「 韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち出すのか 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218
韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任した。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」として報じた。
朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、金氏に会った。
氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴氏を訪ねたという。
「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」
周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持された。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の下では考えられない事態が起きていると、訴える。
その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追するという主旨が記されているそうだ。
朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。
「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められています。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追すると主張する。法治国家ではありません」
金氏が補充した。
「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所のそれも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行されたのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の結果を承認する判決だったと、書かれているのです」
ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソクデモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのことだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領のときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。
「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反したか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写している。一連の行為は革命なのです」
では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はできないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そのプロセスから明らかだ。
司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。
「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続けるには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあるときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮の法律を持ち出すのか、重大な問いです」
韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。