人だ。卑しく憎き者どもだ。