「 韓国が拘束、碑を書き換えた元自衛官 」
『週刊新潮』 2017年7月6日号
日本ルネッサンス 第760回
自分は慰安婦を強制連行した加害者だと名乗り出て、今日の慰安婦強制連行という虚偽を生み出す原因となったのが故吉田清治氏だ。吉田氏が韓国の国立墓地、望郷の丘に建立した謝罪碑を当局の許可なく書き換えたとして、韓国警察は6月25日、元自衛官の奥茂治氏(69)を逮捕し、出国禁止措置をとったうえで拘束を解いた。
奥氏は26日現在、ホテルに滞在しており、27日には忠清南道天安市の天安西北検察局に出頭する。
奥氏が吉田清治氏の長男の依頼を受けて碑文を書き換えた経緯は、6月1日号の当欄でも報じた。吉田氏は1983年12月に韓国人に向けて、「あなたは日本の侵略戦争のために徴用され強制連行されて(中略)貴い命を奪われました」、「私は徴用と強制連行を実行指揮した日本人の一人として(中略)謝罪いたします」と記した碑を建立した。
「朝日新聞」は、碑の除幕式で土下座する吉田氏の写真を掲載、「たった一人の謝罪」という見出しで報道した。「朝日」はその後も吉田氏の嘘を大々的に伝え続けたが、30年も過ぎた2014年8月に、吉田氏関連記事全ての取り消しに追いこまれた。
だが、朝日新聞の記事取り消しは日本国内に向けて発表されたにすぎず、韓国も世界もこれを殆ど知らない。吉田氏の長男は、父親の証言が朝日新聞によって正式に全面否定されたのであれば、そのことを内外に周知徹底させるのが筋だと考えた。第一歩が父親が偽りの文面を刻んで韓国に建てた碑の撤去だった。
長男は奥氏に実行を依頼し、奥氏は現場を下調べし、大きな大理石の碑の撤去は困難だと判断。両氏は相談のうえ、碑の文言を書き換えた。新しい碑には「慰霊碑 吉田雄兎 日本国 福岡」とだけ刻んだ。
碑の書き換え作業は3月21日午後11時から闇の中で決行され、翌日の午前3時に完了した。だが、韓国側は折角の碑文書き換えに一向に気づかない。そこで奥氏は4月5日付で望郷の丘の施設管理人に「碑文変更届」を郵送した。それで初めて書き換えに気づいた韓国の警察から出頭要請があったのが、同月半ばだ。
「堂々と出頭」
奥氏が語った。
「逃げ隠れするようなことはしません。元々、謝罪碑を書き換えたことを、韓国当局に手紙で知らせたのは私ですから。私は悪事は働いていませんので、堂々と出頭します」
奥氏は韓国警察にどういう理由の出頭かと、問うた。彼らは「国有財産の損壊罪と不法侵入だ」と答えたそうだ。だが、その理屈はおかしいと、奥氏は滞在先のホテルで語った。
「謝罪碑は吉田清治が私費で建立した。それがいつ、韓国の国有財産になったのか。手続きはきちんと取ったのか、見せてほしいと要求しました。すると彼らは管理権の問題だと言い始めました。とまれ、明日(27日)、検察に出頭します」
奥氏は天安西北の警察による事情聴取を受けたときの様子も語った。
「空港に着いた途端に手錠をかけられました。私は取り調べにも嘘偽りなく応じています。そのせいか彼らは紳士的に取り扱ってくれますが、吉田清治の言葉は皆嘘だということを、こちらの人は知らないのです。起訴されて裁判になれば、法廷で吉田証言はすべて嘘だった、朝日もそれを虚偽と認めて取り消したということを訴えたいと思います」
韓国で奥氏のニュースがどのように報じられたかは定かでない。日本では菅義偉官房長官が26日の会見で奥氏逮捕に触れて、「韓国側における司法手続きを見守りたい」と述べ、共同通信が短く配信した。新聞で報じたのは、「産経」だけだ。虚偽報道の責任を考えれば、どの新聞よりも大きく報じるべき朝日は、26日夕刊でも全く伝えていない。NHKは奥氏を取材済みであるにもかかわらず、これまた伝えていない。
なぜ伝えないのか。朝日が吉田発言を取り消し、長男が碑を書き換えた、つまり、慰安婦問題はその第一歩から間違っており、強制連行など全くなかったということを認めたくない、知らせたくないからであろう。慰安婦問題の真実は知りたくない、知ってしまえば日本を非難できなくなる、日本は朝鮮人を強制連行して酷い目に遭わせた国だと信じ続けたい、そのような屈折した精神構造ゆえではないのか。
だからこそ奥氏は言うのだ。被告人として裁かれるとき、韓国法廷で朝日の虚偽について詳しく証言すると。韓国人に、朝日の報じた慰安婦強制連行も吉田氏の話も嘘だったとしっかり伝えたいと。
偏狭な民族主義
奥氏が興味深いことを語った。
「吉田氏建立の碑を、今回書き換えたものも含めて完全に撤去するために、私はこちらで民事訴訟を起こそうと思います。これは実は韓国の警察の助言なんです」
もう一点、氏は天安西北の警察で、今回の出頭に日本の官憲は強く反対しただろうと質された。氏はこう答えたそうだ。
「逆です。外国のことでも、罪を犯したのなら、出頭して償ってこいと言われました」
すると、韓国の警察が、「日本の警察は我々の理想だ」とほめたという。
今後は、しかし、それ程甘くない。奥氏にこれから何が起きるのか、懸念せざるを得ない。韓国の政治状況を見ると、決して楽観できない。文在寅大統領は選挙のときから、大統領になった暁には、まず積弊を一掃すると公約していた。積弊とはこれまで積み重ねてきた国家の弊害、つまり、親日的主流派を一掃して、日本の罪を厳しく問う韓国を作るということだ。
前大統領の朴槿恵氏を正当な理由もなく逮捕し、収監し、裁判にかけている現状を見れば、韓国で司法が正常に機能しているとは到底、言えない。加えて、韓国では「反日」が政権の求心力を高める方策になる。文氏はすでにそのことを活用しているのではないか。
7月に韓国で封切られる韓国映画「軍艦島」は、かねて懸念されていたように、酷い捏造に満ちている。徴用工に関しては労働者の強制連行も虐待も奴隷的労働も全くなかった。日本人と朝鮮人は、明治の最も先進的な技術で建設されたあの小さな島で、肩と肩が触れ合うような密集状態で共に助け合って生きた。
それを、日本人が多くの朝鮮人を死に追いやる次元まで奴隷労働させたと、映画は主張する。歴史を歪め、捏造して日本に歴史戦を挑み続けるのが、韓国であり、そのような反日の気運を盛り上げるのが文政権である。そうした反日歴史戦に力を注ぐ彼らの偏狭な民族主義を思えば、奥氏の訴えは、韓国においては報道されず、闇から闇へ葬り去られる可能性がある。だからこそ、日本側は伝え続けなければならない。