「 北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り方問われる日本 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204
朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。
「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジに多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどうか。洪氏が語る。
「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果として、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェンジが必要なのです」
北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍事作戦の準備を進めつつあることだ。
軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。
ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。
朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。
「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒否する可能性があります」
文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だが、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮ではないかと思わせる。
そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。西岡氏が続けた。
「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合うことになるかもしれません」
中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。
北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来なら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と共に戦うことは不可能だ。
かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないのである。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。