「 米中対立は中長期にわたり本格化する 日米の連携を一層強めていくのがよい 」
週刊ダイヤモンド 2018年10月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1252
米国が遂に中国の本性に気づいた──。10月4日、マイク・ペンス米副大統領が有力シンクタンク「ハドソン研究所」で行った演説のメッセージがこれだった。
米国の「覚醒」は遅すぎるとも思えるが、それでも彼らが中国の長期的国家戦略の意図を正しく認識するのは日本にとって歓迎すべきことだ。
ペンス氏は約1時間、およそ全分野にわたって中国批判を展開した。不公正貿易、知的財産の窃盗、弱小国への債務の罠、狡猾な米中間選挙への介入、豊富な資金による米言論機関、シンクタンク、大学、研究者への影響力行使、米国世論を動かす中国メディアの一方的情報、さらに、南シナ海、インド洋、太平洋での軍事的席巻など、ペンス氏は果てしなく具体例を挙げた。
諸外国だけでなく自国民にも苛烈な圧力を中国共産党は加え2020年までにジョージ・オーウェル的社会の実現を目論んでいるとも非難した。
この一連の異常な中国の行動を見逃す時代はもはや終わりだと、トランプ政権の決意を、ペンス氏は語ったのだ。米国はいまや対中新冷戦に突入したと考えてよいだろう。
とりわけ印象深いのは、演説でペンス氏がマイケル・ピルズベリーという名前に二度、言及したことだ。現在ハドソン研究所の中国戦略センター所長を務めるピルズベリー氏は1969年、大学院生のときにCIA(米中央情報局)にスカウトされ、以来、CIA要員として中国問題に関わってきた。
親中派の中の親中派を自任する氏は三年前、ベストセラーとなった『China 2049』を書いて、自分は中国に騙されていたと告白し、氏がそのほぼ一生を費やして研究した中国人の考え方を詳述した。中国人は、米国を横暴な暴君ととらえ、中国の最終決戦の相手だと認識しているが、米国はそのことをほとんど理解しておらず、むしろ中国は米国のような国になりたいと憧れていると勝手に思い込み、結果として騙され続けてきたというのだ。
一例として氏は米中接近の事例を示している。私たちは、米中接近はニクソン大統領が旧ソ連を孤立させるために中国を取り込んだ大戦略だと理解してきた。しかしピルズベリー氏の見方は異なる。60年代末に中国は国境を巡ってソ連と対立、新疆国境でソ連軍と大規模な衝突を起こした。軍のタカ派の元帥らはソ連に対して米国カードを使うべきだ、台湾問題を不問にしても米国に接近すべきだと毛沢東に進言、毛はそれを受け入れたという。
ニクソン大統領の訪中で、米中関係は劇的に改善されたが、それは中国が支援と保護を必要とする無力な嘆願者を装い、武器装備をはじめ、中国が対立していたインドやソ連の情報まで、世界が驚く程の貴重な支援を米国から手に入れた構図だったと、ピルズベリー氏は明かしている。
明らかに中国は米国の力を借りて力をつけた。それは彼らが日本から膨大な額のODA(政府開発援助)をせしめ、鉄鋼をはじめとする基幹産業技術を移転してもらって力をつけたのと同じ構図だ。
ピルズベリー氏はさらに中ソ関係も分析した。中国はソ連に対しても米国に対するのと同様に弱い国を演じて最大限の援助を受け、力をつけ、最終的に米国の側につくことでソ連と訣別し、ソ連を潰したというのだ。
そしていま、中国は米国に対しても覇権を目指す意図を隠さなくなった。米国がもはや太刀打ちできないところまで、状況は中国有利に変化したと中国が判断した結果だというのだ。ペンス氏もそのピルズベリー氏の分析を共有しているのであろう。それがハドソン研究所でのスピーチではないか。米中の対立は中・長期にわたり本格化していくと考えるひとつの理由である。導き出される結論は日米連携を一層強めるのが日本の国益だということだ。