「政治の何たるかを知る真の政治家はいないのか」
『週刊ダイヤモンド』 2008年9月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 755
福田康夫首相の突然の辞任で二本の記事が頭に浮かんだ。
一つは「月刊現代」8月号に堺屋太一氏が書いた「二代目の研究」である。8月1日発行であるから、当然、堺屋氏は脱稿の時点で福田首相の辞任など想定しておられない。同記事で氏は二世、つまり世襲が最も目立つのは、お寺さんと医療機関の経営者だとしたうえで、政界、芸能界に二世人材の占める率の高さを論じている。
政界の数字を以下にざっと拾ってみる。二世議員の増加は1980年代から顕著となり、衆議院議員を例にとれば、72年には61人で全体の12.4%だったのが、80年には101人で19.8%、86年には121人で23.6%、93年には135人で26.4%と、時代を下るにつれて増加してきたのがわかる。
この傾向は21世紀に入ってさらに強まり、2003年の選挙では142人が二世議員で29.6%に達した。05年の選挙で少し減ったが、それでも134人で27.9%を占めた。
親が地方自治体の首長や議員だったなど、二世の定義を広げれば、05年に当選した衆議院議員のじつに171人、35.6%が二世だというのだ。衆議院議員が10人集まれば、3人ないし4人が二世議員なわけだ。
以上は別段新しい内容ではない。日本の政界での二世議員の多さはつとに指摘されてきた。堺屋氏の指摘で新鮮なのは、閣僚に占める二世議員の比率の高さである。70年代から80年代前半においては約20%の水準だったのが、80年代半ばの第三次中曽根内閣で3割水準に上昇、今世紀の小泉純一郎氏の第二次内閣でなんと5割を超え、第三次小泉内閣では6割を超えた。安倍内閣で3割台に減ったが、福田内閣でまたもや5割を超えた。政界に新しい人材が必要なのは明らかだ。
他方、実力が厳しく問われるスポーツや囲碁、将棋の世界では二世の成功者は少ないと、堺屋氏は指摘する。
ここで私はもう一つの文章を想起する。分子生物学者で『生物と無生物のあいだ』(講談社)を物した福岡伸一氏が「日本経済新聞」のコラム「あすへの課題」に「10000時間」の題で書いたものだ。
スポーツ、芸術、技能、どんな分野でも「圧倒的な力量を誇示するプロフェッショナル」が存在する、それらの人びとはほぼ例外なく「ある特殊な時間を共有している」と福岡氏は言う。それが10,000時間である。
「例外なく」幼いときから、そのことだけに集中して努力を続けて10,000時間、つまり1日3時間の練習や稽古、鍛錬、研究、学習を、毎日、1年間続けて1,000時間。10年で10,000時間。
イチロー氏も松井秀喜氏も、小柴昌俊氏も松井孝典氏も、小澤征爾氏も五嶋みどりさんも、諏訪内晶子さんも内田光子さんも、皆、この10,000時間を共有しているのであろう。
翻って、政界に、この種の10,000時間を持つ人はいるのだろうか。専門分野はなんでもよい。財政、防衛、日米関係、日中関係、道路、医療……。日本の未来と国民の暮らしの安寧を守るために、圧倒的な知識とそのことについての素養を持ち、官僚に頼ることなく情勢の基本を理解し、方向性を打ち出しうる人材はいるのか。
政治は説得であること、言葉に魂を吹き込み、動かしがたい岩をも動かしていかなければならない職業だ。困難を承知で、ここぞというとき、命懸けで前進し続けなければならないと、肝に銘じている人材はいるのだろうか。政治は足して二で割る調整などではないと自らに言い聞かせ、難局に立ち向かい続ける覚悟を持つ人物はいるのか。
いないのだろう。いてもまだ眠っているのだろう。だからこそ、たった1年前、あの福田氏を八派閥揃って支持したのだろう。
突き詰めれば、開くもの…
【櫻井よしこ エッセイ】 週刊ダイヤモンド 2008/09/13 05年衆議院議…
トラックバック by 正直者がバカを見てはいけない — 2008年09月16日 08:50
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(約束を反故にして大丈夫か慎重を期すため外務省に聞いただけだ…
トラックバック by 帝国ブログ — 2008年09月18日 18:24
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観察 皆の前で、「道理」を説けない政治家は、 政治家と言えるのだろうか。 考察 道理とは、そこに集まっている皆も居れば、 日本国全体の皆が、ほぼ納得できる事、 即ち、「…
トラックバック by phrase monsters — 2008年09月28日 23:19