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2020.03.12 (木)

「 ウイルス・経済・外交、行き詰まった習近平 」

『週刊新潮』 2020年3月12日
日本ルネッサンス 第892回

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。

2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。

26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。

「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。

27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。

一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。

無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。

走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。

日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。

「ザーサイ指数」

武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。

同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。

少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。

中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。

中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。

そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。

しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。

「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」

中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。

「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」

人民の政府への怒り

最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。

こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。

今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。

中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。

中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。

米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。

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