「 選挙を前に激化する、朝日の安倍批判 」
『週刊新潮』 2019年7月18日号
日本ルネッサンス 第860回
7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して安倍晋三首相を次のように批判した。
「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろす。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってきた」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、という内容だ。
安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もうとした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主党も生れた。
民主党政権時代の「悪夢」の再来は嫌だと、国民が骨身に沁みて感じているからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたのである。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余りに曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。
どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決まるからだ。
憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積している。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながっていると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。
首相を犬にたとえる
同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛けた貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつなげている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。
「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主からとくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちらに近いか」
安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対しても許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見下」す視線ではないか。
右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。
「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」
朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡ってレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するのである。
順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したのが7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出審査を行う、とした。
世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容については「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。
経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化していた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるというものだ。
理不尽な政府批判
安倍首相も繰り返し述べている。
「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただけです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEUと同様の政策を韓国に対してとるということです」
こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、7日時点ではまだ説明していない。
他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道 THE PRIME」)。
軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいのは、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が的外れだ。
朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないのである。
朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということだろう。