「中国の脅威を見つめよ、自衛隊」
『週刊新潮』’08年10月9日号
日本ルネッサンス 第332回
中国の軍事戦略の基本を表わすものに、鄧小平の「24字戦略」がある。4文字の成句を6個連ねた文字どおりの24文字の訓示で、鄧小平は命じている。
「冷静に観察せよ、己れの立場を固めよ、冷静に対処せよ、能力を隠し好機を待て、控えめな姿勢を得手とせよ、突出した地位を求めるな」
およそ戦いに勝つための要諦がここに含まれている。強さは、それを見せても支障のない水準に達するまでは、決して誇示してはならない、相手に悟らせてはならない。相手が警戒心を抱く前に、どの国も抗し得ないだけの力を身につけてしまえ。そのとき、勝利の果実は確実に中国のものとなるというわけだ。
9月25日、当初10月だった予定を早めて、中国は有人宇宙船「神舟7号」を打ち上げた。27日には中国初の船外活動も行った。有人宇宙計画は92年に発表され、以来着実に進み、2020年までに独自の宇宙ステーション建設を目指す。
彼らの宇宙開発は軍事と表裏一体である。中国の軍事力分析の第一人者、平松茂雄氏が指摘した。
「中国は07年10月に、新たな衛星観測艦、遠望5号を就航させました。宇宙船を誘導し、軌道上に保ち、情報収集の中継基地となるのが衛星観測艦です。米国は世界各地の基地でこれを行いますが、中国は基地を持っているわけではありませんから、艦船を使います。遠望1号は早くも70年代に造られました。中国は5号艦に続けて6号艦も予定しています。今回恐らく、南太平洋、北太平洋、インド洋、大西洋の全海域に遠望を派遣したはずです。
中国は、宇宙開発とそれに整合する海軍力の増強を70年代から30余年間継続してきました。その軍事力の日本への脅威は極めて深刻ですが、日本の弛緩した空気、特に、海上自衛隊の現状は寒心に堪えません」
潜望鏡と鯨の尾
海自に関して抱く直近の疑問は9月14日、イージス艦「あたご」が発見した「潜水艦らしきもの」を見失った事件だ。
報道によると、14日午前6時56分、高知県足摺岬沖の豊後水道周辺の日本領海内で、潜水艦の潜望鏡らしきものを、あたごが発見した。あたごはソナーによる捜索を続け、P3C哨戒機や護衛艦なども出動させたが、1時間半後に見失った。
発見水域は日本領海内に7キロも入り込んだ地点である。外国の潜水艦が領海内を航行する際は浮上しなければならない。浮上せず潜望鏡で周辺を窺いながらの航行は国際法違反の情報収集活動であり、意図的な領海侵犯だ。それを追尾しきれずに見失ったのは大失態である。
その後、あれは潜望鏡ではなく、鯨の尾だったのではないかなどという弁明が流された。つまり見間違いだった可能性があるというのだ。
鯨の尾ヒレだとして、鯨が海面上に尾ヒレを出せば、周辺に波が立つ。尾を立てて潜ったのであれば、大波が立ち、しぶきも飛び散る。あたごはそのような光景を目撃したのか。潜望鏡らしきもの発見との見張りの情報は、艦長も望遠鏡で確認したのではなかったのか。それでも鯨の尾ヒレだと言うのなら、あたごの監視能力は一体どうなっているのか。
平松氏が強調する。
「厳しい見方かもしれませんが、自衛隊全体が、全体像を見る力、全体像に立脚して国防を担うという考え方や能力を失っているのではないでしょうか。個々の分野で、眼前のミッションを達成するだけでは、国防は果たせないのです」
たとえば、去年12月、海自は初めてミサイル防衛システムの基幹をなす海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の迎撃訓練に成功した。ハワイ沖での実射成功について、防衛省は「今回の成功は日米同盟関係の変革を現すもの」とまで、高く評価した。日本の安全を、事実上、一方的に米国に依存してきた従来の状況を一変させて、日本もまた米国の安全に直接寄与出来る立場に立ったとの主旨である。全体の一部を歯車として担うのではなく、日米同盟全般に目配りした動きが出来るという意味でもあろう。果たして海自は、ミサイル迎撃の技術的成功にとどまらず、どれだけ国防の責務を遂行し得ているだろうか。イージス艦という優れた船と装備を使いこなすだけでは足りないのが国防の任務である。
力をつけ続ける中国海軍
私は元来自衛隊に敬意を抱いてきたものだが、それでもおかしいと思う幾つかの事例がある。たとえば、あたごでは、漁船との衝突事故を機に、見張りが不十分だったとして、見張りに、24時間体制で監視カメラがついたそうだ。監視されているから見張りの役割がきちんと果たされるということではないだろう。むしろ、国防はどうあるべきか、海自の隊員としてどう取り組むのかという根本を徹底することが、本来の見張りの責任を果たすことにつながるはずだ。
究極の場合、生死を賭して戦う軍人として、如何に任務を遂行するのか。国民、国土、領海を守る海自の最先端の現場で、隊員は如何に己れの責務を果たすのか。こうした基本を学んではじめて、役割が果たせるはずだ。自衛隊は民間のガードとは異なるのだ。国防の任についているのだ。監視カメラの発想には、どうしても馴染めない。
想起するのは04年11月、中国の原子力潜水艦が沖縄の先島諸島周辺の領海を侵犯したときのことだ。海自は2日間にわたって追尾し、ソナーを投下し続けたが、彼らは一度も浮上することなく、逃げおおせた。海自は一度も中国の原潜を目視出来なかったが、自らの追尾能力の高さを強調し、中国原潜恐るるに足らずとした。
2年後の06年11月、沖縄沖で訓練中の米空母キティーホークの8キロ地点まで、中国の潜水艦が接近し、急浮上した。ミサイル攻撃で空母に甚大な被害を与えられる距離まで、気づかれることなく接近する能力を中国海軍は身につけたわけだ。
さらに2年後の今年、海自は最新鋭の装備を以てしても、中国海軍の潜水艦と思しきものを追尾することさえ出来なかった可能性が強い。彼らは鄧小平の教えのように、力不足を装いながら、力をつけたのだ。
その中国に、米国が同盟国や自陣営の国々の利益を損ねても配慮する兆候が見てとれる。一例が台湾問題だ。国民党の馬英九政権は、前任の陳水扁政権当時は反対し続けた米国からの武器装備の購入を予算化した。これまで台湾に武器購入を迫ってきた米国がいま、売却を止めている。中国への配慮ゆえだと見られており、米中接近の、ひとつの明白な証しである。 力をつけ続ける中国と中国に傾斜する米国との間にあって、日本の自衛隊は文字どおり一騎当千の働きをしなければならない。海自にその気概はあるか。否、政治に、現状の厳しさについての認識はあるか。
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前回から動画をご紹介する予定をお伝えしておりましたが、
2ちゃんねる大規模OFF板を閲覧しておりますとダライラマさん来日
ということでフリーチベット関連イベントが目白押…
トラックバック by 帝国ブログ — 2008年10月15日 02:51