「 脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ 」
『週刊新潮』 2019年7月25日号
日本ルネッサンス 第861回
7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出審査の厳格化が内容だ。
これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受けさせることになった。
「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみて「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易するというだけのことだ。
安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたうワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。
「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくという義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであり、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」
国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏がFNNPRIMEで指摘した。
「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そのうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」
氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象となる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出されていた。
北朝鮮のために
不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べたように、文政権は話し合いに応じていない。
ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾晳(イム・ジョンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程でアラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからない怪しい訪問だった。
それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではないかと疑うものだ。
現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対して完全に無防備だ。
韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんである。
韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向かい、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守るのか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなされた。
米国に頼れない状況
6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃されれば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要がない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平等だ」とも言った。
現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考えられない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。
トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかない。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応えなくてはならない。
さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。
7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕されそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向けて警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカン」を中東に派遣した。
この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国から「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。
朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守らなければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけに頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの選挙で問うべきであろう。